暴風雨が来たりて5
「あう……」
さりとてデートはまだ続く。今度はセレクトショップだ。最近知ったらしい。どうせ大学生とのデートでのことだろう。品の良い衣服が取り揃えてあり、ソレをかしまし娘が試着していた。特に春から初夏にかけての服を重点的に見て、それぞれ意見を述べていた。僕は一人、それを眺めるだけ。さすがに女装も無しだ。別段しても良いんだけど、華黒が制止する。よくやった華黒。
「そんなわけで」
「兄さん」
「如何でございましょう?」
試着室から、三人が現われる。涼やかな衣装が印象的だった。
「うーん」
後頭部を掻く。
「言葉に出来ない美しさ?」
「というか皆々様方、地が良すぎて何着ても似合うと申しましょうぞ」
曰く「女に似合う服は無限にある」とのことで。
「たしかにそれはそうなんだけど」
一向する様に天井へ視線をやる昴先輩。
「君の股間は何て言ってるんだい?」
「すんません。それガチでセクハラです」
「要するにドキドキさせたいのさ。乙女心……私が乙女かはさておいて、華黒くんや九十九くんだって同じはずだよ」
「です」
「でしょう」
三者一様に同じ意見のようだ。
「超一級に似合ってますよ」
「本当ですか?」
「青桜のシャツが良い感じ」
「兄さんは欲情してくれます?」
だからソレはセクハラだと……。
「元から惚れてる身で言えば、殊更に段差が在るわけじゃ無いけど、小さな変化も乙なモノかな?」
「つまり可愛いと?」
「ええ。可愛いよ。華黒」
濡れ羽色の頭を撫でると、にゃーと華黒は鳴いた。こういう純真さは僕にしか見せない華黒だ。普段は腹黒キャラだしね。
「兄君。こっちはどうでしょうか?」
「似合ってるけど……誰に見せるの?」
「さて誰でしょう?」
他人嫌いの九十九だ。乙女とみれば発情して、その妄念の泥濘に浸されることしきり。結果、その特異な能力故に孤立した存在。着ているお似合いの服を誰に見せるのか? それすら定まっていないだろう。僕と一緒に居るのは、僕には自己という観念が欠落しているからで在り、なお華黒の憎悪が純然だと言うことに由来する。零とグーゴルプレックス。その対極が僕たち兄妹だった。
「もちろん私のためだろう九十九くん」
気配を消して忍び寄る。後ろからデカ乳をモニュンと盛大に揉みしだく。畏れ入谷の鬼子母神。ちょっと十五禁程度の描写が為されまして。モノローグには出しませんけども。
「むふん」
テカテカしている昴先輩の満足顔が全てを表わしていた。
「うーん。無念」
「では清算でも」
桁六つくらいは在りそうですな。着ている服はそのままで、清算を済ませる。
「うん。お見事」
とは昴先輩の妙。周りは騒然としていた。都会の駅周辺。視線を完全に僕らが奪い取っていた。
僕はまぁいつも通りの男の格好だけど、男装の麗人程度にしか思われていないのだろう。コンプレックスになるくらいの女顔ですしね!
華黒は言わずとも。昴先輩も今日はさっきの店で買った女性らしい服装で、コレだけ見れば綺麗な大人の女性を思わせる。
で、問題が九十九。完全に男に見えるイケメン顔に、女子の服装をしてガーリーだ。そしてその突き出た乳房はタユンと揺れて、肩凝りが酷そうな予感。おっぱいのついたイケメンは、一種背徳感を肯定していた。
「やっぱり可愛い女の子を着飾って自慢するのは無上の喜びだね」
それで済むのなら華黒くらいは提供しますぞ。
「君も着れば良かったのに……」
「勘弁」
「酒奉寺昴?」
「理屈は分かっているとも。けれども勿体ないのも事実でね」
「まだ刺していないので大丈夫ですよ」
僕は華黒の頭を撫でながら答える。
「すっごい空恐ろしいことを当然のように仰いますね」
「九十九なら分かるでしょ?」
「……ですけど」
ところでこのカルテットは何処に向かってござんしょ?
「駅近くのクレープ屋さんだよ」
うーん。萌え萌え。
「ところでこんな所ってカモにネギじゃござんせんか?」
「私はカモにはゴボウ派だけどね」
鶏肉に合うよね……ってそうじゃなくて。
「華黒が可愛いから心配なんですけど」
「その時は守ってあげるよ」
「いやん。兄さん」
最後者は凄く嬉しそう。こんな所はド天然。そんな感じでクレープ屋へ。僕はミックスベリーを注文した。昴先輩がホワイトチョコバナナを選んだのは他意がないと信じよう。
「食べさせてあげようか?」
「九十九にお願いします」
「九十九くんも私の恋人にならないかい?」
「……………………」
黙ってココアクリームを食べる九十九。……脈在りかな?
「雄弁は銀だよ?」
「いえ、その、コンプレックスを刺激しますので」
「純愛がかね?」
「酒奉寺様に於かれましては、その純情を疑う余地もございませんけれど、生憎と僕はちょっと譲れないモノが在り申し」
僕に在って、華黒にも在るモノ。当然昴先輩にも在れば、九十九にだって在る。
「だから恋人はちょっと」
「金銭的には不自由させないよ?」
「白坂からも言われました」
「白花か」
ですね~。
一応僕の実妹なわけで。遡れば其処に行き着く。
「にしても因果な血としか言い様も無いけども」
「犬神家と繋がってるんじゃないですか?」
言ってて自分が悲しくなる。殊に不平不満なかりせば、愛に生きるも人の道……か。結局何なのだろう。この血の流れは。あるいは純然に何かが狂っているのか。とはいえ壊れ具合で言えば、その血統すら不明の華黒が一番アレなんだけども。その華黒ははにかんだ。
「私の私の私の兄さん! 恋するラッキーベリーを召し上がってください!」




