エピローグ:蛇の正体
「……と、まあ、そういうわけで。あの寮は、蛇の巣というより、人間の欲の巣でございましたよ」
半七老人は、茶をすすり、話を締めくくった。
「その後、裁きはどうなりました」
「後家のお糸は、吟味中に牢死しやした。六蔵は、入墨の前科者でもあり、死罪。張本人の由兵衛は、主家の身代乗っ取りの企み、ということで、引廻しの上、獄門に掛けられやした」
「良次郎は?」
「あいつは、主命でよんどころなく、というのと、日頃の孝行心が認められ、お上の御憐愍で、厳しく叱り置く、というだけで、家主に引き渡されやした。おきわさんも、無事に親類に引き取られたそうで」
「なるほど……」僕は、ひとつ、大きな謎が残っていることに気づいた。
「老人。では、あのお通が見たという、一丈もの大蛇は、いったい何だったんでしょう」
老人は、悪戯っぽく、片方の眉を上げた。
「さあ、それがあっしにも分からねえ。……例の寮は、親類の手で、すぐに取り壊されやした。土蔵も崩しやしたが、そんな大蛇がいたという痕跡は、とうとう見つからなかったそうで」
「では、お通の、見間違い……?」
「おきわさんも、土蔵の中では、そんな蛇は見たことがねえ、と言い張りやした。……まあ、お通という娘が、薄暗がりで、怖じ気に憑かれて見た、まぼろしでやしょう」
老人は、そう言ったが、その目は笑っている。
「あるいは」と老人は付け加えた。
「本当に、あの土蔵には、何か『ヌシ』がいたのかもしれやせん。人様の、あまりの悪行に愛想を尽かして、どこかへ立ち去っちまったのかも。……蛇の正体なんぞより、よっぽど恐ろしいのは、生身の人間の方でございますよ、先生」




