暴風雨が来たりて1
「ふむ。絶品ですね」
何かを思案するように九十九は華黒の味噌汁を検分していた。自分以上の存在を前にして研鑽を忘れないのは良い心がけだけど、華黒の天才性については異論の余地も無く。黛とルシールは居ない。今は朝食で、時間的には午前だけどやや遅め。毎度コンビは何処かへフラリと出かけていた。黛がメッセで言うにはデートらしいけども。脚色も勘案した上で読むべきではあろうぞ。
そげなわけで、遅めの朝食を僕と華黒と九十九で食べていた。そこにピンポーンとインターフォンが鳴る。今日は休日。四月も終わり。相も変わらず九十九は白坂の口座に手を出してはいないらしい。ソレはともあれ。
「はいはいはーい」
華黒が客を招こうとし、
「キャーッ!」
悲鳴が上がった。ああ。彼奴か。
「何事で?」
「こうなれば侵略的外来種の餌食になるより他に無く……」
「本当に何事で!?」
僕の返答で恐怖を煽られたのだろう。だからといって今更現実を否定しても意味は無いわけで。その点に関しては僕から言えることは何も無い。
「意味も無くブラジャーのホックを外すのは止めてくださいと言っているでしょう!」
まぁ殆ど癖みたいなモノだしね。ガチで冬のコートの上からでも外せる異才の持ち主だ。春の薄着程度では防御もままならないのだろう。
ドカン。バタン。ゴキン。
ちょっと物騒な音が響いた後、首を捻られたとびっきりの女性が現われた。ツンツン跳ねた茶髪に挑発的な双眸。長い舌が蛇のように唇を舐め取っている。服装は簡素にシャツとジャケットとダメージジーンズだけど、多分ダメージ加工だけで日本円で七桁は飛ぶ。酒奉寺昴先輩が……其処に居た。
「なるほど愚弟の意見は正しかったと見える」
ちなみにこの場合の愚弟は酒奉寺統夜を指す。同じクラスで昴先輩の弟で、腐れ縁でもあった。まず真っ先に警告のメッセを送っても良いだろうに。むしろ昴先輩が抑止力と化したのか。あまり考えるのも得策ではない。
「なるほど美形だ。その美しさでその胸か」
イケメンでバインボインな九十九さんでした。
「えーと……え……?」
そらまぁいきなり現われて状況を引っかき回すのだから朝食の空気なぞ吹き散らされる。華黒はブラジャーを再装填。
「シモーヌ」
昴先輩は九十九を抱きしめて、その胸を揉んだ。
「ひゃう」
驚くよね。けれどコレが昴先輩で。何だかね、との御様子。
「うーん。白坂の血は因業だね。まさに神業」
揉み揉みフニュン。
「えと……その……あは……」
プチッと音がした。ブラジャーのホックが外れたのだろう。
「~~~~~~~~~!」
困惑する九十九を置いて、生乳を揉みしだく昴先輩。こうなるともう十八禁だ。一応は服も着ているのでモラル的にどうこうは無いにしても。
「で? 何か用で?」
「弟から真白くんに新しいヒロインが出来たと聞いたのでね。さっそく愛に来た次第だ」
会いに……じゃなくて、愛に……なところが常識を疑わせる。昴先輩的には平常運転も良いところだろうけど。変わってなくてむしろ安心。
「白坂九十九ですよ。血だけで言えば、僕の実妹」
「中々の御尊貌だ。しかも巨乳と来る。コレはもう手込めにせねば」
「頑張ってください」
他に申しようがあるだろうか?
「ええと……どちら様です?」
「姓は酒奉寺。名は昴。酒奉寺昴とお見知りおきを」
そう言えば昴先輩のことは話してなかったね。
「酒奉寺って言うここら辺の地主。ついでに受験指向の到達地点の学生で、酒奉寺統夜の実姉でもあるね。趣味はセクハラで、特技はブラのホックを外すこと」
「他にも出来るよ」
「知ってますけど、此処では関係在りませんな」
僕は華黒の味噌汁を飲んだ。
こと万能性に於いては華黒すら凌駕する偉才の持ち主だ。在る意味で華黒以上に天才を示し、ミケランジェロにも劣らない造形美を持つ。ただ其処に居るだけで女子を圧倒するカリスマ性は、世界でも数えるほどだろう。まして本人が女性であれば尚。
「ふむ。君のおっぱいは弾力よりもむしろ包み込む方が主眼か。中々に業の深い胸をしているも……私はそこで差別をしないよ」
美少女の胸に貴賤は無い。そう言ってのける昴先輩でした。
「で、九十九を見に来たので?」
「ついでにデートを申し込みに」
「可能と?」
大警戒の九十九ちゅわぁん。
「不可能はちゃんと認識している」
昴先輩も負けていなかった。ていうか先輩を言い負かせる人間が居るなら僕だって見てみたい。華黒はブラジャーを元の位置に戻す。九十九もそれに習う。
「にしても」
フニフニフニュン。遠慮も憂慮もなく昴先輩は九十九胸を揉む。
「えーと……」
何と言うべきか悩んでいるのだろう。セクシャルの距離が近いのは万人が認める具合。
「その彫刻性でそのおっぱいは残念だね」
「男顔ですよ。どうせ」
「いや、そこは関係ない。むしろ特異と云うべきか。君の顔が男のモノなら私だって興味を持たないが女子なら別だ」
「僕の場合は?」
これは僕こと真白の発言。
「先に言っただろう。君は特別だ。私のセンサーをすり抜ける愛らしさだよ」
「兄さん?」
「えん罪」
僕はハンズアップで降参した。
「で、デートなわけだけども」
「先輩と九十九で?」
「もちろん真白くんも含まれる」
「何でですか!」
フシャーと華黒が吠えた。むしろ威嚇した。
「だと思ったけど」
基本この人も業の深い。色々と考える身分ではあるのだろう。それで道を違えるのも……それはそれで何時ものことで。
「華黒くんも来るかい?」
「九十九だけを連れて行きなさい!」
「しかしソレでは真白くんを愛でられないじゃないか。姉妹丼も乙なモノだ」
一応男なんですけどね。僕ぁ。
「今更言っても詮方なき」
僕は諦めた。華黒は反発する。九十九は呆然としていた。
この場の推移が誰に握られているのか。それが分かっているからだろう。あらゆる意味で不敵な華黒を振り回す天敵。僕らと関わった時点でスコープにインサイトするのも必然だ。だって九十九はイケメン美少女なのだから。昴先輩にとっては普通で普遍で普在なことではあったろう。だからこそ九十九に愛に来たんだろうし。
愛に……ね……。




