混沌の灰燼より
ドン、…ドン、…ドン…
月光があらゆる場所を照らし…
赤い灯りがすべての路地に広がり…
白い鎧の軍団が、大陸の向こう側へと進軍していく…
…
ガルルル…ワンワン!
ドタ…ドタ…ドタッ!
一匹一匹の犬どもが、顔を歪めてこちらを睨みつける…
……
「きゃああっ!」
「やめろ!来るな!」
「一体何が起こってるんだよ!」
「さっさと俺から離れろ!」
「軍はどこだよ!」
「助けてくれ!頼む!」
…
人々が群れをなして、狂ったように四方八方に逃げ散る…
……
ザッ!
軍団の中央から、一本の腕が空高く掲げられる…
…
ウィィィン…
チリチリ…
軍団が足を止め…
真正面に武器を構える…
青い光が軍団全体を覆い尽くす…
…
ドゥン!ドゥン!ドゥン!
輝く光の奔流が夜の闇を切り裂く…
…
ドドドドッ!
ドシャ…アアッ!
周囲の家々が一瞬で瓦礫の山に変わり…
壁の破片が四方八方に飛び散る…
煙と埃が空間を埋め尽くし…
黒い煙の柱が四方から立ち昇る…
……
ズン……ズン……
…
“PLEASE REMAIN CALM”
“PLEASE REMAIN CALM”
壊された道を踏みしめながら…
巨大な機械どもがじりじりと近づいてくる…
…
グサァッ!
槍の穂先が機械どもに向けられる…
…
“PLEASE… REMAIN… CALM…”
“PLEASE……….”
…
ジジジ……
バチ…バチッ!
火花が空中で爆ぜ…
遠くで機械どもが動きを止め…
体中に無数の穴が穿たれている…
……………………………………………………………………………………………………..................
ダダダッ…ダダダッ…
…
「何が…起こってるんだよ…」僕は目を限界まで見開き、周囲を見回す
「一体…あいつらは何なんだ…」僕は唇を震わせる
…
…
「シノミ…」僕はよろめきながら足を進め、彼女の後を追う
「待ってくれよ…」
…
ギュッ…
「…」シノミが僕の手を痛いほど強く握り、前へ突っ走る
…
「なんで…僕たちは…逃げなきゃいけないんだよ…」僕はシノミの背中を見上げて呟く
……
ドォン!
家々の間に黒い煙の柱が一気に立ち昇る
金色の光が区域全体を覆い尽くす
レンガと石の破片が四方に飛び散る
煙の向こうから青い光の線が現れる…
……
バタ…バタ…バタバタ…
「もう時間がないんだ!」シノミが前だけを見て叫ぶ
…
ギュウッ!
「急げ!」シノミが僕の手をさらに強く締め上げる
…
「絶対に…君を巻き込むわけにはいかない…」シノミが唇を震わせる
「絶対に…君をあんな目に遭わせるわけにはいかない…」
………………
ぎゃああ…ぎゃああ…
遠くから絶叫が響き渡る…
遠くの煙の柱の間から
散らばった瓦礫の山の間から
…
キッ!
僕の体が突然凍りつくように止まる
視線があの煙の方へ吸い寄せられる
…
「ハル…」シノミが目を限界まで見開いて振り返る
「どうして…止まるのよ…」
…
すっ…
「あそこに音が…」僕が煙の方を指差す
「誰かが…叫んでる…」
…
きゅう…
「でも時間がないの!」シノミが振り向き、僕の手首を痛いほど握りしめる
「確かに誰かいるかもしれないけど…」
「今は本当に…そんな時じゃない…」
…
「だから…」シノミが顔を上げ、目を血走らせて僕を見る
「今だけは、ここから逃げなきゃいけないの」
…
「でも…」僕がシノミを見る
「もしあれがレンだったらどうする?」
「石川さんだったら?」
「ケイだったら…どうするんだよ?」
…
「ありえない」シノミが僕をまっすぐ睨みつける
「三人とも完全に逆方向なんだから、そんなわけないでしょ!」
「だから行くよ!」シノミが僕の体を強引に引っ張る
………
遠くの煙の中から
…
「お母さん…」
…
突然、か細い声が響く
…
「お母さん…お母さん…」
………
ぐっ…
「ごめん…」僕がシノミを見る
「僕には…無理だ…」
「こんな風に見てるだけなんて…絶対に無理だ!」
…
ぎゅ…
「やめて…」シノミが体を折り曲げるように低くする
「お願い…」
「そんなこと…やめて…」シノミが顔を伏せ、震える
「もう…耐えられない…」
「嫌だ…やめてよ…」
…
ぽろ…
僕の手の上に熱い涙が落ちる
「そうしたら…君も…他のみんなと同じになっちゃう…」
…
そっ…
「大丈夫だよ…」僕がそっとシノミの頬に触れる
「すぐ戻るから…!」
…
ザッ…
握られた手が離れる
僕の背中が煙の中へと全力で突っ込む
…
がくっ…
「どうして…」シノミが膝を崩して地面に倒れ込む
「どうして…あんなに必死で止めようとしたのに…」
「何をしても…」
「この輪は回る…このループは…また来る…」
…
「お母さん…」シノミが空を見上げて呟く
「今…どうすればいいの…」
…
「きっと…みんな…同じ気持ちだった…」シノミが唇を震わせる
「あの人の背中を見送るとき…」
…
「諦めないで…」シノミの耳に、かすかな声がささやく
………………………………………………………………………………………………..........................
ガラガラッ…
レンガと石があちこちに崩れ落ちる
…
ザザッ…ザザッ…
崩壊した屋根を越え…
濃い煙を突き抜け…
僕の足が全力で前へ突き進む…
…
「おーい!!!」僕は手を口に当て、周囲に絶叫する
「誰かいるのか!?」
「声出せよ!」
………
わーん!!!
遠くから泣き叫ぶ声が響く
…
ゆさゆさ…ゆさゆさ…
「お母さん…お母さん…」
「早く起きてよ…お母さん…」
…
煙が徐々に薄れていく…
小さな体がはっきり浮かび上がる…
涙でぐしゃぐしゃの目が大きく見開かれ、下を見下ろしている…
両手で石の下の女性を必死に握りしめている…
………
ザッ…
「どうしたんだ?」僕が近づく
「…」子供が振り返って僕を見る
…
「お母さんが…お母さんが…」子供の目が激しく震える
…
「わかった…」僕が巨大な石に両手を伸ばす
「下がってろ!ここは俺に任せろ!」
…
ぐっ…
「よし…」
両手で石を死に物狂いで握りしめる
背中を丸め、膝を深く落とす
歯を食いしばり、奥歯を軋ませる
……
すっ…
「おねがい…」小さな手が僕に触れる
…
「もういい…間に合わない…」女性が血まみれの顔を必死に上げて僕を見る
…
ちょい…
「おねがいよ…」女性の指が震えながら伸びる
「この子だけでも…ここから連れてって…」
「あいつらが来る前に…」
……
ギュッ…ギュッ…
「嫌だ!」僕が両手をさらに強く握りしめる
「そんなの絶対に無理だ!」
「このまま見捨てて行くなんてできるわけねえ!」
…
ぐっ…ぐっ…
歯をギリギリと食いしばり…
目を血走らせて空を見上げ…
両手で石を死に物狂いで握りしめる…
…
「もう…やめて…」女性が弱々しく僕に手を伸ばす
「無理…よ…」
…
「おねがい…」女性が必死に目を開けようとする
「全てが…手遅れになる前に…」
…
ぐっ…
「そんなこと言うなよ…」僕が必死に引っ張る
「やってみねえと…わからないだろ…!」
………
ずり…
石がわずかに動き出す
突然、隣に人影が現れる
…
「一人じゃ絶対に無理でしょ?」かすかな笑みを浮かべて僕を見る
…
「シノミ!」僕の目が限界まで見開く
「どうして…君が…」
…
「まさか君を置いてくわけないでしょ?」シノミが首を軽く傾げる
…
「ただ…」シノミが小さく微笑む
「いつもの我儘なだけよ…!」
………
「おい!!!!」聞き慣れた声が響き渡る
「お前らどこにいやがるんだ!」煙の中から人影が飛び出す
…
ザザッ…ザザッ…
「やっと見つけたぞ!」汗と埃まみれの顔が現れる
「探し回ったんだからな!」
…
「レン?!」僕が振り返り、目を限界まで見開く
「なんでここに…」
…
「心配で探しに来たに決まってんだろ!」レンが俺たちを指差す
「みんなもう避難所に行っちまったぞ!」
「お前ら二人だけどこにもいねえんだよ!」
…
「もう時間ねえ!」僕が石を睨む
「来たらさっさと手伝え!」
…
「何だこの状況は!」レンが目を剥いて石を見る
「小林さん、後で説明して!」シノミがレンを振り返る
「今はとにかく手伝って!」
……
ぐら……ゴト…
石がさらに大きく動き出す
……
「説明なんかいらねえよ、田中さん!」レンがニヤリと笑う
……
ゴトッ…
石が横に転がり落ちる
……
「要するに…」レンが僕を指差す
「またこいつの余計なお世話癖が爆発しただけだろ?」
…
「…」シノミが小さく僕を指差す
…
「ハル…」レンが目を細めて僕を睨む
「そんなことばっかしてたら、いつかマジで彼女取られんぞ!」
…
「まだまだだ…」僕が唇を震わせる
…
「そんなこと絶対にさせねえよ!」僕が顔を上げ、レンを睨み返す
「誰にも…絶対に触れさせねえ
……
「…」シノミの顔が真っ赤になる
…
「ハル…」シノミがこっそり僕を見る
「今じゃなくても…いいよね…?」
……
「はいはい…」レンが軽く頷く
「そんな大声でみんなに聞かせる必要ねえだろ!」
…
「今は手伝え!」レンが女性の腕を自分の肩にかける
「よし!」僕ももう片方の腕を肩にかける
…
「行こう、坊や!」シノミが子供に手を差し伸べる
「もう大丈夫だから…!」
……..................................................................................................................................................................
どす…どす…
濃い煙を突き抜け…
石だらけの道を踏みしめ…
俺たちの視線は遠くの灯りへと向かう…
…
「どうして…」女性が唇を震わせる
「どうして…あなたたちがこんな無茶を…」
「私たち…他人なのに…」
「私を連れてったら…みんなを遅らせるだけなのに…」
…
「何言ってんだおばさん!」レンが女性を振り返って怒鳴る
「もうその子と一緒にいたくねえのかよ?」
「ここで死んだら誰がこのガキを育てるんだよ!」
…
「それに…」レンが僕を見る
「人を助けるのに理由なんかいるかよ?」
…
ふふ…
「ネネちゃんが聞いたら、絶対自慢しまくるだろうな」シノミが苦笑しながら俺たちを見る
…
「絶対ネネに言うんじゃねえぞ!」レンが目を吊り上げる
「知られたらまた学校で前みたいに何度も何度も言われんだからな!」
…
「突然作文が異常に高得点取った時のやつ?」僕が額に手を当てる
…
はぁ……
「あれはまだマシな方だ…」レンが頭を垂れる
「たまたまテストが昼のニュースレポートと同じだっただけで…」
「それ以外にも山ほど…」
……………………………………………
ガンッ!!
すぐ横に巨大な煙が爆発的に上がる…
細かい埃と小石が四方に飛び散る…
…
槍の穂先がゆっくりと姿を現す…
地面に深い亀裂が刻まれる…
…
「どうして…いつもこんな時に…」シノミが唇を噛みしめる
…
うぃぃん……うぃぃん……
俺たちの視線がゆっくりと後ろへ
煙の中から青い光がはっきりと浮かび上がる…
白い鎧の腕から光が放たれ…
小さな雷が周囲を走る…
…
じじ……
俺たちの目が限界まで見開く…
光の奔流が襲いかかってくる…
………
ドォォン!!
煙が爆発的に巻き起こる…
一人の人影が真正面に立ち塞がる…
金色に輝く鉄のガントレットを構え…
コートがはためき、紋章が露わになる…
翼と星の…
…
「困った時は俺に相談しろって言っただろ」人影が俺たちを振り返る
「黒鋼さん!!」僕の目が限界まで見開く
…
「説明なんかいらねえ!」黒鋼さんが灯りの方向を指差す
「さっさと避難所へ行け!ここは俺一人で片付ける」
…
「でも黒鋼さん、あれは…」僕が身を乗り出す
「心配すんな!」黒鋼さんが軍団を真正面から睨みつける
「あの女性はもう限界だ!」
「早く行け!」
…
ドタ…ドタ…ドタッ…
「はい!」俺たちは灯りの方向へ全力で走り出す
………………
ガンッ!
「待たせちまったな」黒鋼が両手のガントレットを激しく打ち合わせる
「全員まとめてかかってこい、このクソ海産物どもが!」




