Watcher(一)
コツ……コツ……
両側を緑の木々に覆われた道。
あちこちに、黄色い葉が散っている。
緑の制服を纏った兵士たちが各建物を囲んで走り回る
二つの人影が、すべてから遠ざかっていく
緑の木陰の奥へと、ゆっくり踏み込んでいく
……
ヒョコ……ヒョコ……
「コウカ…」足元がふらつき、コウカの肩に手を掴みながら
「結局…俺たちはどこへ向かってるんだ?」
…
コツ……コツ……
「さっき、自分で頼んだんじゃありませんか?トガミ様。」コウカが振り返り、唇に微笑を浮かべた
「口で言うだけなら誰だってできる…」
「だから代わりに。」
「実際に見た方が、早いですよ。」
…
ピタッ
「ちょうどいい。」コウカが突然足を止め、周囲へ目を向ける
「もう着きましたよ。」
……
俺の視線が周囲を巡る
どこもかしこも、緑の木々の葉ばかり
地面は今や黄葉で敷き詰められて
辺りには散歩する人影ひとつない
…
…
ギュッ……
「コウカ。」俺はコウカの肩をそっと掴み、目を見開いた
「何も見えないんだが…」
…
シーッ……
「少しお待ちください、トガミ様。」コウカが口元に指を立て、こちらをちらりと見る
「こういうシステムはだいたい時間がかかるものですから。」
…
「何が…システム?」俺は首を傾け、顔をわずかに顰めた
「一体…何のことを…」
…
するとどこからともなく、声が響いてきた
「Scan complete.」
「Identity confirmed.」
…
ピッ
小さな赤い点が突然、俺の胸元に現れた
「Identifying unknown unit.」
「Initiate…」
…
スッ……
「待ってください、セラフィム。」コウカが手を伸ばし、俺の胸の赤い点を遮る
「この人は敵ではありません。」
「スケジュールでは来週のはずでしたが。」
「いくつか事情がありまして、今回は早めに来ることになりました。」
…
…
スーッ……
赤い点がコウカの手のひらからゆっくりと消えていく
どこからともなく声が響く
「Authority recognized. 」
「Confirmed.」
…
ゴゴゴ……
目の前で、木々の葉が突然地面から盛り上がってくる
細かい砂がぱらぱらとあちこちに落ちていく
そして現れたのは、森の中に佇む大きなエレベーターの扉
「Welcome.」エレベーターの扉が開いた
…
「コウカ…」俺はコウカの方へ目を向けた
…
「さあ、トガミ様。」コウカが俺の手にそっと触れる
「あなたの仲間たちが下で待っています。」
「一緒に参りましょう。」
………………………………………………………………………………………………………………………………..
ウィーン……ウィーン……
エレベーターが地面の奥へとゆっくり沈んでいく
ガラスの周り、一面が茶色に覆われて
時折、白い光の筋が流れていく
…
「トガミ様…」コウカがエレベーターの扉の方へ目を向け、両手を組む
「ご自身で不思議だと感じたこと…」
「…何かありましたか?」
…
「不思議…とは?」俺は背をガラスの扉に預け、顎に手を当てる
「実はそんなに多くはないけど…」
「あらゆることって、すでに誰かが解明しているんじゃないのか?」
…
「そうですか?」コウカが微笑み、目を閉じる
「では一つだけ、簡単な質問をさせてください。」
「この星に存在する人間と他の種族…」
「結局のところ、何が違うんでしょう?」
…
ポリポリ……
「それは…」俺は後頭部に手を当て、うつむいて周囲を見回す
「たぶん…思考と認知じゃないか?」
「他の種族と違って、人間は他より深く考えることができる種だし…」
「道徳や文化みたいな抽象的な価値を、自分たちで意識することもできる。」
「それに何世代にもわたって知識を積み重ねていく能力もある。」
…
にこっ……
「なるほど、そう思うんですね?」コウカが口元に手を当て、目を閉じた
「ずいぶん教科書臭い答えですね!」
…
「仕方ないだろ…」俺は目をあちこちに向ける
「教科書がそう教えてくれたんだから…」
…
「そういうことなら…」コウカがゆっくりと俺の方へ目を開け、手を下ろす
「あなたにはわかりますか…」
…
ウィーン……
「どうして人間がその能力を持つようになったのか?」コウカを光が突き抜けていく
…
「それは…」俺は顎に手を当て、体をくるくると回す
…
…
トン
「もうとっくに答えが出ているのでは?」コウカが俺の額に指をそっと当て、顔を近づける
「あなたの答えは…」
「もとからずっと、ここにある。」
…
…
ガクン.
エレベーターが突然止まった
白い光の筋が周囲に現れなくなった
…
ウィーン
「さあ、トガミ様。」コウカがエレベーターの扉へと向かい、俺へと手を差し伸べる
「一緒に進みましょう。」
……………………………………………………………………………………………………………………………….
コツ……コツ……
辺りは今、白い廊下となっていた
あちこちに座席が並んで
曲がり角には鉢植えがいくつか置いてあり
数人の人影が武器を手にしながら
俺たち二人をじっと目で追っていた
…
「コウカ…」俺はコウカの肩に腕を回し、ついていこうとしながら
「俺たち…今どこにいるんだ…?」
…
「すぐわかりますよ、トガミ様。」コウカが俺の方へ顔を傾ける
「でも着くまでの間…」
「リクオ隊長の言葉、まだ覚えてますか?」
「三人が初めて顔を合わせたときの言葉。」
…
「あれって…」俺はコウカを目を丸くして見る
「あの言葉だよな…」
「何か困ったことがあればいつでも俺を頼れ、って?」
…
くすっ……
「それじゃありません。」コウカが俺の方へ微笑む
「そっちの話じゃなくて。」
「フォロックスについての話、まだ覚えてますか?」
…
「うーん…」俺は天井をゆっくりと見上げ、足元がわずかによろける
「確か…」
「何か…使う人に合わせる武器のことだったっけ?」
「何か猿のこと…watcherにしか使えない、とかそんな話だったか。」
…
「あの時はそれだけ説明してくれましたよね。」コウカが正面へ目を向ける
「普通のケースならそれで問題なかったんですけど…」
「トガミ様の場合は…」
…
「俺の場合は…?」俺はコウカの視線を追う
…
「簡単にイメージしやすいよう説明しますね。」コウカは前から目を離さない
「フォロックスはもともと、放射性が極めて高い化合物です。」
「普通の人間にとって、これは一瞬で命を奪うほどの力を持ちます…」
「軽度であれば身体に変異を引き起こし、最悪の場合は…」
「その人を…自分自身ではなくしてしまう。」
…
クイッ……
「じゃあ…」俺はコウカの袖を引き寄せた
…
タッ……
「さっきの私の質問、まだ覚えてますか、トガミ様?」コウカが俺の方へ振り返る
…
「あの質問が…」俺は足を止め、目を見開いた
…
「トガミ様。」コウカが白いガラス一枚の方へ顔を向ける
「考えたことはありますか。」
「一日の四分の一を部屋の中で眠って過ごす種族が…」
「どうやってこの星の頂点に立てたのかって。」
…
「コウカ…一体…」俺の顔がだんだんと歪んでいく
…
スッ……
「答えはとても単純です。」コウカがガラスの方へ指を向ける
「世界のランダムな方程式の一つ。」
「多くの種族が持つ一つのサイクル。」
「この世に生まれてきた者全員が…」
「他と同じ生活リズムを持っているわけじゃない…」
…
「そして時に…」コウカが俺の方へ目を向ける
「その中のいくつかの頭は…」
「そのパターンを、極めて長い時間にわたって偶然に持ち続けている。」
…
「はっ!」俺の目が見開き、体がガラスから離れられなくなった
……………………………………..
白いガラスの向こう側
ベッドの上に人影が埋め尽くされていた
それぞれの手には武器がしっかりと握られ
奇妙な気配が体の周りを漂っていた
…
「これは…」俺の唇がかすかに動き、瞼が瞬きを忘れた
…
「Watcher。」コウカがそっと頭を下げ、目を閉じた
「正しい形成の道を辿って。」




