忘れられるべき影
ぽた…ぽた…
分厚いガラスの向こう側
そこはベッドが隙間なく並び、人影で埋め尽くされていた
すぐ傍らに置かれた金属の塊たち
赤い煙が人の影すべてを覆い尽くし
体に沿って走る赤い直線
……
ガラスの外側、人がまばらな廊下
白い光が隅々まで照らし出し
ガラスの前に長く伸びる二つの影
そしてもう一人の手にぼんやりと映る二つの小さな影
……
ずる…ずる…
時折、空間全体に響く音
壁に沿って細い黒い線が何本かうねり
そして来た時と同じように素早く消えていく
……
すっ…
「コウカ…」俺の体は無意識に後ずさり、目を見開いたまま動かせない
「これ…一体…」
「何なんだ…?」
……
「ご心配なく、トガミ様」コウカは微笑みながら、武器を俺の方へ近づけてくる
「これはただ単純に……貴方が疑問に思っていることへの、最も早い答えです」
……
「さあ、どちらがお好みですか?」コウカは両手のものを交互に見ながら言う
「右手の、錆びついた鎌…」
「刃全体が石でできた剣」
……
「これ…俺…俺は…」俺の手に力が入らず、体が凍りついたように動かない
「いきなりこんな…どうやって俺が…」
……
にこ…
「ご心配なく、トガミ様」コウカの唇が小さく微笑み、首を少し傾げながら言う
「これから何が起きようと……私はずっと貴方のそばにいますから」
……
する…する…
「……」俺は目を見開き、軽く首を巡らせて周囲を見回す
いつの間にか、天井一面に黒い直線が広がり始めていた
その先端はすべて俺に向けられている
……
「それらのことは心配しなくて大丈夫ですよ」コウカは天井を見上げながら言う
「普段は貴方に何もしませんから」
……
「……」俺の手がゆっくりと二つの武器の方へ伸びかけるが、体は大きく動かせない
……
ピピッ… ピピッ…
俺の両手が、武器のすぐ手前でぴたりと止まる
ガラスの向こう側から点滅する光
廊下全体に響き渡る音
黒い直線たちが、奥の部屋の方へと向きを変えていく
……
ガタガタッ…ガタガタッ…
まだ夢を見続けているベッドの間で
部屋の奥にある一つのベッドが奇妙に激しく揺れ始めた
体に繋がれていた紐が、次第にその人間の体から外れていく
……
バタバタッ…バタバタッ…
その人間の手がベッドの周りを激しく叩き続ける
体があらゆる方向にのけぞり、手が天井に向かって伸ばされる
体に走っていた赤い直線が徐々に緑色に変わっていく
小さな石の破片が体の上に現れ始める
……
シュッ!
黒い直線たちがそのベッドめがけて一気に突き進む
手首や足首の関節を絡め取り、締め上げる
その人間の体から緑色の線が急に方向を変え
すべてが一本一本の根のようなものへと吸い込まれていく
……
すっ…
「何が…起きているんだ…」俺の体はガラスからさらに離れ、目が一瞬たりとも瞬きできない
「一体…あれは…」
……
「何も恐れることはありません、トガミ様」コウカは静かにガラスの方へ体を向ける
「すべては完全にコントロール下にあります」
……
「コントロール…下…」俺の眉が寄り、首を少し傾げながら
「コウカ…」
……
ぐっ…ううっ…
その人間の目がゆっくりと開き始め、赤い線が網膜の周りに広がっていく
体が黒い線から逃れようともがく
緑色の煙があたり一面を覆い始め
口の端には白い泡が浮かび上がり
そして空間に響き渡る、底知れぬ怨嗟の声怨嗟の声
「いや…やめて…いやぁっ…!」
「どうして…どうしてこんな…どうして私だけが…!」
「私が…何をしたっていうの…! こんな目に遭う資格なんて…ないのに…!」
「いや…助けて…誰か…お願い…助けてよぉ…!」
「お願い…もう…許して…!」
……
「……」俺は重心を低く落とし、目を逸らせない
……
がああっ…!
緑の煙の奥から、廊下全体を震わせる憎悪に満ちた叫び
その影は次第に異形へと変わっていく
長い突起が影の中から突き出し
鋭い牙が点滅する照明の下で光る
黒い直線が残りのベッドすべてを巻き込んでいく
……
ピーーーッ…
すべての音が突然止まった
緑の煙がすべてを覆い尽くし
ベッドは次々と黒い繭へと変わっていく
繋がれていた紐が宙を漂い
計測器だけがまだ音を立て続けている
……………..
カラン…
鎌が床に落ちる音
コウカの腕から青い剣が現れる
「私の後ろにいてください、トガミ様!」コウカは俺の前に立ち、二本の剣を正面に向ける
「今の貴方にはとても危険です」
……
「え?」
……
ガシャーン!!
分厚いガラスが目の前で粉々に砕け散る
牙と爪が真正面に向かって伸びてくる
一つの影が空間すべてを覆い尽くす
……
「……」俺の体は像のように固まる
目が大きく開いたまま、大きく開かれた顎から離れられない
……
ガキィィン!!
火花が周囲の空間に飛び散る
俺の目の前を一つの影が覆う
黄金の剣が鋭い牙に真正面からぶつかる
「自分の立場をわきまえなさい!」コウカは顔を歪め、剣を牙の生えた顎に向かって突き出す
……
どさっ…
俺の体が後ろへ倒れ込む
目を見開いたまま、手があらゆる方向へ伸びる
「あれは…一体…何なんだ…」
…………..
ぐるるる…ぐるるる…
ガラスの破片が散らばる床の上
部屋の中は黒い線で塞がれ始め
廊下に残されたのは、緑色の煙に包まれた黒い塊だけだった
……
ギギギ…ギギギ…
長い直線が周囲の床を引き裂く
二本の長い角が緑の煙を突き破る
獣のようなシルエットがゆっくりと姿を現す
鱗と石が混じり合った体を覆い
大小さまざまな牙が全身から突き出し
緑色の電流が体中を走る
そして六つの白い目が、俺たちを真っ直ぐに睨みつける
……
「貴様ぁ…!」
怪物は牙と爪を俺の方へ向け、深い怨念を滲ませながら吐き捨てる
「どうして…まだここにいるんだ…!」
「何度も…何度も殺したはずなのに…なぜ貴様はまだここに…!」
……
しゃっ…
「それはお前たちには関係のないことだ」コウカは武器を怪物の正面に向ける
「亡霊は自分の場所で大人しくしていろ!」
「生きている者をこれ以上煩わせるな」
……
ぶる…ぶる…
「許せない…絶対に許せない…!」
怪物は首を激しく振り、体を震わせながら、声が壊れんばかりに叫ぶ
「お前たちのせいだ…全部お前たちのせいだ…!」
「呪ってやる…この世のすべてを呪ってやる…!」
「死ね…死ね…死ねぇぇっ!! みんな死んでしまえぇっ!!」
……
ドッ!!
「……」コウカは剣の切っ先を向け、唇を強く噛みしめながら怪物へと突進する
……
シュンッ!!
強烈な風が廊下全体を吹き荒らす
怪物の体がコウカの視線を飛び越え
牙と爪を俺に向かって伸ばしてくる
「あの子を返せ! 返せよぉっ!!」
……
「……」俺の目は大きく見開かれ、足が一歩も動かない
瞬きする間もなく、喉が凍りついたように固まる
そして無意識に腕を顔の前に上げてしまう
……
ガキィン!!
ゆっくりと、俺は上げていた腕を下ろしていく
目を凝らして前を見つめる
そこには橙色の鎖が何重にも張り巡らされ
怪物の爪が床に砕け散っていた
そして錆びついた鎌が、宙に浮かんだまま…
……
ズザザッ!
怪物が横の壁を滑りながら距離を取る
目を細めて俺を睨みつける
「この匂い…この感覚…」
「どういうことだ…?」
「なぜ貴様は…あいつと瓜二つなんだ…!」
……
「……」俺はゆっくりと体を起こし、視線を鎌から離さないまま、手を無意識に伸ばす
……
「トガミ様!」コウカが俺の方を振り返る
……
「……」俺の両手が止まり、前を見つめる
……
「どうか、俺たちの元へお戻りください」コウカは深く頭を下げながら、ゆっくりと腰を折る
……
ちょん…
俺の両手が、目の前の鎌へとゆっくりと伸びていく
錆びの欠片が鎌の刃から次々と落ち
古い氷のようなものが剥がれ落ちる
そして目の前に、鮮やかな青い光が輝き始めた




