暴風雨が来たりて7
食後の茶を飲む。生姜焼きは美味しゅうございました。
「真白くん真白くん」
「嫌な予感がするんですけど何ですか?」
「コンビニまでデザートを買いに行かないかい?」
「構いませんけど」
「酒奉寺ぃ……っ!」
華黒の呪詛が漏れ出る。
「何もしないから」
「レイプされます!」
いやぁどうだろう。然程の昴先輩でも無いと思うんだけど、華黒にとってはレンズの写り方に危険を感じるのだろう。とはいえ長い付き合いなので、ここで一手も打ってなければ信頼には足るはずだろう。
「何か食べたいデザートは?」
「プリン」
「アイスの果実」
相承りました。
「じゃ、ちょっと借りるよ」
ま、色々ありまして外に。というか多分話があるのだろう。華黒に聞かれたくないのか。九十九に聞かれたくないのか。あるいは両方か。
「九十九くんに聞かれたくなかったんだよ」
「ですか」
春の夜道をコンビニまで歩く。
「彼女はちょっと危ういね」
「百戦錬磨の先輩が言うならそうなんでしょうけども根拠は?」
「女性取り扱いの勘所」
「なるほど」
説得力も増し増しだ。
「僕や華黒と同程度で?」
「いや、そこまで深刻では無いよ。むしろ君らの場合は危ういを通り越して破滅している。ぶっちゃけ深刻さの度合いで言えば九十九くんは相手にもならないよ」
「それが誇れることなら尚良かったんですけど」
で、
「九十九の何が危ういので?」
「不幸に酔っている」
「九十九の話ですよね?」
僕や華黒じゃなく。
「君らは酔っていないよ。深刻に受け止めて悲鳴を上げているだけで」
そっちの方がマズくないですか?
「だから言っただろう。破滅していると」
そう言えば。
「彼女が何処から来たのかは知っているのかい?」
「親無しの実妹程度は」
「不幸を売り物にしているのは……あまり良い傾向じゃないね」
「そんな時期もありますよ。誰だって絶望の一つや二つは覚えるでしょう?」
「君が言うと深刻に過ぎるんだけど……」
「僕が泣くと華黒が泣くんで。こんな事は華黒の前では言えませんよ」
「結婚しよう」
サラリと重大事に持っていくな。
「で、不幸ぶっているのが気にくわないと?」
「いや、そこも愛らしい」
さすがの酒奉寺昴だった。
「私なら産まれて着た喜びを与えられるだろう」
「服も買い与えましたしね」
「そう言う意味じゃ無いんだが」
知っているけど下の話になりそうだし。
「君らの過去を九十九くんは知らないだろう?」
「知ってたらソレこそ不幸を振りかざせないのでは?」
「その通りだ。愚問だったね」
くっくと昴先輩は笑った。
「けどまぁ確かに思うところがあるんだと思うよ」
「華黒の心を読んだ程度で怯えるならまだ救いはありそうですけど」
「本当に君は欲情しないんだね」
「実妹ですし」
「華黒くんは?」
「同罪?」
「なるほど。破滅しているわけだ」
「メダルを貰えないのが残念」
「そんな君の感性が残念だよ」
「失望しましたか?」
「何に対してか……にもよるね」
「もちろん僕の心に。情景に」
「希少だとも。ただそれだけ磨いてきたダイヤのような君の心は」
「一応男だと認識してますよね」
「たまに忘れる」
ソレも何だかなぁ。
「ま、別段、今からどうこうって訳でもありませんし」
「取り戻せないモノも在る」
「溶けたアイスとか?」
「繋がり切れた慕情とか」
そんな感じでコンビニへ。適当にアイスやらプリンやらを買って会計を済ませる。
「君はどう思ってるんだい?」
「おっぱいのついたイケメン」
「揉んだのかい?」
「流石にそんなことをしていたら華黒がもうちょっと不謹慎」
ていうか華黒以外の誰にも適応できる華黒ルールだけども。
「あまり人の不幸にかばい立てしちゃダメだよ?」
「昴先輩にはご迷惑を」
「華黒くんの薫陶も効いたしね」
僕がまだ高校一年だったときのことだ。
「兎にも角にも危うい存在って九十九くんを見てくれたら嬉しい」
「留意しましょ」
「あんな乙女こそ幸せに笑って欲しいのだけど……」
「先輩なら出来るのでは?」
「可不可なら可だけど、根本の原因は君にあるよ」
「先輩までサイコメトリーとか言いませんよね?」
「言わないけど見れば分かる。九十九くんは君にコンプレックスを持っている」
「何故?」
「そこまでは流石に。けれども華黒くんに怯えながら、君にも怯えているよ。いや……アレは怯えていると言うよりも……」
何か含むような言葉だった気にはなったけど聞かない。聞かせていいなら既に先輩は喋っているはずだ。
「それほどの存在ですか。僕は」
「少なくとも顔と感性は一級品だしね」
「恐縮にございます」
憮然として僕は言った。感性はともあれ顔が違う意味で一級品なのは認める処。
だから因縁を持った。「何が」も「誰と」も一緒くたに。
結局何なんだろうね?




