自分にできること
「この鎌を外せないなら……」
「敵の懐に突っ込むなんて考えるな。」
「諦めろ。」
「お前みたいな弱者に、一体何ができる?」
…
ブチッ…ブチッ…
頭の中を回る言葉など無視して、
俺は必死に、鎌に絡め取られた手を引き抜こうとした。
手に絡みつく糸を一本一本引きちぎろうとするが、
引けば引くほど糸は太くなり、手を完全に締め上げていく。
…
ググッ…
そこで俺は、代わりに、、
嵌まっている鎌の方へ手を伸ばした。
たとえ今の手が傷だらけでも、
たとえ血が流れ始めていても、
ここで……足止めされているわけにはいかない……
…
ズブッ.
だが、泥の中から
巨大な目が突然浮かび上がり、周囲を見回す。
怪獣の体が泥の中からゆっくりと浮かび上がり、
少しずつ、少しずつ、
俺の方へ真っ直ぐ向かい、
徐々に近づいてくる。
…
ガシャン…ガシャン…
そして最悪のことに、
足音がどんどん近づいてくる。
霧に包まれた赤い血の跡の上に、黒い鎧の姿が徐々にはっきりと現れる。
…
反射的に、俺はすぐさま、
俺は咄嗟に、嵌まっている岩の後ろへ身を潜め、
できるだけ身を隠した。
まずい……
今度は……どうすれば……
何も……思いつかない……
…
…
そして、
すべてが、奇妙なほど静まり返った。
音ひとつしないが……
…
カン…カン…
「おい。」
「そこで死ぬつもりか?」
「恥を知らないのか?」
奇妙な鞘が、嵌まった鎌を何度も叩いている。
…
俺が隠れている岩の上に、
いつの間にか、黒い浴衣に黄色い花柄の男が立っていた。
口には棒を咥え、鞘で鎌を何度も叩きながら、
目を細め、顔をしかめて真っ直ぐ俺を見下ろしている。
…
「そこは危険だ!」
「早く降りてこい!」
「でないと奴らが……」
…
フッ……
「何をするというんだ?」
「発見?攻撃?殲滅?」
「笑わせるな。」
「俺の能力から逃れられないなら、神だろうが……」
「俺の斬撃の練習台にすぎない。」
男は岩の上にどっかりと座り、
一度も視線を逸らさず、
鞘から刃を抜く素振りも見せない。
…
その時になってようやく気づいた。
周囲を見渡すと、
すべてが停止している。
影は微動だにせず立ち尽くし、
遠くの岩の塊が空中に浮かんだまま、
泥の波紋も止まったまま、進まず、消えもしない。
鎌に付いた血の滴も、いつの間にか
真っ直ぐな線になって宙に浮いている。
…
ズドンッ!
「細かいことはどうでもいい。」
「今俺の目に障るのは……」
「お前だけだ。」
男が突然地面に飛び降り、
視線を真っ直ぐ俺に向けたまま。
…
んんっ……
何が起きている?
なぜ唇が動かない?
いや、唇だけじゃない。
体全体が……なぜ……
動かないんだ!?
…
カツ……カツ……
「もう説明は聞かない。」
「十分見た。」
「俺はあいつらみたいに優しくない。」
「だから……恨むなよ……」
男は俺の周りを回りながら、そして。
…
ドゴォッ!
鞘の柄が真っ直ぐ俺の腹に打ち込まれる。
何だ……なぜ……
その痺れが徐々に体全体に広がっていく……
そして男は、
「なぜそんなに弱いんだ?」
「いつも他人に戦ってもらってばかりで。」
「恥を知らないのか?」
「もしあの人が消えたら、お前はどうするつもりだ?」
…
…
ドゴォッ!
「なぜ考えない?」
「お前は頭がいいんじゃないのか?」
「馬鹿でも、この状況で正面から突っ込むのが自殺行為だとわかる。」
「なぜその目で観察し、
その頭で考えない?
お前は全員の足手まといになるつもりか?」
二度目は、今度は背中から柄が打ち込まれた。
痺れは前より強く、
痛みが体中に広がるが……
意識はもう、それに構っていられなかった。
…
…
グイッ.
今度は男が俺の髪を掴み、
顔を近づけてくる。
「聞くぞ。」
「なぜ自分の能力を使わない?」
目が見開き、頭の中がほとんど空っぽになる。
能力は……確かにある。
だが……まだ……
…
はぁ……
男が手を離し、徐々に後ろへ下がる。
背中を俺に向けたまま、
「俺の能力は万物を静止させる。」
「名前なんて知ったことじゃない。」
「使えばすべてが止まる、それだけだ。」
「だから使う。」
「後の結果がどうだろうと知ったことじゃない。」
「目的を達成できればいい。」
…
カツ……カツ……
男が再び俺の目の前を行ったり来たりする。
目を細め、俺が立っている場所をじっと見据える。
「タカシがブリキの箱にメッセージを残してたんじゃないのか?」
「なんだっけ……再構築だっけ?」
「自分の望む物に変えるだけだろ?」
「わざわざややこしい名前を付ける必要あるか?」
「副作用なんて誰が気にするんだ!
人生は短い。そんな生き方を続けてたら……
得るものより失うものの方が多くなるぞ。」
…
そんな……
再構築が……そんなに単純なわけが……
前回は……
…
あ~~~!
男が突然足を止め、
目を固く閉じ、両手で耳を塞ぐ。
「鬱陶しい!」
「細かいことはどうでもいい!」
「これを別の物に変えるだけだろ。」
「わざわざ複雑にするな!」
…
「タカシは未来が見えるなら見えるままでいい。」
「マキは電気を使って戦えるならそのまま使えばいい。」
「ケンジは極端に体を強化できるならそれで十分だ。」
「だから……」
…
トンッ!
男は今度は、俺の胸を真っ直ぐ指差した。
「お前が再構築できるなら……」
「好きなように、何もかも変えてみろ……」
「これが無理なら別のを試せ。」
「理解できるまで試せばいい。」
…
…
もし……本当にそれほど単純なら……
もし……自分が本当にできるなら……
それなら……あの壁を……
何か別の物に変えたら……どうなる……
…
サラサラ……
…
ニヤッ…
突然、男の姿が徐々に薄れていく。
「ほら、できたじゃないか。」
「もう俺たちがお前と入れ替わる必要もない。」
「負けるなよ。」
「次に会う時は、
全員で……お前と……
すべての始まりの地で……」
…
…
ズルッ…
俺の体が突然、男の残像の方へ倒れ込む。
頭が少しふらつき、足に力が入らない。
一体……さっきのことは何だったんだ?
…
意識が戻ると、
右手の指が再び動くようになっていた。
だが、なぜか少し奇妙な感触がある。
まるで手に大量の砂が付着しているような。
…
ゆっくりと体を起こし、壁の方を振り返る。
鎌は今や地面に落ちていた。
岩の亀裂はそのままだが、
奇妙なことに、
鎌は完全に砂に覆われ、
亀裂からも砂が少しずつ流れ落ちている。
…
ガシッ……
俺は体を低くしたまま、周囲の岩を伝い、
近づいて鎌を拾い上げる。
付着した砂を少しずつ払い落としながら、
自分の手から目を離せない。
これは……まさか、自分がやったのか?
…
ガブッ!
顔を上げた瞬間、目に飛び込んできたのは、
怪獣の巨大な黒い影と、人の死体でできた巨大な山。
さっき見た連中が、同じ場所にいて、
あの魚のような怪獣が、また大きく口を開け、
地面ごと飲み込む。
…
待て。
この光景……前に見たことがあるんじゃないか?
なぜ……一体……
…
ギュッ.
いや。
そんなことは一旦横に置け。
今集中すべきはただ一つ。
この状況で、自分は何をすべきか。




