訓練キャンプ ― はじまりの日(一)
埃まみれの部屋の中で
天井は蜘蛛の巣だらけ
廊下には枯れ葉が散らばり
…
サッサッ…サッサッ…
埃の煙が
あちこちに舞い上がる
俺たちの手が
箒を何度も動かす
汗の滴が
服にびっしょり染みる
…
ザバーッ…
水が毎回濁っていく
バケツの水が次々と入れ替わる
黒く染まった
雑巾と共に
……………
はぁ…
「なんでここにいるのに、まだこんな仕事しなきゃなんねぇんだよ?」
レンが肩を落として、腕をだらんと伸ばす
「こんな細かいことやって、何の意味あんだよ?」
「まるでまだ学校に通ってるみたいじゃん!」
…
「仕方ねぇだろ!」
シラカワさんが振り返る
「どうせこれから二ヶ月、ここで暮らすんだからよ。」
「ちょっと我慢しろよ!」
......
「なぁ、室長…」一群の男たちが近づいてくる
「俺たち、自分のとこ片付けたから、先に行くわ」
…
「待てよ!」シラカワさんが手を出す
「お前ら、自分のとこだけ掃除しただけだろ。」
「他の場所はどうすんだ?」
「全部終わらせねぇと、飯食いに行けねぇぞ?」
…
「いいよ!」男たちが軽く手を振る
「俺たち、あっちで飯食う気ねぇし!」
…
すっと…
「じゃあな!」男たちが階段の方へ進む
……
ぽと…
「マジかよ…?」レンが箒を放り出す
「あいつら、自分たちが何やってんだと思ってんだ?」
…
「レン、ちょっと落ち着けよ!」僕がレンに向かって手を伸ばす
「どうせ奴ら、自分のベッド周りだけ終わらせたんだろ。」
「俺たちもさっさと終わらせようぜ。」
…
「ハル、お前それでいいのかよ?」レンが目を細めて僕を見る、両手を広げる
「あいつら、自分のとこだけ気にして…」
「残りの全部はどうすんだよ?」
……
すっ…
「あの…」一人の若い男が突然手を挙げる
「こんなこと聞いてもいいかな?」
「でも…後ろの廊下…掃除しなくていいんですか?」
…
「もちろん!」シラカワさんが腰に手を当てる
「あそこも俺たちのエリアだろ!」
「俺が手伝ってやるよ!」
…
「じゃあ…ありがとう…」若い男が廊下の方に目を向ける
……
「なぁ、ハル…」レンが箒を拾い上げる
…
「…」僕の視線がそっちに向く
…
「一緒に終わらせようぜ!」レンが窓の方を向く
…
「うん…」僕は軽く頷く
………………………………………………………………………………………………………………
今や全ての部屋の扉は閉まり
埃の塊はもう去った
…
真夏の正午の眩しい陽射しの中
高い木々の影が広がる
…
ざわざわ…ざわざわ…
長い列が並んで
視線があちこちを彷徨う
小さな話があちこちに響く
……
「全員注意!」ハナゲハラさんが腰に手を当てて立つ
「気をつけ!」
…
小さな話が徐々に消えていく
列が一斉に背筋を伸ばす
視線が前を向く
……
ごほん!
「今から諸君の生活スケジュールを簡単に説明する!」
ハナゲハラさんが周りを見回す
…
「毎日、三食の正餐がある…」ハナゲハラさんが指を立てる
「朝食、昼食、夕食だ」
…
「各食事に固定の時間がある…」ハナゲハラさんが手を下ろす
「朝食は7時、昼食は11時、夕食は18時だ。」
「各食事前に、諸君は訓練に参加しなければならない。」
…
「食事に行く時は…」ハナゲハラさんが頭を上げる
「今日のように、全員が整列して入る。」
…
「諸君の各部屋は一つの小隊だ!」ハナゲハラさんが目を動かす
「各隊長は人数を確認し、食事前に報告せよ!」
…
「全員揃ったら、各単位ごとに…」ハナゲハラさんが遠くの建物に目を向ける
「各室長が一人ずつ食券を配る。」
「その後、全員が列をなしてゆっくり食事エリアへ移動する。」
…
「質問はあるか?」ハナゲハラさんが目を大きく見開く
…
「ありません!」全員が一斉に
…
「各隊長、こちらへ来て報告と物資を受け取れ!」
ハナゲハラさんが振り返って歩き出す
……
一人ずつ順番に進み
ペンの跡が次々と行を変える
…
一人ずつ列に戻り
胸ポケットに小さな紙を入れ
しっかりと物を手に持つ
…
カチャ…
列の各人に近づき
各隊長が一人ずつに渡す
箸一膳とスプーン一つ
…
「これが大事なことだ、よく覚えておけ。」ハナゲハラさんが背を向けて振り返る
「今手に持ってるものは、これから二ヶ月間、諸君について回る。」
「一度失くしたら、代わりはねぇぞ…」
「食事にも行けねぇ…」
…………………………………
とぼとぼ…とぼとぼ…
一人ずつ列をなして
遠くの小さな建物へ進む
手にしっかりと箸とスプーンを握り
…
ぐう…
長い道に響く音
…………
「やっと飯の時間かよ!」レンが振り返る
「朝から苦労したんだから、休憩だぜ。」
…
「お前、ほとんど何もしてねぇだろ?」シラカワさんが軽く目を細める
「主にハルと俺がやってたんだぞ。」
「二つの廊下もあいつが掃除したんだ。」シラカワさんの視線が若い男にちらり
…
「お前ら、軽い仕事ばっかだな!」レンが振り返る
「水運んだりゴミ捨てたり、全部俺じゃねぇか!」
「それで階段何往復もしたんだぞ!」
…
「まぁまぁ…」僕が両手を顔の高さに上げる
「どうせ全部終わったんだろ。」
「今はもう飯食うだけだよ。」
…
「まぁそうだな!」レンが前を向く
「もういいや! とりあえず腹を満たすぞ!」
…
がやがや…がやがや…
人で溢れる一つの部屋
アルミテーブルの上に眩しい光
天井の扇風機がゆっくり回る
……
「次の方!」エプロンの女性が振り返る
…
「はい!」レンがテーブルに飛びつく
「俺たちです!」
…
「食券を見せて!」女性が手を出す
「…」レンが紙を渡す
……
コトン!
女性が空のトレイを出す
少しの野菜の区画
小さなチャーシューの区画
…
「これがお前の分だ!」女性が周りを見る
「次の方!」
…
「ちょっと待って…おばさん…」レンが目を丸くする
「これだけ…だけかよ…」
…
「何を期待してんだよ!」女性が顔を近づける
「ここを五つ星レストランだと思ってんのか?」
「さっさと行けよ、ご飯と汁はあそこのテーブルにあるから!」
……………
とぼとぼ…とぼとぼ…
食事を終えて
箸とスプーンも洗って
俺たちは出口へ向かう
混み合う人ごみを抜けて
…
ぐぎゅるる…
「こんな量じゃ足りねぇよ…」レンが体を低くして背を丸める
「まだ成長期なんだぜ。」
…
「ご飯おかわり取れるだろ?」僕がレンを見る
「そんなに少なく食う必要ねぇだろ?」
…
「ハル、お前わかってねぇな?」レンが目を細めて僕を見る
「味薄くて量少ないし…」
「チャーシューなんか石みたいに硬ぇ…」
「ご飯はパサパサ、汁は水みたいに薄い…」
「誰がこんなの食えるんだよ!」
………
どたどた…どたどた…
空気に香りが広がる
熱々のラーメンのカップを手にする人たち
熱々のご飯の皿がテーブルに並ぶ
水のボトルをしっかり持った手が
俺たちの前を軽く通り過ぎる
…
「どこからそんなの出してんだよ?」レンが目を細めて見る
「あっちの方からじゃね?」僕が列を追って見る
…
「じゃあ、見に行ってみようぜ?」シラカワさんが軽く微笑む
「どうせ損はねぇだろ。」
…
「まぁいいか…」僕が軽く頷く
…
ぴょん!
「それでこそだ!」レンが跳ね起きて、唇を緩める
「こんなんじゃ満足できねぇよ!」
……
がしっ!
「ちょっと待ってください!」若い男が僕の肩を掴む
「あっちに行かないで!」
…
「どういう意味だよ?」レンが首を傾げる
「みんな行ってるじゃん?」
…
「俺…その…あそこは…」若い男が頭を下げて手を引く
…
ぽん…
「大丈夫だよ…」シラカワさんが若い男の肩に触れる
「ゆっくり話せばいいよ、邪魔しねぇから。」
…
「わかった…」若い男が軽く頷く
…
「実は…」若い男の視線が俺たちを見る
「あの屋台とか…全部アグヌス・インダストリーズが入れてるんだ…」
…
「それが何の問題だよ?」レンが首を傾げる
「みんな行ってるじゃん?」
…
「お前らわかってねぇ…」若い男が唇を軽く噛む
…
「あの会社…軍事用の武器を低価格で供給してる…」若い男が顔を上げる
「その代わり…ほぼ独占的にいろんな分野の商品を…」
…
ぎゅっ…
「小さな店は…そこから…立場を失って…」若い男の拳が握られる
「そして彼らは…」
…
「つまり…」僕が軽く若い男に手を向ける
「市場を独占してるってこと?」
「だから…売ってるものは…」
…
「うん…そう…」若い男が軽く頷く
「売ってるものは…軍事の赤字を補うために…」
「めちゃくちゃ高い値段なんだ。」
…
「でも…もっと大事なのは…」若い男が屋台の方を見る
「どういうわけか…どんな状況でも…」
「どんな困難が来ても…商品を常に持ってる…」
……
「配給ルートが強いんじゃないか?」シラカワさんが顎に手を当てる
「多国籍企業はみんなそんなもんだろ。」
…
「そんなんじゃないよ!」若い男が顔を上げて俺たちを見る
「あの会社は誰とも協力しない…」
「逆に、競争相手を全部潰す…」
「服でも野菜でも雑貨でも薬でも…」
…
「たとえ…」若い男が少し頭を下げる
「伝統的な料理でも…」
……
「ちょっと待て。」シラカワさんが若い男を見る
「そんな怪しいなら…」
「なんで軍がここに入れるんだ?」
…
「それは…俺…」若い男が周りを見回す
…
「もしかして…俺たちの学校みたいに。」僕が指を天に上げる
「一年次の第一学期みたいに、覚えてるだろ?」
…
「かも…でも全然違う…」シラカワさんが目を閉じる
「とりあえず、あのチェーンは避けようぜ!」
…………
ぐぎゅるる…
「でも…俺腹減った!」レンが空を見上げて体をだらんとさせる
「あっち行けねぇなら、どこで食うんだよ?」
…
「確かに…」僕が周りを見る
「これだけじゃ体持たねぇよ。」
…
「俺、まだ午後のこと言ってねぇけど…」シラカワさんが俺たちを見る
「午後って…また何か…」レンが目を細める
…
「午後もまだ何やるかわかんねぇけど…」シラカワさんが目を丸くする
「また体力訓練とかだったら…」
…
「この体を勘弁してくれ…」レンが顔を下げて目を閉じる
「これじゃ足りねぇのかよ?」
……
すっ…
「もし嫌じゃなかったら…」若い男が手を上げる
「俺、行けるとこ知ってる…」
「でもちょっと遠いし…品数多くない…」
…
「構わねぇよ…」レンが目を細めて若い男を見る
「食い物さえあればいい。」
…
「じゃあ、お願いします。」シラカワさんが若い男に手を向ける




