ずれた二音
そよ…そよ…
木陰がだんだん向きを変えてゆく
陽の光が西の方へ傾いてゆく
木の枝葉があちこちで軽く揺れて
食べ物の匂いが、あちこちにふわっと漂ってる
…
もぐもぐ…
周りの人だかりが小さなグループに分かれて
みんな視線を皿の上の料理に注いで
すぐ横に置かれた缶ジュースとか
まだ手つかずのテーブルに
……
とん…とん…
「ただいまー!」シラカワさんが手を高く上げて振ってる
「俺がいない間に何かあった?」
…
「別に大したことないよ」俺は視線を遠くのテーブルに向けて、手を指す
「ただ、俺たちの昼飯がもう運ばれてきてただけ」
…
うわ…
「今日の飯、なんでこんなに残ってるんだよ?」シラカワさんが後ずさりして目を見開く
「普段ならこんなに残ることなんてないだろ」
…
「…」俺は周りを見回して、唇を軽く動かす
「まあ…原因は…」
「……今日って…誰も管理してないから…」
…
「なんであいつらハンゴから出てこれたんだ?」シラカワさんが頰に手を当てる
「本来なら止められてるはずだろ?」
…
「俺もわかんねぇよ」アヤノさんが周りを見回す
「でもさ…」
「……こっちの方が気になるんだけど…」
…
「シラカワさん」アヤノさんの目が細くなる
「さっき投げたあれ、何だったの?」
「ちゃんとやり方教えたよね?」
…
「あれは…」シラカワさんが後ずさって周りを見回す
「だって…その時めっちゃ急いでて…」
「時間…もうほとんど残ってなかったし…」
……
ぎゃあぎゃあ…
小さな会話がぴたっと止まる
みんなの視線が練習場の方へ向く
あちこちに響き渡る音に
…
「あの二人ってほんと…」シラカワさんが目に手を当てて首を振る
「どこ行っても一緒だな…」
「大丈夫かなぁ…」
…
「あの二人…」アヤノさんが目を丸くして俺たちを見る
「昔から知り合いなの?」
…
「実は…まあ知り合いっちゃ知り合いだけど…」俺は顔を背けて目を細める
「でも…どう言えばいいか…まあ見りゃわかるだろ…」
………………………………………………………………………………………………
人ごみの間、武器を握った手
両側から注がれる視線
まぶたを閉じていく顔たち
そしてただ一組に向かって
…
「黙れよ!」ネネが腰に手を当てて
「なんで私がお前の計画なんか聞かなきゃいけないの?」
「無茶で実現不可能じゃん」
…
「はぁ!?」レンが首を傾けて顔を近づける
「それが難しいってか?」
「じゃあお前の計画はどうなんだよ?」
「ガチガチで型にはまりすぎ…」
「どのグループもそんな感じでやってたじゃん?」
……
「静かにしろ!」ハガネハラが目を吊り上げて両手を後ろに
「何やってんだお前ら!」
「他人の時間無駄にしてんのわかってんのか?」
…
「こいつのせいだろ!」レンがネネを指差す
「こいつのせいだよ!」ネネが指を差してハガネハラを見る
…
「そんなの知るか!」ハガネハラが両手で腰に当てて
「協力するか…」
「それとも落ちるか…」
「わかったな?」
…
ふんっ!
「…」レンとネネが背中合わせになる
……
「全員準備はいいな…」ハガネハラが周りを見回す
「開始!」
………………………………………………………………………………………………………………
たったっ…たったっ…
影が一斉に前へ飛び出す
目を見開いて互いを見据える
握りしめた武器
額にびっしり滲む汗
…
タタタタッ…タタタタッ…
赤く光る人形たち
爪を長く伸ばして前へ
足跡の後に舞う土埃
……
ダダダダダッ…
弾の薬莢が芝生に落ち続ける
金色の光が人々の間を照らす
厚い煙が人形たちを包む
…
ドゴォン!!
人形が顔を覆う
体中に凹みが走る
列を貫いて
……
銃声が徐々に止まる
薬莢が消える
芝生の上に人影はもうない
残ってるのはただ一つの光景
…
緑の芝生に散らばる銃
あちこちに倒れた体
空を見上げたまま開いた目
動かなくなった体
その上に浮かぶ金属の骨組み
…………………………………
ドンッ!
「くそっ!」レンが歯を食いしばって周りを見る
「なんで殴っても殴っても終わんねぇんだよ?」
…
ゴンッ!
「だから私の言うこと聞けって言ったでしょ!」ネネが拳を振り上げて睨む
「敵が強いってわかっててまだ偉そうに」
…
トンッ…
「じゃあお前の戦術がどれだけ役に立ったってんだよ!」レンが顔を近づける
…
「役に立たないって何?」ネネが体を寄せる
「明らかにいい計画だったじゃん」
…
「お前考えたことあんのか?」レンが体を回して前を指す
「どっちも銃なんか持ってねぇだろ?」
「せいぜいグローブと小さいナイフだけじゃん!」
…
ずかっ…ずかっ…
「何か文句あんのか?」ネネが顔を寄せる
…
「もちろん…」レンの目が開いて両手をネネに向ける
…
ガッ!
「思いついた!」レンの両手がネネを弾き飛ばす
…
「この野郎…」ネネが頭に手を当ててレンを睨む
「いきなり何すんの…」
「……何…」
……………
ガキィン!!
ネネの目の前に人形
鉄の牙が真っ直ぐ彼女に向かって
レンの拳が人形の頭に叩き込まれる
…
はぁ…はぁ…
「お前がそんなんじゃ…」レンが口元に手を当てて少し前屈み
「……誰が…聞いてくれんだよ…」
………
バサッ!
ネネの体がレンに向かって飛び出す
片手で襟を掴み、もう片方でナイフを握りしめて
…
ザシュッ!
火花が空間に散る
人形の動きが止まる
…
「お前だって同じじゃん…人のこと言えるかよ…」ネネの体が低くなる
「私の言うこと聞きたいなら…私を越えてみろよ…」
…
ガッ!
「あいつは俺が取っとくって言ってんだろ!」レンが拳を握りしめて高く上げる
「誰がお前が俺の獲物を横取りすんだよ」ネネが体を起こす
……………
あちこちに響く音
周りを包む煙
…
ザンッ!!
光る体が二人を横切る
赤い目がネネを直視
爪がどんどん伸びる
…
…
ズザァァッ!
茶色の土が芝生に長く伸びる
歪んだ顔が前を見る
汗まみれの手
……
ガンッ!
食事のテーブルが激しく揺れる
皿が跳ねる
…
コトン…
小さな箱が地面に落ちる
皿が次々と続く
……
ガガガガガッ!!
爪が連続で襲う
手足を掴もうと伸びる
…
ネネの顔が歪み、目を見開く
体が激しくもがく
手があちこちに伸びる
…………
カンッ!カンッ!
「この変態人形!」ネネが皿を叩き続ける
「真っ昼間から何やってんの…」
「早く離せよ?」
……
ギィッ…
人形の目が点滅し始める
頭がガクガク揺れて
関節がゆっくり止まる
…
カサッ…
ネネが芝生を這う
手が小さな箱に触れる
「これって…」ネネが箱を見て唇を動かす
「デンタルフロス?」
…
シュッ!
「あるもんは使う!」ネネが糸を引き抜く
……
ギュウッ!!
糸が人形の頭に巻き付く
電気がバチバチ飛び散る
爪があちこちを引っ掻く
…
ギリギリ…
「早く…大人しくしろよ…」ネネの唇が強く噛み合わさる
…
…
ピタッ…
手が糸を離す
傷跡があちこちに残る
人形の光が消える
…
はっ…はっ…
「ほんと…頑丈なヤツ…」ネネが額を拭う
……
ウィィィン!!
ネネの目が見開き、体が固まる
白銀の光があちこちに
赤い光線が真っ直ぐ前へ
爪が迫る
…
「させるかよ!」遠くの煙から声が響く
…
ズザァァッ!!
爪の跡が練習場に伸びる
土が次々掘り返される
人形が煙の中に溶ける
…
「何が…起きてんだよ…」ネネが首を傾けて目を丸くする
…
…
練習場に人形の影はもうない
爪の跡も出ない
赤い光も消える
煙の中から一つの影が現れる
…
「ってことは…お前が俺に一つ借りだな…」レンが顎に手を当てて笑う
「ちゃんと…返せよ…」
…
こつ…こつ…
「…」ネネが唇を曲げて煙に向かう
「じゃあ私が試験で何回助けてやった分はどうすんの?」
「全部忘れたふりかよ、レン?」
…
「それはそれこれはこれだろ!」レンが両手で腰に当てる
「ごっちゃにするなよ!」
……………………………
ふふふ…
「意外と面白いヤツいるじゃん!」女が笑う
「ねえ、中尉?」
…
はぁ…
「何がだよ!」ハガネハラが鼻筋に手を当てる
「こんなヤツらが小隊にいたら大混乱だろ」
…
「でも…」女がペンを練習場に向ける
「二人を分けたら…」
「ああいうことできるのかな?」
…
「アンタさ…」ハガネハラが目を細めて振り返る
「からかうのやめろよ?」
…
「知らないもん」女が顔を背ける
「中…尉…ちゃん…」
…
はぁ…
「この中隊どうかしちゃったのか?」ハガネハラが首を振って下を向く
「もういいから最後のグループ呼べよ」
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「あの二人ってあんな感じで…」アヤノさんがレンの方へ手を向ける
「それで大丈夫なの?」
…
かりかり…
「なんて言うか…別に驚かないかな…」シラカワさんが頭を掻く
「だって…アイツら昔、ハルに試験で勝ったことあるし…」
…
「へ?」アヤノさんが固まって俺を見る
「レン…レンってあれ?」
「でも…だって…」
…
「…」俺は笑って軽く頷く
「あの時は俺が油断してただけだよ」
…
「お前まだここにいるのかよ?」シラカワさんが目を丸くして俺を見る
「もうお前の番だろ?」
…
ゴリッ…
「そっか」俺は体を起こして石の鎌に手を伸ばす
「俺だけ置いてかれても困るしな」
…
「戸上さん」シラカワさんが顔をしかめて俺に手を向ける
「よかったら…俺の使ってもいいよ…」
…
「私のも…使ってもいいよ…」アヤノさんが目を丸くして俺を見る
…
ぐぐぐ…
「何言ってんだか…わかんねぇよ…」俺は背を曲げて鎌を必死に持ち上げる
「俺…もう持ってるし…」
…
「あ、いや…ただ…」二人が顔を背ける
…
「…なんでも…ない…」俺は唇を噛む
「全部…いつも通りだから…」
……………………………………………………………………..
「ほぉ…」ハガネハラが顎に手を当てる
「選ぶセンスはあるじゃん!」
「でも…」
「……お前、あれ使えるのか?」
………
ざわざわ…ざわざわ…
並んだ人々の間
響き渡るざわめき
視線が人形に向かう
…
青い髪が一人で立ってる
手に青い弓
そして背を曲げて一歩ずつ進む男
石の鎌を地面に引きずって
…
えへへ…
「なんでそんな苦しそうな顔してるの、ハル?」シノミが口元に手を当てて笑う
「何でもいいのに、なんであれ選んだの?」
…
「俺もよくわかんねぇ」俺は首を傾けて笑う
「まあ…その場で対応するしかないよな、シノミ?」
……
「おい!」後ろからイラついた声
「お前何やってんだよ?」
「いつまで待たせる気だ、このトロい男?」
……
「やあ、美少女!」シノミの後ろに影が現れて額に手を当てる
「運命が俺たちを引き合わせたんだ」
「安心しろ、全部俺に任せろ!」
「君はここにいてくれればいい!」
「そして俺の腕の中で楽しめ!」




