暴風雨が来たりて3
で、車が止まって都会の端っこ。アイス屋さんはテンポを構えていた。パフェやフルーツジュースも扱っており、アイス屋というよりスイーツのお店らしい。お金の心配はしていない。昴先輩が全て賄う。ていうかそもそも九十九以外はイレギュラーだ。イレギュラーのままでいられれば、ソレが一番角は立たないんだけども。
とりあえずアイスを頼んで席に着く。商品は後からやってきた。ワッフルに包まれたアイス。焼き菓子も所々混じっている。いわゆる流行的な甘味だった。一年後にはどうなっていることやら。
「ん。美味しい」
ソコに違えはない。昴先輩のチョイスだ。外れは有り得ないだろう。
「美味しくはあるんですけど……」
不納得と。華黒らしい話だけどね。
「ええと。その視線は止めて貰えます?」
九十九は昴先輩の視線がプレッシャーらしい。なんか当然みたいにスルーしてるけど、普通に先輩の視線はいやらしい。女子を見分する意味では正しい在り方なのだろうけど、万人に適応されるものでもない。僕とか華黒とかね。
「何を畏れる? 君は可愛いよ」
破顔して昴先輩の断じ。たしかに顔は整っている。しかも先輩のお墨付き。本当に凡庸には唾を付けることさえ厭うからね。その上で僕の存在がどうなのか……は論じたくないんだけど、そこは「剣呑」とでも申せましょうぞ。
「ん。絶品。クオリティは変わらないね」
変わったら商売は出来ないだろうけども。
「はい。真白くん。あーん」
アイスを差し出された。バニラのソレだ。
「兄さん?」
――気持ちは分かるけど堪えて。視線で説得して先輩に応える。ハムリとアイスを食べる。バニラの風味は芳しくも。
「兄さん。こっちも」
「あーん」
ハムリと食べる。ワッフルとバナナ味のアイスが調和を取っていた。
「えーと……僕もするべきでしょうか?」
「無理に求めるモノでも無いかな」
そんなことが義務づけられるほど、世界は厳しく律しない。
「では兄君。あーん」
「あーん」
結局するんだ。ツッコミも追いつかない領域。
「わくわく」
「どきどき」
それ、口で言っても可愛くないですよ……は無粋か。
「華黒。あーん」
「あーん」
ハムリ。僕の温州ミカンのアイスを嬉しそうに華黒が頬張る。その至福は表情にも出ていて、これ以上無く可憐だった。ソレは偏に愛の力。
「先輩もあーん」
「あー……んむ」
パクリと食べられる。コッチも嬉しそうなのがなぁ。僕はどうすればいいのやら。
「兄君、兄君」
「はい。あーん」
「はむ」
以心伝心。コレほど悲しいことも無い。実妹とどうこうってのもね。
「美味しいですね」
ほころぶ顔が突き刺さる。華黒を実妹と誤認したときと同じ圧迫感があった。ちょっとした不条理の気配とでも申しましょうか。
「温州ミカン恐るべし」
だから頼んだんだけどね。
「先輩的にはこんな感じのデートで良いの?」
「だってホテルに連れて行ったら引かれるだろう?」
当たり前だ。
「だからこれで良いんだよ。何よりまだ九十九くんの裏や表も分かってはいないし」
そこら辺の理性はあるのか……。
「攻略のルートを掴むまでの我慢さ」
前念撤回。
「結局は抱くんですね」
「性欲は種保存の大前提だよ」
孕めば……の話ではあり申しましょうぞ。
「同性愛だって建設的さ。生産的では無いけどね」
「ソコが肝要では?」
とは華黒の皮肉。
「だから人間らしい愛の営みじゃないか」
そんなことで崩れる昴先輩の持論でないのは、わかりきってもいたけども。
「ただでアイスを食べられるだけ幸運と思いましょ」
「兄さんがそんなだからつけ込む隙を与えるんですよ?」
「別にソレ自体は不名誉では無いしね」
「真白くん。婿に来給え」
「懸案事項として保留させてください」
「兄さん?」
「この程度で狭量になるのが華黒の難点だよね」
「私がいなければ兄さんはすぐに酒奉寺昴に絡め取られるじゃないですか!」
否定は能わないけども。
「結局酒奉寺君は何者で?」
そりゃ九十九もそう思う。
「恋愛的には何と申すべきか……」
「単なる他人です」
「愛しのロビンフッドかもね」
三者三様の御言の葉でございまし。
「あまり良くは分からないのですけど」
むしろ分かられると困る。
「義姉君と酒奉寺君がお熱なのは分かり申しました」
嫌なところだけ分かったらしかった。
「兄君はどうお考えで?」
「まず真っ当な恋愛観を備えるところからかな」
「十分真っ当なんですけど」
「対面に同じ」
ちなみに華黒と昴先輩が隣り合って座っております。僕は対面で九十九と隣。懸案事項は限りなくあるけど、互いに掣肘する意味で、愛妹と先輩を隣り合わせた方が効率的ともとれまして。たまに失敗かなとも思うけどね!
「臨める兵闘う者皆陣列れて前に在り」
「だから誰に祈ってるんだい?」
「役行者」
「鞍馬にでも? 行きたいなら連れて行くよ?」
「さすがに日帰りの弾丸旅行は……」
「そうでなければ良いんだね?」
「言質を取ろうとしないでください。華黒の機嫌に差し障ります由」
実際に黒いオーラが華黒から漏れ出ていた。僕という絶対防衛ラインが無ければ、殺人すら厭わない性格だ。あるいは僕のためと思えば殺人を厭わないとも言える。そこでは僕というセーフティすら観念から取り除かれる。玄冬巌が顕著な例。華黒の口にアイスを突っ込む。「あーん」もたまには役に立つ。というかこの場合は、その背景たる恋慕だけどね。




