第五章:神田へ呼び出し
善昌は殺されたのだ。
誰の目にも、それは明らかであった。
あれほどの寄進が集まったのだ。その金子を目当てにした強盗が押し入り、抵抗した善昌を殺害した。そう考えるのが筋であった。
それにしても、首を斬り落とし、持ち去るとは。
あまりに残酷な仕業である。
家主の通報で、町役人が駆けつけた。
首のない尼の死骸は、ひとまず六畳の間に横たえられ、検視を待つことになった。
床板をひっくり返し、縁の下を隈なく探させたが、ついに善昌の首は見つからなかった。
さて、ここ本所・松坂町は、朝五郎という男の縄張りであった。
だが、この朝五郎、あいにく前日から、千葉の親類の不幸に駆けつけるため、旅に出ていたのである。
「朝五郎が不在では、致し方あるまい」
「神田の半七に使いを出せ。あやつなら、この難儀な殺し(ヤマ)も何とかするだろう」
こうして、神田三河町の御用聞き、半七のもとへ、急使が飛んだのである。 半七は、ちょうど来合わせていた子分の熊蔵を伴い、すぐに現場へ飛んだ。
盂蘭盆の十六日。
朝から空は抜けるように晴れ渡り、八ツ(午後二時)過ぎの日差しは、肌を灼くように暑かった。
二人は、額の汗を拭い、両国橋を急ぎ渡る。
回向院の門前は、藪入りで帰省した小僧や手代てだいたちで、ごった返していた。 「ここの閻魔えんま様は、相変わらずのはやりですな」 熊蔵が、人の波を見ながら言った。
回向院の閻魔堂は、十六日の地獄の釜開きに合わせ、「出世閻魔」と銘打って開帳される。小僧たちがこぞって参詣するのは、いわば「上司」である閻魔様にゴマをすり、一日も早い出世を願う、江戸っ子らしいゲン担ぎであった。
「はやるのは結構だが」
半七は、汗を手ぬぐいで拭いながら、吐き捨てるように言った。
「閻魔様も、ちったあ睨みを利かせてくれねえと困らあ。盆の最中だっていうのによ、人殺しなんぞをしでかす奴がいるんだからな」
弁天堂に着くと、狭い露路は、内も外も、この世の終わりでも見るような野次馬で埋め尽くされていた。
「御用だ、御用! 道を開けろ!」
熊蔵が声を張り上げ、人の垣根を押し分けて進む。
蒸し暑さ、人の熱気、そして、死の匂い。
そのすべてが混じり合った、むせ返るような空気の中、検視の町役人たちもすでに出張ってきていた。




