霧の中の小さな光
今、ハルがまだ交渉を続けている場所から遠く離れた、別の場所で、
沼津市の反対側では、全く対照的な一団が動いていた。
…
カツ…カツ…
当初の計画通り、黒鉄のグループは街の反対側に到着し、行動の準備を始めていた。
かつての街の瓦礫の中で、家財道具が濃い泥の上でぐつぐつと煮え立ち、
少しずつアスファルトが溶けていき、すべてを濃い茶色の中に飲み込んでいく。
そして周囲には、嵐の朝よりも濃い白い煙がびっしりと立ち込めていた。
…
カツ、カツ.
「ここで一旦停止だ。」
「全員、警戒を怠るな。」
「必要がなければ戦闘を避け、何か異常を感じたら即座に撤退せよ。」
周囲の兵士とは対照的に、黒鉄は表情ひとつ変えず、ただ静かに周囲の環境を注意深く観察していた。
…
「了解!」
後続の兵士たちも徐々に散開し、小さなエリアを取り囲むように配置につく。
全員の姿が確認できる位置を確保しつつ、
常に武器を握り、周囲を監視し続けていた。
…
コツ…コツ…
一方で、いくつかの小グループは一時的な防衛エリアから少し離れた場所へ進出していた。
大半は近くの崩れた建物の周りに散開し、
一部だけが大きな木片に沿って泥の近くまで進み、観察を行っていた。
…
…
だが彼らはそのまま、奇妙なほど静かな空間の中で動きを止めていた。
街の中心部には、音ひとつ響かない。
周囲に何も現れない。
防衛位置を維持したまま、兵士たちは小声で雑談を交わし始める。
黒鉄自身も疲れを感じ始めていた。視界は制限され、敵の姿はどこにもない。
そして、
…
コツ、コツ…
ハガネハラ中佐がゆっくりと近づいてくる。手には数台の大型通信機と、10歳の子供の拳ほどの小さな端末がいくつか握られていた。
「リクオさん。」
「やはり何かおかしいことが起きています。」
「先ほどからあらゆる周波数を試し、異なる通信機器に換えてみましたが、」
「結果はすべてこうです。」
ザー……ザー……
…
黒鉄の顔に皺が浮かび、親指で軽く目をこすり、近くの壁に背中を預けた。
「すべて無駄か……」
「見えず……聞こえず……」
「通信にも異常が出ている。」
「この状況……」
「あまりに奇妙ではないか?」
…
パラパラパラ……
ハガネハラは手にしていた端末をすべて地面に落とし、ゆっくりと体を低くする。
「やはり隊長も気づいていましたか。」
「我々もその可能性を検討しています。」
「ここは偵察から得た情報とは大きく異なっています。」
…
「何を発見した、サンジョ?」
…
ハガネハラの目が軽く細められる。
「率直に言わせていただきます。」
「映像から見た怪獣の特性を考えると、明らかにすべてを破壊し尽くすタイプではありません。」
「方法は不明ですが、周囲が一部泥化するか自然に崩れるのを待ってから動き出す傾向があるようです。」
「毒が獲物の体中に回るのを待ってから動く狩人のようなものです。」
…
ハガネハラは視線を街全体に巡らせ、いくつかの瓦礫の建物を指差す。
「しかしその基準で考えると、この周囲の破壊状況は異常です。」
「瓦がめくれ、壁が粉々になり、真新しい焦げ跡があり、岩には奇妙な切断痕がある。」
「そして何より、もしあの怪獣が本当にすべてを破壊したのなら、」
「なぜ我々が立っているこのエリアには、泥の水たまりひとつ、泥の痕跡ひとつないのでしょうか?」
「これらの点から、私は……」
…
ガタッ.
黒鉄は迷わず体を起こし、遠くで大半の部隊が待機している方向へ視線を戻す。
「怪獣以外の者が動いている。」
「そして現状を考えると、」
「街の両側から進撃した我々の二部隊は……」
「すでに奴らの罠に入っている。」
…
ハガネハラは背筋を伸ばし、黒鉄から目を離さない。
「失礼ながら……」
「現状から判断するに、その可能性は低いと考えます。」
…
「どういう意味だ?」
…
ハガネハラは遠くの泥の方向へ手を向ける。
「隊長もご覧の通りです。」
「もし敵が本当に我々を攻撃するつもりなら、」
「先ほどから何度も行動の機会があったはずです。」
「しかし現在に至るまで、怪獣すら一度も現れていません。」
「つまり、我々が主目標ではない可能性が高い。」
「あるいは……」
…
コツ…コツ…
黒鉄の目が突然見開き、拳を強く握りしめ、泥の方を向いて待機している部隊の方へ体を向ける。
「サンジョ、すぐに合流しろ!」
「直ちに中央の者たちと再集結せよ。」
…
「了解!」
…
隊長の手は強く握られ、奥歯が噛みしめられる。
この瞬間、黒鉄の頭の中では無数の思考が次々と繋がっていく。
情報も通信も阻害されている状況で、
自分たちの側には敵が現れず、近くで交戦の音も聞こえない。
つまり、ハルくんの側に深刻な問題は起きていない可能性が高い。
もし何かあればコウカが一人にはしないし、ハヤサキも同行している。
だが逆に言えば、中央の部隊とも連絡が取れない可能性が高い。
今、戦える上に、あの子と親しい者の大半が不在だ。
カワサキとイシカワだけでは、時間稼ぎにも限界がある。
つまり、
今シノミを狙うことは、奴らにとって十分可能だ。
何か起きる前に急いで戻らなければ。
…
…
ザッ……!
今や黒鉄の小部隊の全員が背筋を伸ばし、長い列を成して立っていた。
誰もが拳を握りしめた隊長から一瞬たりとも目を離さない。
…
スッ……
「隊長、」
「緊急の報告があります。」
隊列の中から一本の腕が上がる。
…
ハガネハラが軽く首を傾げ、その兵士を見る。
「君は……もし記憶が正しければ、」
「合同訓練の事故の日に、頑固に帰らなかった連中の一人だな?」
…
カツ、カツ
周囲の兵士たちよりも若い二人が列からゆっくりと離れ、二人は、まだ奇妙な黄色い液体が少し残った瓶を手にしていた。
「はい。」
「シラカワ・ナツメです。隣がツキオカ・アヤノです。」
「現状がかなり緊迫しているようなので、」
「すべてを簡潔に報告させてください。」
…
「どうぞ。」
…
シラカワは軽く頭を下げ、再び姿勢を正した。
「ありがとうございます、隊長。」
「まず、巨大な泥の外縁に沿って、奇妙な黄色い水たまりを発見しました。」
「我々が読んだ簡易報告によれば、泥の上に黄色い液体が浮いているのは極めて異常です。」
「特に泥の表面に、空の瓶が黄色い液体の上に浮いているのを確認しました。」
「そしてご覧の通り、それは全く泥化していません。」
…
ピンッ.
二人の頭にいくつかの考えがよぎり、二人の唇が同時にわずかに緩む。
「よくやった!」
「瓶と液体の両方を必ず研究ステーションに持ち帰って詳細に分析させろ。」
…
「それは必要ないと思います。」
「なぜなら……この瓶の中身は明らかに食用油です。」
「発見した時点で基本的な分析装置でも確認済みです。」
…
( ゜_゜)
その場にいた全員の頭が空白になり、体が固まったままアヤノの持つ瓶を見つめる。
そして全員の頭に同じ疑問が浮かぶ。
「食用油……本当か?」




