暴風雨が来たりて4
遅めの朝食だったこともあり、レストランは和食店に来ていた。酒奉寺の顔馴染みで、個室に通される。雅な内装とプロ意識の高い店員さんによって息苦しい空気が作られていた。朝食、アイスと来たので、控えめに天盛りを頼む。
「こっちの懐石コースがオススメなんだけどね」
「そこまで入りござらん」
「ダイエット効果があるらしく……」
「「懐石の松で!」」
そこら辺は華黒と九十九の肌をくすぐるのだろう。ダイエット効果ってどうせ食物繊維じゃないのかなぁ? とは思えども言いはしない。御本人の預かるべきなら、それ以上の干渉も不要だろう。
「にしても豪勢な店に連れてきますね」
玉露を飲みながら僕は皮肉った。
「ここの料理は美味しいからね。統夜も気に入っているよ」
ほう。統夜が。
「店員も見ざる聞かざる言わざるを徹底されている。都会様で活動するときに便利かな?」
スッと昴先輩も茶を飲む。その隣の九十九足るや。
「ところで昴先輩は大丈夫なの?」
僕はそう問うていた。今更な気はするけど普通に気になったのが今なだけで。
「どういう意味で?」
「サイコメトリー的に」
「サイコメトリー?」
昴先輩が眉をひそめる。別段隠すことでも無いので話すも、なんか納得された。
「面白いね九十九くん。私の恋人にはぴったりだ」
「で、どんな感じで?」
「なんと申せましょうか……」
言葉の表現に苦慮している御様子。
「あえて言うなら直球なんです」
ストレート。
「世俗に塗れた色恋模様なのに、ただソコにだけ集約される純情。一目見ただけなのに確かに恋に落ちていて、情欲が第一義なのに理性は並列して働かせている。一言で述べるなら紳士……ですね」
女ですけどね。
「然程の存在かな?」
御本人が誰より納得していなかった。
「ひゃん……!」
隣に座っている九十九の胸を揉む昴先輩。
「性欲は確かにあるよ。君を狙っているのも事実さ」
「ひ……は……それは……認めますけど……」
「てい」
華黒の爪楊枝が昴先輩の手を刺した。もちろん冗談の範囲で。
「何をするんだい?」
「こっちの台詞です。兄さんに刺激的なので止めてもらいます」
「君も揉まれれば良い」
「その発想はありませんでした」
「想念のまま摩耗しようね」
多分ソレが一番平和だ。
「兄さんは私の胸を揉みたくないんですか?」
すっごい揉みたい! とは言えず。
「興味はあるけどなんだかね」
「ヘタレだなぁ真白くんは」
「純情可憐ボーイとお呼びくださいますよう伏してお願い申し上げます」
「華黒くんも大変だね」
結局乳揉みは続かず、湯飲みを手にする昴先輩。
「でも結局そんな兄さんだから好きでもありまして」
「此処で惚気かい?」
「牽制ですよ。酒奉寺昴」
「とはいえコッチも引けぬ身でね。真白くんも華黒くんも私が貰い受ける」
「義姉君を……」
憎悪赫怒の溶鉱炉。その様に九十九は華黒を見た。その一面は確かにある。僕以外の世界を憎み怒る呪詛。ソレらが流れ出したとき何がまず真っ先に焼け落ちるのか。そのテーゼは僕を芯から凍らせる。
「華黒くんほどの完成度は希にすら見ないよ。有り体に言えば好ましく、何よりウェディング姿が想起できる。そうだなぁ。ファッションショーの要になり得るかもね」
「ウェディングドレス……」
華黒がはにかんだ。僕を隣に置いているのだ。妄想留まるところを知らじ。
「義姉君はその地獄を抱えて、何故に兄君を」
「真白くん?」
昴先輩の疑問は一瞬で分かった。目で合図……というより視線を合わせて外し、躊躇うように伏せる。「黙ってろ」の合図だ。殊更吹聴するモノでも無い。
「君は可愛らしいね」
伏せ目が気に入ったらしく、昴先輩は僕の頬に手を添える。
「うん。綺麗だ。この身を捧げて……愛し合いたいほどに……」
スッと唇が近付いてきて、
「えい」
華黒のピンチ力で頬を抓られた。ちなみにかなり痛い。
「うふふふ」
完全に眼が笑っていない。このやりとりも二年ちょっとでどれだけやったか。
「兄君はおモテに候ひますね」
「恵まれてはいるね。何にしても大げさが過ぎるけど」
「私のことは言えないじゃないか」
「自発的で無い分、裁判では有利になりし?」
「私まで巻き込んでその言い草かい?」
「先輩は……ほら……殺しても死なないし」
「愚弟と違ってそんな器用な真似が出来るか」
え? 統夜は出来るの?
「なんにせよ、愛の炉をくべ、恋い焦がれ」
「真白に咲くは、焦がしの荒野……か」
「なもんで、別に見切ってくれて構いませんよ? こちらとしてはご温情在りしも返せる物もございません由……踏み倒させて貰います」
「君にヒールは似合わないよ」
「大根役者ですか?」
「そうだね。私を慮る程度には秀逸だ」
「残念御免。その様なつもりは毛頭」
「毎度そうやって泥を被って疲れないかい?」
「自分がありませんので」
「確かに」
ククッと昴先輩は笑った。
「兄さんの理解者は私だけで構いません」
華黒の嫉妬も愛らしい。しばらく閑談していると料理が来た。僕は天盛りだ。サクサクの天ぷらが心地よい。かしまし娘は懐石料理。皆々舌鼓を打った。
「結局大学はどうなんです?」
「愛の欲に塗れ申し……」
「マミれ」
中々キツい華黒の一言。一応ご相伴に与っているわけだから気をつけた発現をして欲しいのだけど……まぁ華黒だし。僕に惚れる女性はイコールで敵だ。それを諫めないのも僕の罪だけど、そんな華黒が愛おしいのも事実で。ていうか居ないと死ぬしね。




