暴風雨が来たりて6
デンジャー。
「なにがだい?」
「貴方でございます」
デートも終えて解散……かと思いきや、昴先輩はこっちに乗り込んできた。愛妻の夕餉を食べたいらしい。愛妻って……。もちろん華黒は威嚇した。しょうがないよね。
「で、なんで僕まで……」
九十九は居心地が悪そうだ。そっちはあまり思考しない方向で。
「今日の夕餉はなんだい? 華黒くん」
「生姜焼きですよ。食欲をそそるように」
「華黒くんの方がそそるよ」
「肉欲は押さえてください」
華黒が包丁を向けた。昴先輩が手を引っ込める。無礼さ加減ではどっちもどっちだ。
「兄君の周りはこんなのばっかりなんですか?」
「こんなのって?」
「なんていうか……美少女で……僕にカケラも興味を持たなくて、あるいは純粋とでも申せましょうか」
「斬新な意見だね」
「だって僕に劣情を抱きませんし」
皆、僕に惚れておりますれば。
「兄君は手を出さないので」
血が流れるので。
「あ、初めて」
いや、恋人は処女で在り申さず。
「私は君に情欲を寄せているよ?」
とは昴先輩。
「華黒のエプロンシーンは良いんですか?」
「近付くと包丁が襲ってくる」
それは自業自得と言うことで。火中の栗を拾って火傷するなら自己責任。
「それで真白くんの人徳がどうのという話ではあったが?」
「してませんよ。そんな話」
ていうか僕に人徳なんてあったのか。
「周りが純朴な女の子で溢れてるからね。そりゃあ嫉妬の五つもしたくなる」
その具体的な数字は何処から。
「しかし君は本当に大きいね」
先輩は九十九の胸を鷲掴んだ。大きなおっぱいが変幻自在に形を変える。一種の胸囲的な暴力だ。印を切る。
「助けて候」
「無理。暴走した先輩を止められる人間は地上ではそんなにいない。ちなみに僕は適合されない」
まぁ言ってしまえば「誰に出来る?」ってテーゼだけども。華黒でも難しいだろう。報復はともあれ、先手を取られると色々されてしまうのも事実で。
「むぅ。触り心地も揉み心地も一級。色々と勃起してしまうね」
あの。形而上の話ですよね?
「コレほど立派なおっぱいは私の大学にも居ないよ。超越的な才能の持ち主だ。嫁にならないかい?」
「あ……ん……あぅ……」
色々と刺激されて答えることも出来ないようだ。昴先輩の女体のあやし方は一級品なのだろう。実際に百戦錬磨なのだから。まるでヴァイオリンでも弾くように、女体を扱う術を心得ている。ソレが何の役に立つかは置いておき、とりあえずプレイガール。
「ふむ。ふむ」
「や、止め……」
そんな感じでアホな時間が続く。
「ふむん」
ようやっと満足した昴先輩。机に突っ伏す九十九。揉んで揉んで寝るまで揉んで。そして妹は突っ伏すのでしょう。
「悪気が無いのは分かりますけど、ここまで本能で生きる生物は初めてでございます」
「一生幸せでいたいなら正直でいることだよ」
どこの諺だっけ?
「兄さん。御飯です」
「おお。お待ち申し」
「酒奉寺昴は遠慮してくださいね」
「さほど大食いでも無いしね」
多分そういう意味じゃ無い。ま、昴先輩もわかっているだろうけど。そこら辺を見誤るには、先輩は乙女心を知りすぎている。
今日は四人で食事。華黒と九十九は対面だ。僕と昴先輩も対面。こう言うときは競って僕の隣を華黒が確保する。
「ま、結局はそういうわけで」
「本当に刺されないんですか?」
「刺されたよ?」
突き刺された手の平を見せる。手の甲まで貫通しているのだ。
「いえ。地上の星……というか痴情のもつれで……」
「まぁ色々はございましたが」
華黒と黛が特に筆頭。黛に至っては拷問を受けた。事実は墓まで持って行くとして。
「それで壊れない……」
「君も知っての通り、僕には自分が無いから。リアクションが返せないんだよ。少なくとも形而上ではね」
「それもそれで義姉君程度には怖いのですが」
えー。華黒と同等って相当じゃない? そこまで感覚捻れておりますか僕?
「捻れてますね」
「捻れているよ」
即断された。華黒と昴先輩に。
「多分酒奉寺様が一番純真ですね」
多分この場合は「一番欲求に素直」と捉えるべきだろう。
「ある種、憎めないオーラはあるよね」
「いえ。普通に除外したいのですけど」
華黒にとってはそうだろうけども。
「……………………」
生姜焼きをハムリ。香ばしい香りと肉の旨味……タマネギの甘味も合わさり至福。これがまた白米に良く合って。イッツデリシャス。
「兄君はよろしいですね」
「なんも良いところはございませんが」
「心」
「顔」
第三者は黙ってろい。
「私も兄君の御尊貌を持って生まれとうございました」
女子には合うかもね。尤も……言ってしまえば手札で勝負するしか無いんだけども。
「羨むより、自分に何が出来るかが重要じゃない? 無理のない範囲で」
――南無三。
何かをポツリと九十九が呟いた。瞳が彩を持つ。それは絶望のような嫉妬のような赫怒のような……曰く言い難い僕と同色の彩。
「何か?」
「世界は不公平です」
「知ってるよ。そんなこと」
僕と華黒が誰よりも。別段今更なので、反論するのも疲れる。華黒は不満そうだ。他者に言われて不愉快な言葉の上位に位置する。ぶっちゃけ世界を呪っている身で、「世界が不公平である」なんてテーゼ……他に実感している人間はいないだろう。




