表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静時の流れ - 潮騒の誓約  作者: Minateru
始まり – 試練を越える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/76

小さな選択

さわさわ…さわさわ…

目の前に広がるのは、一面に緑が広がる田園。

人々が腰を曲げ、手を伸ばして働く姿

所々で黄金色に色づき始めた稲穂

遠くから子供たちの影が遊んで走り回っている

……

コツ…コツ…

「今日は何の用で来たんだ?」

一人の影がゆっくり近づきながら、腰に下げた鎌に手を置く

「まさか暇すぎて遊びに来たなんて言うんじゃないだろうな!」

……

はははっ…

少年は腰に手を当て、空を見上げ、目を細める

「今さらやりたくなっても、もう無理だぞ!」

……

「……」俺は目を見開き、周囲を見回し、体が硬直する

……

「やはり初めてか」

少年は顔を下げ、軽く首を振る

「お前も前のガキどもと同じだな」

「まあ、何人かの例外を除いて、だけど」

……

「ここは…」俺は無意識に唇を動かし、少年の方を見つめる

……

ブンッ…

少年が突然鎌を田んぼに向かって投げる

草木の生い茂る中から、大きな黒い塊を引きずり出す

次々と、俺の方に向かって飛んでくる

……

ドサッ

「……」俺は体を低くし、歯を食いしばり、両手で黒い塊を受け止める

……

ジャラジャラ…

「まずは仕事だ…」

少年は鎖をゆっくり引き戻しながら、黒い塊を指差す

「面倒なことは後で考えようぜ?」

……

ジージー…

きゃっきゃっ…わいわい…

青々とした田んぼの合間で、幾つもの影が動き回る

子供たちが田んぼの間を追いかけっこして走り回り

虫の声が四方八方に響き渡る

……

ズシッ…ズシッ…

はぁ…はぁ…

俺の足跡が土に深く刻まれる

全身に汗がびっしょりと滲み

体を折り曲げ、黒い袋を地面に置く

唇を強く噛み、必死に前を見つめる

……

スタ…スタ…

俺の前を進む少年は振り返りもせず

両腕に大きな黒い塊を抱えている

その後ろには、足跡一つ残っていない

……

ドサッ

はぁ…はぁ…

俺は長い道の途中で崩れ落ち、黒い袋を地面に落とす

体を伸ばして空を見上げ

指一本すら動かせなくなっていた

……

すっ…

「たったこれだけで音を上げるのか?」

少年が俺の前に屈み込み、目を丸くして笑う

「マキよりよっぽど弱いじゃないか!」

「これで他の奴らの力に耐えられるわけないだろ!」

……

さっ…

「ほら!立てよ!」

少年が俺の前に手を差し伸べる

「お前、いつまでもそこに寝てるわけにはいかないだろ?」

……

「……」体が動かない、まぶたも閉じられない

……

「随分と余裕だな?」

少年は顎に手を当て、首を傾げて俺を見る

「お前がここに来た時、周りの状況は全部落ち着いていたとでも言うのか?」

……

ハッ

俺の目が大きく見開かれ、指がゆっくりと握り締められる

頭の中に、あの光景が逆再生されていく

……

ガバッ

俺は必死に体を起こし、手で地面を押して立ち上がろうとする

足を縮め、体を無理に持ち上げ

自分の喉から言葉が飛び出す

「怪物…あの目…」

「ダメだ…このままじゃ…」

……

ピンッ!

少年が突然指で俺の額を弾く

「落ち着いたか?」

……

「でも…」俺はまだ立ち上がろうと地面を押す

……

「大丈夫だ」

少年は俺の頭に手を置き、微笑みながら目を細める

「ここでは、すべてがあっちよりゆっくり進むんだ」

……

「それって…どういう意味だ…?」

俺はゆっくりと体を回し、周りを見回す

「どうして…こんなことが…?」

……

「うーん…」

少年は立ち上がり、顎に手を当てて地面を見つめる

「どう説明したらいいかな…」

「マキもなんか言ってたよな…脳の速度とか…」

……

「まあいいや!」

少年は顔を上げ、まっすぐに俺を見つめる

「そういうのは今はどうでもいい」

「今、本当に重要なことはただ一つ…」

……

「戸上 ハル」

少年は静かに俺の肩に手を置く

「お前は何のために足掻いてるんだ?」

……

「……」俺の目が大きく見開かれ、体が凍りつく

「兄さんは…何を言ってるんだ…?」

……

スタ…スタ…

「この世に永遠の命などない」

少年は田んぼの方へ歩きながら言う

「すべてはいずれ終わりを迎える」

「どれだけ強かろうと、どれだけ威風堂々であろうと、どれだけ卑劣であろうと…」

「すべての運命はあらかじめ決まっている…」

……

ぱしっ…

「……避けられない結末だ」

少年は稲の中から何かを掴み取る

……

コツ…コツ…

「しかし…」

少年は両手を合わせ、ゆっくりと俺に向ける

「時には、その結末まで行く必要などないこともある」

「俺たちの選択一つで、見えていた結末すら変わることがある。」

……

「そして時には…」

少年は合わせた両手を俺の方へ差し出す

「本当に大きなものほど…」

「最も小さな選択から始まるんだ」

……

すっ…

俺の手がゆっくりと少年の手へと伸びる

指の隙間から、小さな影が現れる

一匹の小さな虫が、そこで丸まっていた

……

「これをどうする?」

少年は微笑みながら俺を見る

「逃がしてやるか?それとも握り潰すか?」

……

ぎゅっ…

俺の顔が徐々に歪み、少年の手を強く握りしめる

……

「覚えておけ…」

少年は田んぼの方を見つめながら言う

「もし生かしてやれば、そいつは作物を食い荒らす」

「でももしそうしなければ…」

……

ふわっ…

遠くの田んぼの上に、小さな虫がふわりと飛び立つ

「時には、もっと美しいものが見えるかもしれないぞ」

少年はその光の点を目で追う

……

「……」俺の手が止まり、中をじっと見つめる

……

グイッ!!!

「……」俺は少年の手を強く握り

両手を開き、太陽の光を中に通す

……

パァッ…

田んぼ全体が黄金色の光に包まれる

稲穂が一斉に黄金色へ染まり

すべてが光の中に溶けていく

無数の光の粒が、あらゆる場所を覆い尽くす

……

ははっ…

「お前は本当に変わってるな!」

少年は微笑み、目を細めながら光の粒の中に溶けていく

「でも…」

「もしかしたら…」

「それが俺たちに足りないものなのかもしれない…」

…………………………………………………………………………………………………………………………………………。

周囲にはガラスの破片が散らばっている

黒い枝が部屋の中に縮こまっている

壁にはまだ爪痕が残り

床は赤い血で染まっている

……

キラッ…

怪物に絡みついていた鎖が突然輝き出す

黄金色の光が部屋全体を照らす

……

ピカッ…

コウカの手には、青く輝く剣が握られている

その光が怪物に向かって照らされ

一本の細い光の線がハルへと繋がっている

……

ふふっ…

「……」コウカは小さく微笑み、目を丸くしてハルを見る

「これで四人目ですね」

「やはり、あの方がおっしゃった通りです」

……

シャラ…

ハルの髪が黄金色の光を帯び始める

鎖が腕全体を伝っていく

……

パァッ…パァッ…

輝く光が空間全体を包み込む

怪物の牙がゆっくりと縮み

ひび割れが形を変えていく

怪物の体が徐々に小さくなっていく

……

パァッ…

光が徐々に穏やかになっていく

鎖がハルの方へと戻っていく

そして、ひび割れた床の上に

服がボロボロに裂けた一人の人間が横たわっていた

……

ガシャンッ…

後ろから、複数の人間が立ち止まり、こちらを見つめる

手に持っていたものが次々と落ちる

目を見開き、喉が凍りついたように固まる

ただ一言だけが、静かに響き渡った

「嘘…だろ…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ