「衝動」
改稿しました。ピスとソドの戦闘の様子などが追加されています
「「さて」」
ソド、ウィザの二人が不敵にほほ笑む。ピスがしまったと逃げようとした時にはもう遅い。さっきからピスは逃げおおす機会をうかがっていたが、ウィザかソドのどちらかがピスのことを監視するような目で見ていたのでとても逃げられる雰囲気じゃなかった。ウィザの剣舞の練習の時、ソドもウィザも復習に集中していたのではないかとはたからは見えるだろうが2人とも優先的にピスを視界に入れることだけはやっていたのである。それに一回こういう場面で本当に逃げた時にウィザに一瞬に氷漬けにされ1週間ほど意識が戻らなかったこともある。とほほと ピスは内心思う。今日何度目の光景なんだろう。
「どうしてもやらなきゃダメ?」
ピスが弱々しく二人に尋ねる。とてもタビの術練学校の首席とは思えないセリフだ。
「いくら、フィロス先生が大会を勧めてくれたからって、自分でもちゃんと克服する努力はしないとね」
「そうだぞ、ピス。どうしてもダメでも俺たちが止めてやるからさ」
ピスは2人の顔を交互に見やった。2人を信頼してないわけではない。むしろ2人の得意な魔剣術は見ている限り、ピスの腕と遜色なくなってきている。だからといってもし二人の身に何かあればと思うとためらってしまうのだ。
でも腹をくくるしかない。2人はピスの将来のことを考えて自身の危険も顧みずに協力を申し出てくれている。すこしでも二人の気持ちに応えないと。
「わかったよ」
2人は無言でうなずいた。すこし緊張しているが信頼してくれと顔に出ている。
ピスが裏庭の中央へと進み出る、それを取り囲むように2人が立った。
「一応最初に結界魔法かけておくよ。効果はあんまりないと思うけど」
「おう、頼むウィザ」
敵意を込めていないので今の時点ならピスの「衝動」も反応することはない。あくまで動きを止めるだけに限定してある結界魔法だった。
フーっと大きく息を吐き方の力を抜いてリラックスする。棍をわずかに浮き上がらせてトンと地面をたたいた。これはピスの戦闘を始める警鐘だ。周りに注意、自分に地近づくなというある種の威嚇。自分から戦闘をする態勢になる場合には昔から必ずこの動作を行っていた。
途端にあたりに突風が吹いたような錯覚を起こさせる。かまいたちと形容してもいいほどの鋭い威圧。そばに一般人がいたらこの恐ろしさだけで気を失っていただろう。恐ろしいほどの殺気だった。さっきまでの弱音を吐いていた青年とは全くの別人だ。ウィザとピスはピスが棍で地面をたたいた瞬間から一瞬の気もゆるめずに剣を構えている。
「ピス、自分の「衝動」をうまく制御しろ!」
聞こえているのだろうか。今のピスにはそのソドの呼びかけにも一切身じろぎしなかった。
「ピス、自分の魔力を自然に体の外に放出して! 自分の体を自然と動かせるイメージを持って!」
ウィザの甘くも張りつめ緊迫した声にも反応しなかった。
と、ソドが無意識にまばたきをしようとした瞬間、いつのまにかピスはソドの懐にいた。姿勢を低くし両手を引いている。後は棍をソドの喉元に刺すだけの態勢になっている。結界魔法も最初に地面をたたいた時に消滅させてしまったようだ。棍の先を見ると先ほどまではなかった鋭利な鉄の刃がギラリと光っている。おそらく鋼鉄魔法で周囲のマナを凝縮し生成したのだろう。もはやピスにはほとんど意識が残っていない。普段の弱気なところも「棍を選んだ」優しさも残っていない。今ソドの目の前にいるのは恐ろしい戦闘人形だった。
長年、ピスが「魔術」と「剣術」の授業にだけ出たがらない理由、彼が進学するかどうか迷う理由がこれだった。
殺人衝動だ
ピルス・アルトリア。これが彼の本名だ。親は人間種の父とエルフ種の母。父の家系と母の家系は代々人間とエルフが多く結婚する家系であった。なぜそれがわかるのか、別に両家系が由緒ある名家だったわけではない。たまたま物好きな先祖が自分のルーツを知るために今までの系譜をまとめ上げ、子孫もこれに倣い自分の系譜を書き足していっただけだ。中産階級よりも少しだけ裕福といった程度で、特別生まれが特殊だったわけではない。
5歳になる前、つまり基礎学校に入る前になのだが、両親がものは試しとピスにナイフを持たせ、鍛錬させようとした。ところが幼児とは思えぬほど俊敏な動きで父の喉めがけてナイフを突き立てた。幸いなことにまだ動きは大人と比べれば大したことはなかったので両親二人で抑えることができた。父がナイフを弾き飛ばし、母が魔法でピスを縛ったのだ。しかし、驚くべきことにその際に母親の拘束魔法でさえ反対魔法で相殺しかけた。両親はどちらも魔剣術の腕前はいい方だったけれども、ピスが基礎学校を卒業するころには追い抜かれてしまった。
ただ、ここでピスにとって最大の幸福が転がっていた。ピスの両親は驚きこそすれこのピスの行動を怖がりはしなかった。ピスの持っていた剣をあっという間に取り上げると二人はピスを挟み込むように抱きしめたという。
ピスの両親はその日から仕事の合間を縫いなんとか殺人衝動を制御できないか試行錯誤を重ねた。その過程で周囲の人々にピスがいかに普段はおとなしく争いを好まないか、ピスの中の「衝動」が何をさせれば起きるのかを浸透させていった。その結果現在に至るまでこの恐るべき衝動を制御は完璧にできなくても、少々イタズラ好きなところがあるが周りにピスは普通の人だと理解させることに成功した。
ソドやウィザはもちろんその両親や、ケンタウロスのフィロス先生、学校の友達などは衝動を起こさないように気を付けこそすれ、普通に接してくれた。おかげでピスも性格が歪まずに済みこんな少年へと成長することができたのである。
現在でも「衝動」は完全には制御できていない。しかし自分の体を無理やりいうことを聞かせることには成功していた。最初から自身の一割しか体を動かさないと暗示をかけ、指の一本からはてはまつ毛の一本にまで神経をめぐらせ、ようやく全開状態の半分くらいにまで力を抑えることができた。おかげで魔剣術の授業において成績は学年でトップだった。しかしその代償はもちろん存在する。それがピスが魔剣術の授業をさぼりたがる理由だった。
精神的摩耗。全身全霊をかけて体に力を入れ、殺すなと命じる。勝手に動き出そうとする体の筋肉がちぎれそうになるほど痛む。脳が割れるように痛みだす。数えたらきりがない。授業が終わるたびにピスは性根尽き果て倒れた。おかげで寝込むことが数多い。
先生もそれを配慮して(また、ピスの魔剣術の才能が抜きんでていることは周知の事実だったので)口頭試問など知識をためすことだけで成績をつけ常にピスは主席に立っていた。
しかし、それではこの先の将来が危うい。この世界で魔剣術がいかに大切かは先のフィロス先生とのやり取りで知っていよう。そう危惧した親友のソドとウィザは付き添って衝動の克服を試みた。




