訓練キャンプ ― はじまりの日(二)
そよそよ…そよそよ…
軽い風が隅々まで吹き抜ける
道沿いの木々が密集した間を
木々の隙間から陽の光がそっと差し込み
道は黄色い落ち葉で覆われている
…
かさっ…かさっ…
人影のない静かな道
建物がだんだんまばらになっていく
…
三組の靴が同じリズムで地面を叩く
友達の後について、遠くの家に向かう
壁の色がだんだん褪せた建物
………
ガラッ…
扉がゆっくり開き、視線が俺たちに向く
「いらっしゃいませ!」
「どうぞお好きな席へ」
…
「こんにちは…」アヤノが頭を下げる
…
「これは若旦那じゃないか?」店主が微笑む
「久しぶりだな!」
「ツキオカさんは、まだお菓子作ってるかい?」
…
「…」アヤノが目を逸らし、顔を背ける
…
「なるほどね…」店主が目を細める
「失敗したってことか?」
…
「その話は置いといて!」店主が笑う
「今日は何にするんだい?」
…
がしがし…がしがし…
「今日はおすすめありますか?」アヤノが頭をかく
「まだ迷ってるんですよ、俺たち」
…
「それに…」アヤノが俺たちを振り返る
「今日の軍の飯、ちょっと…」
…
ガハハハ!
「あの軍隊のご飯じゃ腹いっぱいにならねぇよな?」店主が腰に手を当てて大笑い
「今日の看板メニューはカレーライスだ!」
「ついでに最近作ったアイスキャンディーも!」
…
「じゃあ4人前でお願いします!」アヤノが頷く
「すぐ持ってくるよ!」店主が厨房へ向かう
………………………………………………………………………
周りの木の壁はまだ塗装が残っている
箸とスプーンに水滴一つない
埃一つなく、テーブルと椅子に置かれ
席は誰もいない
…
ギギギ…
「待たせたな」アヤノが椅子を引いて俺たちの隣に座る
「もうすぐ料理が出るよ」
…
グ〜〜
「まだどれだけ待てばいいんだ…」レンがテーブルに突っ伏す
「もう十分食べてねぇのに…また遠くまで歩かされて…」
…
「もうちょっと待てよ、小林さん」シラカワさんが周りを見回す
「どうせ今着いたばかりだろ」
「それにお前だけが腹減ってるわけじゃねぇよ」
「お前も…」シラカワさんがアヤノに手を向ける
…
「アヤノでいいよ!」アヤノが微笑む
「敬語とか堅苦しいのいらないから!」
……
「アヤノさん…」僕が周りを見回す
「さっきから気になってたんだけど…」
「どうやってこの店知ったの?」
…
「俺も気になる…」シラカワさんが顎に手を当てる
「この道、ほとんど人通らないだろ…」
「ここに来たばかりの時も通らなかったし…」
「どうやって知ったんだ?」
…
「それは…」アヤノが胸に手を当て、顔を背ける
「ちょっと…」
………
トン!
「お待たせしました!」店主が料理をテーブルに置く
「熱いうちに食べてくれよ!」
…
「ほら…」アヤノの視線が皿に向く
「料理もできたし、遠慮なく食おう…」
……
目の前に置かれた一皿
皿は二つに分かれている
片方は白いご飯の台
もう片方は濃い茶色に覆われ
赤いピーマンの欠片と小さな肉の塊
…
カチャ…
「なぁ…」レンがアヤノを見る
「これ、本当に大丈夫か?」
「普通のカレーと何も変わんねぇじゃん」
「ただ全部細かく切ってあるだけだろ」
…
「食べてみてよ!」アヤノが微笑む
「毒なんか入ってないよ…」
「どうせ一回食べたくらいじゃ害ないだろ!」
…
「まぁいいか…」レンが顔をしかめて俺たちを見る
………
ぱく!
レンの目が閉じ、スプーンが口に入る
俺たちは互いに顔を見合わせ、レンを見る
…
カチャ! カチャ! カチャ!
レンの目が大きく開き、手が止まらない
皿がどんどん空になっていく
…
コトッ!
「もう一皿追加で!」レンが皿を置き、店主を見る
「すぐ持ってくる!」店主が鍋の方を見る
……
すっ…
「確かに具を細かくするのは珍しいけど…」シラカワさんがスプーンを見る
「味は全然悪くないな」
…
こと…
僕の手が止まらず動く
スプーン一杯に料理をすくい
交互に上げ下げする
……
「あの…聞いてもいい…?」アヤノが俺たちを見る
「これ…口に合う…?」
…
「もちろん!」レンが親指を立て、笑う
「量も多くて美味いし、値段も高くない…」
「最高じゃん?」
…
こく…こく…
「…」シラカワさんが何度も頷く
…
「よかった…!」アヤノが微笑む
「合わないかと思ってた」
………
「ちょっと気になるんだけど…」僕が周りを見回す
「こんな美味い店なのに、なんで客少ないの?」
「場所もちょっと…」
…
「それは…」アヤノがテーブルに顔を伏せる
「言えば…」
……
こつ…こつ…
「単純に競争に勝てないだけさ!」店主が4本のアイスキャンディーを持って近づく
…
「叔父さん…」アヤノが目を細める
「いいだろ!」店主が笑う
「事実なんだから」
…
「わかんない」僕が首を傾げる
「こんな美味いのに、売れないはずないだろ?」
…
「じゃあ簡単に考えろよ!」店主が指を天に上げる
「カップラーメンを例に取ってみな」
「一年に何種類も新商品が出て、見た目も味も違う」
「でも本質は変わらない」
…
「調味料、作り方、全部新しくなる」店主が皿を見る
「でもカップラーメンはカップラーメンだ」
「湯を沸かして粉を入れるだけ」
…
「一方、こういう料理は…」店主がアイスを見る
「ほとんど大きな変化がない」
「味を変えるのももっと難しい」
…
「へ?」レンが首を傾げる
「全然わかんねぇ」
「食い物は食い物じゃん?」
…
「確かに!」シラカワさんが手を出す
「変化は小さいけど…」
「どっちも本質的に変わってるだろ?」
……
「だからお前らは半分しか見てない」店主が首を振る
「カップラーメン作るのにどれだけ時間かかる?」
…
「誰でも知ってるだろ!」レンが手を上げる
「5分で済む」
…
「そう、5分だ」店主が頷く
「でも食った後、どう思う?」
「一袋だけでやめられるか?」
…
「…」俺たち三人が互いに顔を見合わせる
…
「でもここの料理はそうはいかない」店主が鍋を見る
「選んで、下ごしらえして、煮込んで…」
「待つ時間もめちゃくちゃ長い」
「それでようやく完成する」
…
カリッ!
「そして一番大事なのは…」店主がアイスを噛む
「カップラーメンより満足度が高いだろ?」
…
「うるせぇ…」レンが目を細める
「俺のアイス…」
…
「悪い悪い!」店主が笑う
「もう一本おまけしてやる!」
…….
ガラガラ…ガラガラ…
扉が大きく開く
緑の服の背中が次々入ってくる
その中にハナゲハラさんの顔
視線が俺たちに向く
…
ざわざわ…ざわざわ…
「珍しいな!」
「新兵にも分かる奴がいたか!」
「下で並びすぎたんだろ!」
…
「いらっしゃいませ!」店主が厨房に走る
……
「俺たちもそろそろ行こう」シラカワさんが体を低くする
「どうせ食い終わったし」
…
「うん…」俺たちは椅子を立って
……
たたたっ…
「ちょっと待って…」店主が俺たちに近づき、白い紙を持ってる
「若旦那…これ忘れてる…」
…
さら…
「これ…」アヤノの目が大きく開く
…
「ツキオカさんが俺に預けたものだ」店主が微笑む
「まだ探してるんだろ? あの人からの欠片を」
…
「わからない」アヤノが店主に向き直る
「父さんが俺に何をしろって?」
「この空白は何だ?」
「結局…俺は何をすれば…」
…
「知らねぇよ」店主が背を向ける
「ツキオカさんは俺に何も言わなかった」
「俺も知りたくねぇ」
…
「この紙に書かれたものは…」店主がアヤノをちらり
「俺に向けたものじゃねぇ…」
……
かさっ…かさっ…
陽光が木々の葉を貫く
風はもう消え
人の列もいなくなった
足音だけが道に伸びる
…
「いや…マジでうまかった…」レンが後頭部をかく
「毎日これなら…」
「一年でも耐えられるぜ!」
…
「またお前の遊び病かよ!」シラカワさんが目を細める
「いつもそのせいでみんな苦労してるの知ってるか?」
…
「いいじゃん!」レンが笑って周りを見る
「どうせ楽しいだろ?」
…
「…」アヤノが地面を見る
…
「アヤノさん…」僕が軽く肩に触れる
「また今度連れてってくれる?」
…
…
「うん!」アヤノが微笑んで軽く頷く
……
「そういえば…」レンが俺たちを見る
「今日の午後、何すんだっけ?」
…
「午後か…そうだな…」シラカワさんが前を見る
……………………………………………………………………………………………………………..
日々が過ぎていく
…
毎朝、冷たい霧の中で目覚め
まだ眠い目で、布団に潜り込もうとする手
静かに整列し、朝の体操
…
毎日の体操、走って、走って
グラウンドを回り、武器を眺める
……
毎日の昼、長い列に並び
小さな食事を前に
いつもの店へ向かい
暑い陽射しに冷たいアイスキャンディー
…
急いで戻り、時間を惜しんで
服を洗い、陽に干す
まぶたを閉じ、秒を稼ぐ
…….
毎日の午後、静かに教科書を抱え
講堂へ、何百人も
周りはみんな突っ伏す
知識が一人を夢の世界へ
…
さっ… さっ…
一緒に車を引いて…
手が均等に、落ち葉を掃く
道端のごみ、瓶を拾う
……
夜は小さな画面の周りに座り
短い映像を見る
遠くからのサッカー中継
響く音楽
秒単位のニュース
…
小さな灯りの下の夜
並んで、四方を守る
……………………………………………………………………………………………………….
いつもの午後
いつものように整列し、授業の準備
…
どんっ!どんっ!
「もういい加減にしろ!」一人の男が列から出る
「俺はこんな遊びに来たんじゃねぇ!」
「飽きたんだよ!」
「本物の訓練を出せ!」
…
「そうか?」ハナゲハラさんが目を張る
…….
「全員、二列に並べ!」ハナゲハラさんが周りを見る
「今日は戦闘訓練だ!」
…
「だが注意しろ…」ハナゲハラさんが睨む
「今日は女子エリアと合同だ」
「自重しろよ!」
……
わいわい…わいわい…
「待ってたぜ!」一人が跳ねる
「やっと面白いとこ来た!」男たちが手を上げる
…
「久々に女見れる…」ざわめきが広がる
「急がねぇと…」
「向こう、いいの多いってよ…」
………
「ラッキーだな、ハル?」レンが僕を見る
「もうすぐシノミに会えるぜ」
…
「お前も同じだろ?」シラカワさんがレンに手を向ける
「イシカワさんに会いたくてウズウズしてんだろ!」
…
「ねね? 勘弁してくれ」レンが背を向ける
「欲しい奴が持ってけよ」
「俺はパス」
………
騒ぐ男たちの間で
空を見上げる視線の中で
一つの言葉が静かに響く
…
ぎゅう…
「なんで…女なんだ…」アヤノが頭を下げ、拳を握る




