水面に映る月3
「松皿」
端的に昴先輩が頼んだ。寿司屋でのことだ。もちろん回らない方の。事ここにいたって文句を付けるのも何だから、渋々席に着く。緑茶を飲んで一息。松皿が差し出された。ウニを頬張る。うん。美味し。
「千夜寺も華黒くんに惹かれているんだね」
「ええ。鏡花は違いますけど」
「真白くん……か」
「純粋なところがありますので」
――それは褒めているのだろうか?
少し怪訝になるわたくし。で、僕はどう態度を振れば?
「後はまぁ、色々と」
「本当に義姉君が好きなんですね……」
「そういう其方もね」
少しの牽制。
「僕はまぁ兄君を憂いているのですけど」
何故?
「僕の欲しい物を持っているからです」
何よソレ?
「秘密です」
サラリと下流に流された。
「君も拗らせてるねぇ」
昴先輩は面白そうだ。然程かな。何となく面倒くさい感じは受けるけど、昴先輩の人の業を読み切る能力は信頼に値する。であれば不幸を売り物にしているのも事実なのだろう。
「で、統夜はどうやって僕の情報を?」
鯛をハグリ。
「さてね。たまにアレは分からん」
「先輩がそう申しますか」
「実際に分からんのだからしょうがない。何にせよ第三の眼は持っていそうだな」
聖王炎殺白竜波。
「先輩でも分からないってなると相当だね」
「おかげで華黒くんの事がよく分かる」
「セクハラです」
「別段プライベートは侵害してないよ」
してると思うんだけど。そこはツッコむべきではないのだろう。肯定されると、それはそれで面倒になりそうだし。
「あなたはいい加減、兄さんから離れてください」
「華黒くんが離れるならね」
「恋人の権限を持ち出します」
強力な建前だ。少なくとも昴先輩にとっては。
「酒奉寺に帰順しないかい? 千夜寺も付いてくるよ?」
「さして興味も」
「華黒先輩~」
「泣き落としは通用しませんので悪しからず」
華黒らしい一言だった。
「結局ゴールデンウィークの間はいるの?」
「そのつもりです」
「じゃあこっちで保護しよっか?」
「いいので?」
「兄さん?」
「華黒は一緒に寝てあげて」
「先輩と一緒に!」
「兄さーんー?」
厄介事の押し付けは僕の十八番だ。ハマチをアグリ。
「えーと」
九十九が無念がっていた。
「兄君はソレを許容するので?」
「別段避妊も必要ないしね」
「むぅ」
とは九十九の意見で、華黒の息吹。
「兄さんはよろしいので?」
「今更かなぁ」
華黒を他に預けるのには抵抗がある。僕だってそのために壊れたんだから。でも水月に関しては然程苦慮もしなかった。コレも人徳かな?
「真白先輩のご温情に感謝を」
「良きに計らえ」
うんうんと首肯。
「兄さ~ん~」
あうあうあーと不満げな華黒。
「リハビリだと思って」
「兄さんと一緒に寝たいです」
「気が向いたらね」
ソレは既に述べている。
「兄君って何者で?」
「そこら辺にいる一般市民?」
「それが白坂と酒奉寺を擁するのですか?」
「偏にね」
「なんの因業でしょう?」
「そこら辺は分からないかなぁ」
「真白くんが愛らしいのがいけない」
一応男なんですけど……。美少女面であることは勘案しても。
赤貝をハムリ。
「九十九くんも愛らしいよ」
「いや、それは」
「私じゃダメかい?」
「女性ですよね?」
「愛に性別は必要在るのかな?」
「水月の君にも言えますか?」
「言えるとも」
「ひ……っ!」
怯える水月。むしろ千夜寺鏡花。
「大丈夫大丈夫」
僕は水月の頭を撫でた。
「………………ぁ……ぅ……」
鏡花が現われてしまった。相も変わらず「乙女の一念、岩をも砕く」……の有様で、むしろ安心すらするんだけども。
「大丈夫……?」
「………………大丈夫じゃ……ない……」
ですよねー。精神障害患ってるし。それは僕と華黒も同じなんだけど。
「真白先輩。鏡花を攻略しないでください」
水月に戻ったらしい。この辺のペルソナの使い分けは賞賛に値する。嬉しいことでは、本人等にしてはないんだろうけども。何となく……ね。
「華黒に頭を撫でてさせてあげよっか」
「是非!」
「却下」
「先輩~」
たしかに華黒ならそう言うよね。今更に始まった事でも無い。




