暫定作戦
長い廊下を抜け、ペンキの色あせた建物を横切り、
僕たち二人は広い部屋へ足を踏み入れた。
…
ざわざわ…ざわざわ…
周囲は暗闇が隅々まで覆い尽くし
遠くの大きなスクリーンだけが、唯一の光を放っていた。
そして、どこもかしこも人でびっしりと埋まっていた
…
「すごい人だな。」レンが目を丸くして周りを見回し、手を眉の上に当てる
「今日は何かの祭りでもあるのか?こんなに集まってるなんて。」
「それとも……」
「まさか俺たちの歓迎パーティーとか?」
…
「お前な……」目を細めてレンの方をちらりと見る
「さっき目が覚めたばかりで、それしか思いつかないのか?」
「俺たちが学生の頃の遠足にでも来たつもりか?」
「そもそも俺たちは遅刻してるんだぞ。」
「誰かさんが寝坊しすぎたせいでな。」
…
「悪かったよ。」レンが目を細め、背中を少し丸める
「そんなに根に持つなよ。」
「どうせ友達同士だろ。」
…
「……」顔をそむける
…
(ಡ‿ಡ)
「あ」レンが急に近づいてくる
「もしかして……」
「お前の背中……」
「田中さんにだけは寝てもらいたいとか?」
…
「お前……」顔をしかめてレンの方へ向き直る
…
パンッ!
「全員、静粛に!」聞き覚えのある声が部屋中に響く
…そして周囲の音がすべて止まった
…
…
コツ…コツ…コツ…
大きなスクリーンの右側から、長身の影が現れる
一歩一歩、中央へ向かって進み
視線を巡らせて部屋全体を見渡す
「諸君。」黒鉄さんが背筋を伸ばして立つ
「多くの者がまだ戸惑っていることだろう……」
「何人かはすでに事態を把握しているはずだ……」
「そして何人かはすでに作戦案を練っていることだろう。」
「だからこそ……」
「本題に入る。」
…………
「今朝8時37分、内浦湾において」
「一体の怪獣が確認され、近くの住宅地へ向かって進行していた。」
「派遣された偵察艦艇は、接触後ほぼすべてが連絡を絶った。」
…
「そして同日午前10時7分……」
「この怪獣は直接、沼津市へ上陸した。」
「そこの防衛線を完全に壊滅させ、同時に……」
「街全体を自らの潜伏場所へと変えた。」
……………
パッ.
大きなスクリーンに一枚の写真が映し出される
奇妙な魚。頭頂部に出目を持ち
黒く光沢のある皮膚が陽光を反射し
前の二枚のひれで巨大な体を泥の上に引きずり、
後ろの体もかなりの長さを有していた。
「全員、スクリーンに注目せよ。」黒鉄さんが手をスクリーンへ向ける
「これが今回の怪獣について得られた最も鮮明な画像だ。」
「そして、その通り……」
「外見は我々の知るトビハゼに極めてよく似ている。」
…
…
ワハハハハ!
大きな笑い声が部屋中に響き
次々と顔に笑みが広がっていく
「今日は特別訓練でもあるのか?」
「誰も海に遊びに行く準備だなんて教えてくれなかったぞ?」
「隊長もずいぶん冗談が好きだな!!!」
…
魚の画像が少しずつ縮小され、
その背後に、次々と崩れ落ちていく建物が映し出される。
看板が泥に沈み、道路は完全に砕け散り
遠くには、湾の見慣れた山並みが浮かび上がる
…
そして今や、誰一人として音を発さなくなっていた
…
…
「得られた情報によると、」黒鉄さんが目を細めて周りを見回し、両手を後ろに組む
「ほとんどの無機物がこの魚に接触すると、」
「正確に言えば、この魚が分泌するある物質に触れると、」
「極めて短時間で泥状に変化する可能性がある。」
「しかし研究班の実験結果では……」
「有機物と純度の高いムツゴロウは影響を受けないようだ。」
…
サッ!
「隊長。」群衆の中から一本の腕が高く上がる
「もしそれが事実なら……」
「相手は基本的にただの怪獣じゃないですか。」
「俺たちが出撃するだけで十分処理できるのでは?」
…
「同意する。」黒鉄さんが軽く頷く
「確かに本質的には、この魚はそれほど危険な怪獣ではない。」
「我々のような部隊なら十分に対処できる。」
「だが、」
「もしそれがそれほど単純なら、」
「この会議自体が必要なかったはずだ。」
…
パッ.
大きなスクリーンの映像が切り替わり
短い録画が流れ始める。音はほとんど聞こえない。
だが、それも重要ではなかった。
なぜなら……
…
誰もがその録画から目を離せなくなり、瞬きすらできず
体がわずかに後ずさり、顔が青ざめていく
「あいつ……俺たちを……食ってるのか……?」
「あれは……本当に怪獣なのか……?」
「銃弾が全部無効化されてるのか……?」
「どうやって壁が崩れるのを知ってたんだ……」
「そんなことどうでもいい!」
「それより何より……」
「なぜあんなに落ち着き払ってるんだ!?」
…
パンッ!パンッ!
「落ち着け!」黒鉄さんがわずかに顔をしかめる。
…
部屋の音が再び止まる
…
「今回の怪獣は、これまで対処してきた怪獣とは明らかに異なる行動を取っている。」黒鉄さんが体を回して周りを見る
「沼津市へ派遣した偵察隊はすべて撃破された。」
「録画から明らかなように……」
「あいつは視界に入るものすべてを破壊するタイプではない。」
「むしろ獲物を狩る獣に近い。」
…
スッ…
「あの……」聞き覚えのある声が耳元をかすめ、別の腕が軽く上がる
「それなら……」
「餌を使っておびき寄せるのはどうでしょう?」
「罠に誘い込んで……陸地に引きずり出して……」
「あるいは……餌で毒を盛るとか?」
…
はぁ……
「その方法を考えなかったわけではない。」黒鉄さんが腕を組み、両目を閉じる
「現在も軍はまさにその方法で湾内に足止めを図っている。」
「だが、毒を盛る案は諦めた方がいい。」
「現状の人員では不可能だ。」
…
ざわざわ…ざわざわ…
人々の間で小さな囁きが広がる
「今日は隊長たちが新兵選びに来るんじゃなかったのか?」
「さっきまでは結構人がいたのに。」
「数分前まで後方支援部隊が食堂の点検に下りてたはずだが。」
…
パッ.
大きなスクリーンが再び映像を変える
今、全員の目の前に黒い煙を上げる高層ビルが現れ
街のあちこちで、無事な建物の間に瓦礫の山が広がり
土石が砕け散り、消火する者もいないまま、炎の柱が立ち上っている。
そして海側の防壁は、すでに高く引き上げられていた
「残念ながら、」黒鉄さんが口元を歪めて笑う
「他のすべての部隊は大都市の防衛に動員された。」
「つまり、この戦いは我々だけだ。」
…
(`・ω・´)ゞ
「だが、それが我々があの魚の生け贄になることを意味するわけではない。」黒鉄さんが目を見開いて周りを睨む
「現在の任務は、偵察と情報収集だ。」
「必要とあれば戦闘に参加するが、あくまで直接対峙は避ける。」
「そして最優先事項は、あれを当面の間、湾から出させないことだ。」
「全員、了解したか?」
…
「了解!」周囲の全員が背筋を伸ばす
…
「出発時間は10分後だ。」黒鉄さんが力強く腕を振る
「全員、武装を整えろ。」




