水面に映る月2
ってなわけで、
「百貨繚乱ね」
毎度にして毎度の如く。ショッピングモールにやってきた。映画を見て、カラオケして、適当にぶらついて環視を集める。うーむ。ストレス。
「で、結局なんで貴方が此処に居るんです?」
僕と華黒。水月と九十九。そこにもう一人。鏡花では無い。
「あっはっっは。いいじゃないか細かいことは」
茶髪の癖っ毛。不敵な目元。自信につり上がる口の端。酒奉寺昴が其処に居た。
「何処で知ったので?」
「愚弟から聞いた」
「ああ。もう」
はっきりと余計なことを。
「そんなわけで水月くんには興味があってね」
「そんな。畏れ多いです御宗家」
「私は魅力的にあらじかい?」
「華黒先輩の次くらいには」
「うむ。心地よい」
「本当に何を考えているのでしょうか?」
九十九には昴先輩の心は捉えられないらしい。実際に飛ぶ鳥のように自由人な側面を持つので「致し方ない」が結論ではあれども。何事にもすぐ興味を持って、美しい物は手に入れないと気が済まない。なお手に入らないなら更に求めようと心のニュートン力学が働く因業。ここまで拗らせている女性も他に類を見ないだろう。
「九十九くんもどうだい? 一緒に楽しむというのは?」
「勘弁」
諸手を挙げて降参だ。九十九は昴先輩を推し量れないらしい。いや、気持ちはわからんじゃないけども。
「真白くんは?」
「孤立します」
「では華黒くんを頂いても?」
「認可は華黒にお願いします」
少なくとも水月の心の安寧上、僕は華黒とイチャイチャが出来ない。
「華黒先輩」
ルンと響く声で水月は華黒の手を取った。
「いいんですけど」
華黒も背景は知っている。野暮はしないはずだ。
「さてそうすると」
へぇへ。
「千夜寺水月を見立てるのも一つの手段か」
「可愛いしね」
どっちかってーと鏡花が。
「俺ですか?」
「どう取って貰っても」
別に解釈に如何に興味はない。言ってしまえば水月が何を思おうと、僕の心配は鏡花に向いている。それこそガラス細工を触るような繊細さで。
「ではそうしよう」
そんなこんなの展開。
「うーん。じゃあ次はコレ」
「コレもよろしいのでは?」
「私はコレを押します……」
三者三様に水月を彩った。実際に可愛いよねぇ。男の人格と分かっても、千夜寺が美少女の域にあるのは否めない。だから華黒や僕に好意を持ってくれるのは、ある意味でとても希少で、南無三宝といった御様子。
「にゃむ」
水月はタジタジだ。
「可愛いですよ」
華黒がそう述べると、
「無念」
と喜ぶ水月でした。心は少年。身体は乙女。元よりガーリーな服はよく似合う。萌え萌えな感じに魔改造され、衆人環視を集める水月でした。ていうか全員顔の偏差値突き抜けているんだけども。例外に上げるなら男に見える九十九か。でもこちらの周辺随一のおっぱいはあまりに大きく、イケメンの顔を裏切っている。ぶっちゃけ乙女にもおのこにもモテる人格性と容姿のパラメータは、遥か天空を突き抜けて。
「それで御宗家。俺はどうすれば?」
「イケイケで」
意味不明なのは今に始まった事でも無い。だいたい昴先輩はそんな御様子。
「結局ゴールデンウィークは泊まるんですか?」
「華黒先輩と!」
ビシッと挙手。
「寝る場所がありません」
「先輩と寝たいです」
「兄さんの許可がなければ無理です」
「つまり無理と」
僕が合いの手を打った。たしかに華黒が他の人間に抱かれるのは、僕にとってのトラウマだ。心的外傷は透明な血を流す。
「あるいは兄さんが私と添い寝してくれるなら、私のベッドを明け渡しても良いですけどね。どうです? 兄さん?」
却下で。
「兄さ~ん……」
「責任の重さを痛感します」
そんな政治家みたいな謝罪。
「ソレでこんな可愛い水月をどうするんだい?」
「ホテルでも紹介すれば?」
「そう相成りますか」
「ていうか兄君は水月の何なんでしょうか?」
「恋敵」
事実だ。水月は華黒に惚れている。
「だからゴールデンウィークを使って会いに来たんだろうし」
「です!」
水月も強気な語で宣言した。
「では夕餉でも」
「そんなところかもね」
昴先輩の提案に、僕が乗る。ソレで趨勢は決まった。
「レストランは予約が居るしね」
「では寿司でも」
とは水月の言葉。
「さすがのブルジョワさ加減」
一般人の総引きよ。
「ダメでした?」
「僕は構わないんだけど」
「兄さんに不満が無いなら私から言うことはありません」
「義姉君に追従」
「ではその様に」
と相成った。ま、魚は身体に良いしね。マグロは記憶力も良くしてくれるらしい。アレは目玉だったかな?
「真白くんと華黒くんは本当に面白いね。益々手に入れたくなったよ。そうでなくとも周りにああまで高レベルを侍らせれば垂涎の的ともなろうぞ」




