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超妹理論  作者: 揚羽常時
三年生一学期編

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暴風雨が来たりて8


「嵐が去りました」


 まるで暴風雨のように昴先輩をこき下ろす華黒でした。僕は梅昆布茶を飲んでいる。華黒が風呂から上がっており濡れた髪を丁寧に乾かしていた。


「華黒は僕以外に良いなって想った人はいる?」


「いません」


 そう言うよね。質問を間違えた。


「呪詛の範囲外」


「ルシールでしょうか?」


 他に居ない辺りがなんともはや。ソレを責めることは出来ないにしても、寛容さが欲しい様子。僕以外に興味がないのはそれはそれで寂しいだろう。ソレを一分も思っていないからこそ華黒の業ではあるんだけども。


「酒奉寺昴と何か話しましたか?」


 ドライヤーで髪を乾かす。


「ちょっとね」


「対象からして私か九十九ですよね」


「…………九十九の方」


 聡い御仁だことで。


「何と?」


「どうにも不幸に酔っていると」


「そんなことですか」


 あっさり述べる華黒さん。


「気付いていたので?」


「兄さんが鈍感なだけですよ」


 そーかなー?


「ま、私が不幸に鋭敏なのは今に始まった事でもありませんし」


「それは僕が至らなかったからで――」


「――兄さんに依存していた私の罪業です」


 王子様……ね。


「きっと九十九にも譲れないモノがあるのでしょう。別に詮索する義理もありませんけども、そうと望めば別段落ち着かない気持ちも理解は出来ますし」


「不幸ね」


「兄さんには最も縁遠い言葉でしょうけども」


「そっかな?」


「私が不幸になればあるいは……かもしれませんけどね」


「確かに華黒は見過ごせない」


「だから好きですよ。兄さん」


 ルンと弾む華黒の声。ドライヤーが追従する。


「じゃあ僕はどうすれば良いんだろう」


「何もしなくていいんです。兄さんは私が養いますので」


「またそういうことを」


「結構本気なんですけどねぇ……」


 髪を乾かしながら華黒が言う。僕は梅昆布茶を飲んでいた。


「兄さんは私を嫌いになれますか?」


 さてどうでしょ?


「週に一回は面会に行くよ」


「殺人を厭うのも兄さん在ればこそですけど」


「きっと嫌いになれない。僕は華黒を大事に想う。ソレは多分……普遍の概念」


「結婚しましょう」


「却下」


「他に対象がいますかに?」


「いっぱいいるけど」


「私よりおっぱいの大きな人は?」


「九十九?」


「実妹でしょう」


「DNA鑑定も十全だしね」


 何の話だっけ?


「兄さんが私を娶るかどうか」


「もうちょっと穏便に行かない?」


「兄さん在ればこそ」


 ドライヤーが止まる。紙を渇かし終えたらしい。シルクのような滑らかさ。コヤツの天性は、それだけ規格外と評せる。


「結婚はできますよ?」


「リングが買えないから」


「それを私に求めてください」


「あんまり公正取引委員会に睨まれないようにね」


 そう言う問題でも在らざりし。


「兄さんさえ望むなら幾らでも身体を差し出しますのに」


「そういう論拠を口にしないで」


 疲れる。本当に疲れる。


「ちなみに兄さんのオカズは?」


「夕餉は生姜焼きだったよね」


 サラリと話題を流す。


「私で在れば良いんですけど」


「ノーコメント」


 両手を挙げる。降参のポーズだ。


「で、結局、兄さんは私を嫌いになれますか?」


「かなり無理っぽい」


「でしょう」


 そこら辺の勘所は押さえているようだ。あまり釈然ともしないんだけど。


「だから華黒にも僕の世界を見て欲しい」


「兄さんは私の呪詛を見ていますか?」


「九十九ほど正確じゃないけどね」


「アレの能力は何でしょうね」


 さて。こっちの背景までは知られていないようだけど。何にせよ人の感情が読めるなら人間嫌いも必然か。その意味では、僕の周りは例外だらけだ。別段それで良くはあるんだけど……もうちょっと心に余裕が欲しいところ。


「兄さんも心配なんですか?」


「先輩ほどじゃないけど」


 乙女心には詳しくない。華黒は理解できるけど、真っ当な乙女を僕は知らない。ルシール辺りはそんな感じだろうけど、それだって華黒に教えて貰ったからだし。


「むー」


「悩む時間があるなら私を抱いてください。夢の世界へ連れて行ってあげ申し」


 毎度ながら華黒は何だかね。


「今日は一緒に寝ましょうね」


「先輩とベタベタしすぎたか」


「ですから勘定分だけ私ともベタベタしましょう」


「そこら辺の四則演算ってどっから来るの?」


「無論。この胸に秘めた乙女心より」


 …………乙女心ね。


「兄さんだって興味はあるでしょう?」


「うーん」


 華黒は強いなぁ。今更なんだけど。


「とにかくやってみてダメだったら遠慮する形で」


 多分そのまま食べられちゃう。ソレだけは断じて言えるのでした。実際問題として、華黒による僕の占有権はあまりに広大だ。僕自身も華黒のソレを止められない。ではどうするかって話なんだけども、暴走を押さえるには「一緒に寝ましょ」以外に答えも無く。


「だから好きですよ! 兄さん!」


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