多面体のプリズム(三)
ここが…どこ…
暗くて…
動けね…
…
何も…
見えね…
声が…
出ない…
…
眠い…
…
…
カッ――
突然、一筋の光が俺の目に差し込んだ
…
ドドドドドド…
音が空間中に響いている
かすかな声があちこちから聞こえる
「こちらは――」
「現在、目標地点へ向かっています」
「どうか持ちこたえてください」
…
ウィィン…
数字が突然あちこちに現れる
次々と画面が開いていく
円形の表示が回転している
そして一つの声が響く
「了解」
…
「何なんだこれは?」そんな考えが一瞬よぎった
…
ドォン!!
周囲が激しく揺れている
金色の煙が視界全体を覆い尽くす
…………
ザーーーーー…
…
目の前には金色に輝く機械の手
鋭く尖った指
目の前でくるくると動いている
………
ザーーーーー…
…
ズシン…ズシン…
巨大な影が俺へと突っ込んでくる
周囲は鱗と長い角に覆われ
牙をむき出しにして迫ってくる
………
ザーーーーー…
…
ジジジジ…バチバチ…
肩の先には巨大な金属の体が続いている
鉄の体には断線した回路が無数に走っている
…
目の前には折れた角が広がり
黒い塊が亀裂の奥深くに沈んでいる
………
ザーーーーー…
…
ゴォォォ…
バララララ…
俺の周囲を無数の小さな光点が旋回する
回転翼の下で光が瞬く
そして一つの声が辺り一帯に響き渡る
「ご覧ください!」
「我々の恐怖は…」
「我々の絶望は…」
「今日、この日をもって終焉を迎える!」
…
ガガガガガ…
一つの光点が俺の目の前に近づく
「もう誰も一人で戦う必要はない!」
「毎晩不安に怯える必要もない!」
「今日から…」
「守護者が我々の傍に降臨した…」
…
「人類の新しい未来…」
「アストラル!」
…
ワァァァァァァァッ!!!
奇妙なざわめきが辺りを包む
…………………………………………………………………………………………………………………………
ザーーーーー…
周囲が突然闇に包まれる
全てが静止したかのようだった
この体も、動きを止める
…
ギギギギ…
奇妙な階段がゆっくり近づいてくる
その上に、二つの奇妙な人影
一人は胸いっぱいに輝く勲章を付け
もう一人は黒いスーツ姿
…
スッ…
「発表会は成功と言えるな?」スーツ姿の男が俺の方へ手を差し出す
「民衆の反応は非常に好意的だ」
「支持率もかなり上がっている」
…
うーん…
「…」勲章の男が顎に手を当て、目を細めて俺を見る
…
「どうかしたか?」スーツ姿の男が首を傾げる
…
「性能については異論はない」勲章の男が軽く首を振る
「だが、本当に安全なのか?」
「人間が完全に制御しているわけではない」
…
「ご安心ください」スーツの男が軽く頭を下げる
「人間を攻撃しないよう厳密にプログラミングしてあります」
「万一の事態が起きても…」
「我々は簡単に上書き命令をかけられます」
…
フッ…
「随分と用意周到だな」勲章の男が目をやる
「本当に都合が良すぎる!」
「食品会社にしては…」
「な?」
…
「過分な褒め言葉です!」スーツの男はまだ顔を伏せたまま
「我々はただ…」
「持っている全てを活用して…」
「全ては人類のために!」
…
「人類のため…か?」勲章の男が俺に背を向ける
「ではこれを大量生産できるのか?」
…
「もちろん!」スーツ姿の男が背筋を伸ばし、手を胸に当てる
「いくらでも作れる」
…
「ただ…」スーツ姿の男がわずかに口元を吊り上げる
「一つのAIを作るコストは決して安くない!」
「特にアストラルのAIはかなり…」
「特殊だ」
「加えて原材料も…」
「フォロックスは陸にあるわけじゃないからな!」
…
フッ…
「条件を言ってみろ!」勲章の男が目をやる
「検討しよう」
…
コツ…コツ…
「さすがに鋭い方だ!」スーツ姿の男が近づいてくる
「ご安心ください」
「我々が必要なのはただ…」
……………………………………………………………………………………………………………………………………
ザーーーーー…
周囲に明かりはもう残っていない
音も全く聞こえない
残っているのは空っぽの廊下と
至る所に広がる銀色の金属だけだ
…
トトッ…トトッ…
通路の向こうから小さな光が差し込む
小さな影が俺の前に徐々に現れる
そして小さな囁き声が響く
「これが俺のアイデアだって!」
「じゃあなんでお前らついてきてんだよ?」
「お前のせいだろ!」
「勝手に買い出しなんか行くからだろ!」
「先に逃げろ!」
「隊長に見つかったら全員終わりだぞ!」
…
トン…トン…
他の音が至る所で響き始める
次々と灯りが現れ始める
そして一つの声が辺り一帯に響き渡る
「俺は知ってるぞ、お前らここに隠れてるんだろ!」
「早く出てこい、許してやる!」
「もう隠れるな!」
…
ピタッ…
小さな影たちが俺の目の前で突然止まる
光が一瞬で消える
全員がくるりと周りを見回す
「どうしよう?」
「どうしようよ!?」
「どうしようよ!!!」
「今度こそ一ヶ月当直確定だぞ!」
「もうレーションばっかりは嫌だ!」
…
ガシャン…
俺の体が突然動き出す
いくつかの数字が跳ね回る
金色の手がゆっくりと小さな影たちを包み込む
…
全員が慌てて辺りを見回す
「何が起こってるんだよ!」
「アストラルが暴走か?」
「終わった…」
…
…
トン…トン…
「変だな!」懐中電灯を持った男が辺りを照らす
「さっきまで確かに誰かいたのに!」
「別の方向に逃げたのか?」
「それとも俺の勘違いか?」
…
…
懐中電灯の光が廊下から離れていくと
全ての音が突然止まる
…
小さな影たちが俺の肩から出てくる
一歩ずつ肩から降りていく
…
ふぅ…
「マジで終わったかと思ったぞ!」緑の服の男が額に手を当てる
「助かった、隊長が離れてくれた!」
…
「全部お前のせいだろ!」もう一人の緑の服の男が目をやる
「大人しくしてればこんなことにならなかったのに!」
「そういえば…」
「あいつがいなかったら…」
…
「待てよ…」緑の影たちが俺の方を振り返る
「もしかして…」
「まさかこいつが…」
……………
ザーーーーー…
…
朝の陽光が窓の隙間から差し込む
奇妙な管が至る所に伸びている
…
シュッ…
水が次々と俺の体に注がれる
あちこちが白い泡でびっしり覆われている
…
スッ…スッ…
あちこちで小さな緑の影たちが
布や長い柄の道具を持ち
白い泡の上をそっとなぞっている
……………
ザーーーーー…
…
緑の影たちが俺を囲むように座っている
小さな食事用のトレーが並べられている
その後、他の小さな影たちが近づいてくる
…
タッ…タッ…
「なんでお前らこんなものの前で飯食うのが好きなんだ?」廊下の方から声が響く
…
「ここの方が食堂より涼しいんだよ!」緑の影たちの唇に笑みが浮かぶ
……………
ザーーーーー…
…
スッ…
「よし!」一人が俺を指差す
「もう一回やろうぜ!」
「俺はタカシだ」
…
タタタッ…
「俺はヒイロだ!」一人が勢いよく前に飛び出す
…
パサッ…
「俺はマコト」緑の影の一人が隣の仲間の首に腕を回し、引き寄せる
「この無口な奴はコウジだ」
…
スッ…
「で、お前は?」全員が俺を見上げる
…
「コード:001」俺の方から声が響く
「アストラル…」
…
ハハハ…ハハハ…
緑の影たちが地面に顔を伏せ
腹を抱えて
満面の笑みで俺を見上げる
…
「違うって!」タカシが指で目元を拭う
「3班から聞いたぜ!」
「お前らはみんな同じ人から作られたんだ」
「みんな名前を持ってるんだよ」
「あっちは自分でアカギって名乗ってるらしい」
…
「ただあいつは俺たちと同じくらいの大きさだけどな!」マコトが手を横に伸ばして長さを示す
…
「いや」ヒイロがマコトの指差す方向を見て目を細め、顎に手を当てる
「むしろ俺たちより低いだろ!」
…
そっと…
「じゃあ、お前は?」コウジが俺に近づいてくる
「名前、絶対あるだろ」
「な?」
…
…
ウィン…
金色の腕がゆっくりと自分を指差す
「俺…」
「俺は…」




