表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/427

第四章:両国の河童

「ちっ、降ってきやがった!」

 半七は舌打ちし、再び家の中へ引っ返した。


「夕立ですから、すぐに止みましょう」

 お浪が入口の戸を閉める。


 狭い家の中に、線香の煙が渦を巻き、蒸し暑さが充満する。息が詰まるようだ。

 半七は扇子で暑さを追い払いながら、晴れ間を待った。

 やがて雨が小降りになったのを見計らい、お浪が差し出す傘を断って、手拭いをかぶり、尻を端折はしょって表へ出た。


 ぬかるみを飛び飛びに渡りながら、両国橋を越える。

 川向うの広小路は、今の夕立で、すっかり人が引けていた。こも張りの見世物小屋は、ぐっしょりと濡れている。

「河童」の小屋は、心太ところてん屋の婆さんに教えられ、すぐに分かった。


「白藤源太、河童に遭う」とでもいうような、柳のつつみで相撲取りが河童と出くわす絵看板が、雨に濡れて物悲しく揺れていた。


 表はもう閉まっている。裏の楽屋口へ回ると、楽屋番の爺さん(六助)が一人で後片付けをしていた。


「よう、六助さん。まだ生きてたか」


「おや、半七親分! ご無沙汰を。へえ、どうもあの『お化け屋敷』の楽屋は風儀が悪うござんして、こっちへ移りやした」


「そうか。……ところで、うちの幸次郎は見えなかったか」


「幸さんなら、お見えになりました。いや、それで楽屋の者も心配しておりやして」


「河童を連れて行ったか」


「へえ。すぐに帰すとはおっしゃいやしたが……。河童が素直に行かねえもんですから、無理にだまして連れておいでに」


「あの河童、名は? 歳は?」


「本名は長吉ちょうきちと申しまして、十五で。なんでもこの一座が四、五年前、信州の善光寺ぜんこうじへ乗り込んだ時に、拾ってきた子だとか。親はねえそうで」


「親父もか」


「へえ。親父は長吉が生まれると間もなく……。高い声じゃあ申せやせんが、なんでも悪いことをして、お仕置き(死罪)になったそうで」

「ふむ。……で、この頃、その河童(長吉)を誰か尋ねてきた者はねえか」


 六助は、雨音に耳をすますように少し考え、やがて思い出したようにうなずいた。

「ありやす、ありやす。廻国かいこくの、六部ろくぶのような男が」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ