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第十章:新仏の墓

 中の郷の普在寺は、本所のはずれ、やや寂れた場所にあった。

 日が傾き、あたりはすでに薄暗くなり始めている。

 寺は小さい。だが、門構えや本堂の屋根は新しく、妙に羽振りが良さそうだ。

 近頃は武家と同じように寺社の内証ないしょうも苦しいはずであった。門前町があり地代が入ってくるような名所にうたわれるような寺社ならいざ知らず、本所のはずれにあるような寺にしては、少し不自然な金回りの良さであった。


 半七の琴線に触れるものがあった。いや、確信を深めることになったというべきであろうか。なんともちぐはぐな印象を受けるのである。


 さて、その普在寺の門前もんぜん左手に、小さな花屋があった。


 しきみや線香を商う、墓参り客相手の店だ。

 しきみは、仏教系でよく扱う樹木で、強い香気を放ち邪気除けとして使われた。強い毒性も持つため最近ではあまり見なくなったが、今でもお香の材料として使われており、その匂いには触れることができる。(ご焼香で、炭にくべるアレである)


 半七は、その店先で足を止め、店番をしていた小娘に、人懐こい笑みを向けた。


「お嬢さん。ちと、線香としきみをひと組、もらおうか」


「はい、ありがとうございます」


「ここのご住職は、覚光さん、といったな。お若い方だそうだが、ご熱心かね」


「さあ……。でも、お参りの方は、近頃ずいぶん増えたようです」


 小娘は、愛想よく答える。


「そういえば、ここには本所から、お国さんという髪結いさんが、よくお参りに来るそうじゃないか」


「ええ、よくいらっしゃいます」


 小娘は、あっけらかんと頷いた。


「では、同じ本所から、善昌様という、尼様がお見えになることは?」


 ぴたり、と小娘の手が止まった。


 が、すぐにまた動き出す。


「……さあ。尼様は……」


「隠すこたあねえ。わっしらは、ちと、その尼様からお使いを頼まれてな。今、ご住職のところに、おいでかな?」


「いえ……。今日は、お二人とも、まだ……」


 小娘がそう言いかけた時、奥から「誰と話してるんだ」と、しわがれた婆さんの声がした。


 半七は、「おう、ありがとうよ」と、線香としきみの代金を放り出すように置き、熊蔵に目配せした。


「行くぞ」


 二人は、買ったばかりの線香と樒を手に、普在寺の墓地へ入った。


 墓地には、もう秋の虫が鳴き始めている。


「親分。この線香と樒、どうしやす」


莫迦ばか。捨てるわけにもいくめえ。そこの無縁仏にでも供えておけ」


 半七は、そう言いながら、石塔の間を縫うように、奥へ奥へと進んでいく。

 その目は、獲物を探す鷹のように、鋭く地面を調べていた。


 墓地の、一番奥。


 紫苑しおんの花が、数本、ひょろひょろと咲いている。


 その足元に、それはあった。

 まだ、真新しい。


 昨日か今日に、掘り返され、慌てて埋め戻された土。


 卒塔婆そとばの一本も立っていない、不自然な盛り土だ。


「……熊や」


 半七は、立ち止まった。


「ここに供えろ。こいつぁ、正真正銘、昨日今日の『新仏』だ」


 熊蔵は、ゴクリと唾を飲んだ。


 半七は、その盛り土の前にしゃがみ込み、小声で、だが、確信を込めて言った。


「……ここだ。ここにお国のこうべがある」

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