招かれざる客(一)
[時間を巻き戻す]
[内浦湾 – 午前8:37]
…
ピッ.
「こちらカモメ・ワン。」
「目標は沼津市へ直進中と報告。」
「推定サイズは不明。」
「視界は完全に制限されている。」
「緊急避難誘導を要請する。」
…
ピッ.
「要請を受信した。」
「全市に緊急避難命令を発動する。」
「防壁を直ちに起動する。」
「同時に全偵察部隊に即時撤退を命じる。」
…
ザザーッ…
「……」無線からは何の返答も返ってこない
…
ピッ.
「各部隊。」
「直ちに状況を報告せよ。」
…
…
ピッ.
「こちらカモメ・フォー。」
「報告する……」
「エンジンが……全停止しました……」
「船体……現在徐々に沈み始めている……」
「他の部隊は……」
…
ピッ.
「了解した。」
「正確な座標を教えろ。」
「救助ヘリをできるだけ早く向かわせる。」
…
はぁ……はぁ……
「もう……間に合わない……」
「あいつは……もうここにいる……」
…
「皆さんに……」
「幸運を。」
ガガガッ…ガガガッ…
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
ウーウーウーウー
街中にスピーカーの音が鳴り止まない
赤い光があちこちで鮮やかに輝く
海岸線では、高さ20メートルの巨大な防壁が徐々に姿を現し
陸地と海面を隔てていく
…
ダダダダッ…ダダダダッ…
家々は今や人影を失い
多くのテーブルには、まだ半分残った食器が置かれたままだ
長い人の列が、大きな門の方へ次々と駆け込んでいく
その両側では、緑の服を着た兵士たちが立って守っている
…
「皆さん、注意してください!」緑の服の兵士が車の屋根の上で腕を高く掲げる
「押し合わないで、押しのけないで!」
「できるだけ冷静を保ってください!」
「全員分の場所は十分にあります!」
...
...
同時刻、遠くの建物の一角で
小さな部屋の中、書類の山が積まれた場所
一人の男が小さな窓から外を眺めている
大きな門へと続く人の列を見つめて
…
コツ…コツ…
「市長様!」一人の女性が突然男に近づく
「現在の避難進捗は50%を超えています。」
「このまま15分以内に避難が完了する見込みです。」
「全市の地下水道は全て封鎖済みです。」
「また、指揮所を除く市内の電力は全て遮断されています。」
…
「市長様、すべて準備は整いました。」女性が軽く頭を下げる
「もう安全な場所へ移るべきかと。」
「残りは軍が引き受けます。」
…
「それでは礼を欠くだろう。」男が両手を後ろに組む
「お客様が来ているのに、誰も出迎えないなど……」
「あまりに失礼すぎる。」
…
「我が街へ来た貴賓を、できる限り熱烈に歓迎しなければ。」男が女性の方へ顔を向け、満面の笑みを浮かべる
「それが礼儀というものだ!」
…
「承知いたしました!」女性の目が軽く細められ、背中は低くかがめられたままだ
…
…
ザバァッ!!
沖合で、海水が急に黒く濁っていく
巨大な背びれが、まるで海面を切り裂くように現れる
白い泡がその周囲を覆い尽くす
…
「撃て!」
ドォン!ドォン!ドォン!
周囲の大型艦が一斉に背びれへ向けて主砲を放つ
陸地からも、白い煙に覆われた場所から炎が海面へ向かって放たれる
火薬の臭いが辺り一面に立ち込める
水面からは、白い水柱が次々と背びれの周りに上がっていく
…
…
ザブン!!
突然、背びれが海面の下へ身を沈める
白い泡の痕跡がわずかに残るだけとなり
水面は今や静まり返る
…
ピッ!ピッ!ピッ!
艦上では、誰もが水面から目を離さない
何人もの兵士が銃口を四方へ向け続け
他の数名はレーダー画面から視線を外さない
…
ピピーッ!!…ピピーッ!!…
「報告します!」一人が席から立ち上がり、レーダーから目を離さない
「目標はまだ撃墜されていません!」
「現在も沼津市へ進行中です。」
...
「具体的な位置は特定できるか?」勲章をつけた男がレーダーの方を振り返る
…
ビシッ!
「現状ではそれは困難かと。」男が画面から立ち上がり、額に手を当てる
「この生物の現在位置はレーダー上で十分に予測可能ですが」
「相手が現在水中に潜伏しているため」
「視界は大きく制限されています。」
「この状態での射撃は極めて困難です。」
…
「艦長。」別の白服の兵士が男を振り返る
「我々は今、どうすべきでしょうか?」
「追撃を続けるべきでしょうか?」
...
ストン!
「とりあえず全船舶に撤退を命じろ!」男が椅子に体を沈める
「最寄りの港へ部隊を集結させろ。」
「同時に海水のサンプルを採取し、技術研究班へ送れ。」
…
「しかし、閣下……」一人の兵士が席から立ち上がる
「現在これだけの艦艇戦力があります。」
「地上部隊と連携すれば、十分に……」
…
ドン!!
「無謀だ!」男が拳を椅子に強く叩きつける
「追撃して、その後どうするつもりだ?」
「現状の武装と人員で、我々に何ができるというのだ?」
「イージスもない、フォロックスを扱える者もいない。」
「情報はさらに曖昧だ。」
「敵の黒い水域に踏み込むだけでもすでに不利だ。」
…
「……」部屋中の視線が男に集中する
…
スッ…
「まずは戦力の確保が最優先だ!」男が軽く椅子に体を預ける
「できるからといって、無謀な賭けをしてはならない。」
…
「了解!」声が部屋中に響き渡る
…
…
ヒューーーッ!
青空の上で、白い航跡が雲の間を切り裂くように伸びる
小さな黒い点が黒い水域の上を何度も旋回する
そして光学観測ポッドが、海面から目を離さない
…
ザッ……
「こちらカナリア。」飛行機の上の小さな人影が黒い水域から目を離さない
「敵はまだ完全には姿を現していない。」
「取得した映像は全て転送中だ。」
「以上。」
…
ザザッ……
「映像受信を確認。」レーダー側から声が返ってくる
「現在、最寄りの第八チームへ転送中。」
「各部隊は目標の追跡を継続せよ。」
「同時に安全高度を維持せよ。」
…
ザッ……
「了解。」




