新たな嵐の前の静けさ
コツ…コツ…
周囲は再びいつもの景色に戻っていた
陽光が辺り一面を照らし
木々が落とす木陰
見慣れた建物へ続く、少し銀色がかった黄色い通路
…
コツ…コツ…
黒鉄さんの肩で、レンはまだ目を固く閉じ、腕をだらりと伸ばしたまま
後ろではコウカがずっと私を見つめ続け
両手を胸の前で軽く揃え、少し距離を取っている
まるで黒鉄さんを避けるように
………
「なぁ、春くん。」黒鉄さんが真正面を向いたまま言う
「最初に配られた箸とスプーン、まだ持ってるよな?」
…
コツ…コツ…
「はい。」私は黒鉄さんの方へ顔を上げ、少し首を傾げる
「僕たち全員、使った後はちゃんと洗って」
「いつも荷物の中にしまってあります。」
...
「それは良かった!」黒鉄さんが笑いながら私の方へ顔を向ける
「荷物を受け取ったら、すぐハガネハラに渡してくれ。」
…
「はい。」私は軽く眉を寄せる
「でも急にどうしたんですか?」
「全部返したら、食事はどうするんですか?」
…
ピタッ…
「そういう細かいことは気にしなくていい!」黒鉄さんが体を傾けて私に言う
「後で持ってきてくれればそれでいい!」
「それにさっきも言っただろ?」
「今日は……」
…
カツ…カツ…
「遠くから見たら侵入者かと思ったぞ。」廊下の奥から声が響く
「なんだ、お前か、リクオ?」
…
…
私はゆっくりと廊下の奥の方へ視線を移す
目の前に現れたのは、道全体を塞ぐほどの大男
頭が天井に届きそうなほど背が高く、口元に整った金色の髭
手首には大きな腕時計が光っている
…
「普段は新兵選抜の場に直接顔を出すことなんて滅多にないくせに?」黒鉄さんが微笑む
「今回はどうしてわざわざ自分で来たんだ?」
「しかも早いじゃないか。」
「トウジョウ?」
…
ハハッ…
「まぁな!」巨漢の男が軽く髭を撫で、口元を緩める
「人手がどれだけ足りていないか、お前もよく知ってるだろ。」
「手が遅れれば他のチームに良い人材を取られるぞ?」
…
「それに。」男の視線がまっすぐ私に向けられる
「こういう仕事はいつでも部下に任せられるものじゃない。」
「時には自分の目で直接確かめないとな。」
…
スッ……
「まぁその話は一旦置いておこう。」男が突然レンの方を指差す
「毎年、こっそり基地に忍び込む奴がいるんだよな?」
「セキュリティを強化しても毎年同じ問題が起きる。」
…
ヒラヒラ…ヒラヒラ…
「毎年同じことの繰り返しだな?」黒鉄さんが目を細め、手を軽く振る
「強化しても警備を増やしても毎年起こる。」
「ただしこの二人に関しては……」
「俺が自分で連れてきたんだ。」
…
…
ギュッ……
「なんだと……」男の顔に深いしわが刻まれ、拳を強く握る
「今の言葉は冗談だよな?」
「以前、チーム9の基地の奥深くまで侵入された時は……」
「どれだけ面倒なことになったか、わざわざ思い出させる必要はないよな?」
…
グッ…
「それに。」男の目がゆっくりと開く
「下の方には新兵がまだ知ることを許されていないものが多すぎる。」
「チームに入った後でも、入れるかどうかは別問題だ。」
「そこがどれだけ危険か、お前自身もわかっているはずだろ?」
「チーム8の隊長、黒鉄。」
…
バッ!
「下がってください、トガミ様!」コウカが突然私の前に飛び出し、二本の剣を男に向ける
「このような無礼者には……」
「言葉を無駄にする必要はありません。」
…
…
……ん?
「珍しいな。」男が動きを止め、目を見開きながら腕をゆっくり下ろす
「ハイドロ・ファラックスが自ら個人を守るなんて。」
「しかも新兵の女性が。」
「これは一体……」
...
はぁ……
「まったく。」黒鉄さんが軽くうつむき、口元を緩める
「なんでいつもそんなに早とちりするんですか?」
「僕が一言も言わせてもらえないじゃないですか。」
…
「……」男が軽く顎に手を当て、首を少し傾げる
…
ハッ!
「まさか!」男が目を細めて私を見る
「この少年が、セツナに初めて認められたパイロットか?」
...
ゆさっ…
「違いますよ!」黒鉄さんがレンの体を軽く揺らす
「私が言ってるのは、ここで寝てるこいつですよ。」
「春くんのことは話すと長くなるんで。」
「わかりますよね?」
…
「それに、トウジョウ……」黒鉄さんが目を細めて男を見る
「僕がこの子たちを下の方に連れて行って」
「好き勝手させるとでも思ってるんですか?」
…
ハハハ…
「まぁそうだな。」男が軽く後頭部を掻く
「とにかく、チーム8の基地だけは侵入されてから5分以上経ったことがない。」
「ハガネハラのあの蔓は本当に役に立つ。」
…
ハハハ…
「確かにそうだ!」黒鉄さんが軽く腰に手を当て、顔を上げる
「昔はほとんどのチームがあいつの能力を馬鹿にしてたのに。」
「直接戦闘では確かに強くないが……」
「それ以外の部分に関しては……」
「また別の話だ。」
…
「あ、そうだ。」男が軽く両手を広げる
「今年はチーム8がかなり優秀な人材を取ったって聞いたぞ。」
「あのパイロット以外にも、創造的な奴が何人か……」
「器用な奴もいて……」
「それに、2人か3人くらい目覚めた奴がいるんだろ?」
…
ポン!
「5人だよ!」黒鉄さんが軽く私の背中を叩く
「春くんも含めてな!」
…
「そんなに多いのか?」男が軽く首を傾げる
「今年は期待できそうだな?」
…
「もう時間だな!」男が腕時計に視線を落とす
「じゃあ俺は先に行くぞ!」
「良い人材を他のチームに全部取られるわけにはいかないからな!」
コツ…コツ…
そして巨漢の背中は廊下の角を曲がって消えていく
…
…
「……」私は目を見開いたまま、その背中を見つめる
…
コツ…
「興味津々か、春くん?」黒鉄さんが私の横に並び、腕を組む
...
「あ、いえ……ただ……」私は少し後ずさる
…
ハハハハッ!
「隠さなくていいぞ!」黒鉄さんが天井を見上げて笑う
「初めて会う奴はみんな同じ反応するさ!」
「でも仕事に関しては……」
「あいつ以上に信頼できる人間はいない。」
「一緒に仕事してみればすぐにわかるよ……」
「今はとりあえず……」
…
ドサッ!
「この道の突き当たりまで行けば、訓練キャンプに戻れる。」黒鉄さんがレンを私の側に押しやる
「俺たちはちょっと別の準備があるんでな!」
「後でまた会おう!」
...
「こいつもちゃんと起こしといてくれ!」黒鉄さんがレンの背中を指差す
「能力評価には参加しないけど……」
「全部隊がチェックしてる最中に寝てるなんて……」
「恰好悪いだろ!」
…
クイッ!
「ちゃんと起こせよ!」黒鉄さんがレンの服の襟を軽く掴む
「チーム8の評判がかかってるんだぞ!」
…
「は、はい……」私は目を見開きながら小さく頷く
「頑張ります。」
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廊下は再び人影がまばらになる
陽光が路地から徐々に引いていく
周囲の木の枝が凍りついたように静まり返る
…
コツ…コツ…
「少しやりすぎじゃありませんか?」コウカが首を傾げて黒鉄を見る
「チーム8は新兵選抜の初日からふざけることで有名だったはずでは?」
「なんでわざわざ釘を刺すなんて……」
…
「コウカ……」黒鉄さんが軽く唇を曲げ、背中をコウカに向ける
「少し強引だったかもしれないが……」
「セツナは今すぐ出撃可能か?」
…
「それは私も確かではありません。」コウカが軽く顎に手を当てる
「あれは主に小林さんが意識をはっきりさせて操縦席に座れるかどうかによります。」
…
「なら問題ない。」黒鉄さんが眉をしかめる。
「すぐにイージス・ネメシスの準備を進めろ!」
「コウカはセツナの安定に集中してくれ。」
「できるだけ早くだ!」
…
「私たちは合意したはずでは……」コウカの歯がきつく噛み締められる
「私はトガミ様の命令だけを受けます。」
「そして彼の利益のためにだけ行動します。」
「それ以外は関係ありません。」
...
パカッ!
黒鉄さんが小さなモニターをコウカの方へ差し出す
泥が周囲一面へと広がり始め
他のどの部分よりも濃い巨大な黒い塊
その背中に沿うように大きな背びれが
…
…
「勘違いするな!」黒鉄さんの顔が徐々にしかめられる
「俺たちのためにやるんじゃない。」
「春くんとあいつのために準備するんだ……」
「あれが動き出す前に。」




