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超妹理論  作者: 揚羽常時
三年生一学期編

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また一人7


「兄さん」


 夜も更けて月夜の時間。


 春の夜はまだ冷えて、少し身震いの一つもしてみたり。パジャマ姿で、イエス枕を抱いた華黒が僕の部屋をノックした。言葉で招じ入れる。扉は開いているので、ノックはあくまで礼儀の問題だ。たまに掟破りに走る華黒ではあれども、そこはブラコンの暴走で、そうであることを僕が認めないのは華黒のよく知るところ。別段、嫌いになれるほど軽い存在では無いにしても、不機嫌を売る程度は出来たりして。


「一緒に寝たいの?」


「兄さん。九十九を褒めてばっかり」


「妹だしね」


「私だって妹です!」


「恋人を優先しなくて良いの?」


「兄さんが妹萌えなら」


 どっちかってーと華黒萌えなんだけど。調子に乗られてもなんなので、コレは黙秘。華黒が僕に助けられた様に、僕だって華黒に助けられた。その事実をねじ曲げてまで卑屈になりはしないけど、僕しか見えない華黒にとっては僕との関係が世界の全てで、他一切は十把一絡げ。おままごととでも呼ぶべき現象だ。


「なにもしなければ一緒に寝ても良いんだけど」


「添い寝してください」


 うむ。わかっている御様子。


「寝ている隙に色々やっちゃってくださっていいですから」


 前言撤回。正確には前念か。


「キスまでなら構わないんだけど……」


「本当ですか!」


 こ~ゆ~ところでは目が輝くね、君。


 そしてベッドにダイブ。


「えへへぇ。兄さん」


「愛おしい華黒の希少さよ」


「他の女の子に目移りしちゃダメですよ?」


「殺傷事件は起こしたくないし」


 案外シャレに立脚できないのが難点。


「妹ながら……あのおっぱいは反則だと思うんです」


「華黒も負けてないけどね」


「でも私より二つ下であの成長力は脅威ですよ。二年後にはどうなっているか……」


「別におっぱいで女子を選んでいるわけでも無いんだけど」


「ルシールもそこそこ在りますし」


「黛が揉んでそうだよね」


「そうらしいですよ?」


 あちゃー。


「で? 九十九のおっぱいに絆されないか……って?」


「巨乳を超える域ですよ?」


「御面貌が極々裏切っているけどね」


 僕より男前ってどゆことよ? いや、男子なら普通に僕より男前で正しいんだけど、九十九の場合は女子でイケメンだからなぁ。


「兄さんは私のお婿さんになるべきです」


「月収を得てないので結婚は出来ないよ?」


 結婚指輪は月収の一ヶ月半相当だとは聞いた話。


「こっちで用意しますので」


 何故にブライダルで女性かつ義妹に負んぶに抱っこ?


「兄さんが遠慮さえしなければ、いつでも結婚できるハラです」


「いいから添い寝なさい」


「はーい」


 掛け布団の中に入ってくる。


「えへへ。にぃさん?」


 ルンと弾む愛妹の声。添い寝するだけで嬉しいのなら、抱いたら喀血するんじゃないかなコレ。ていうか普通にその辺は兄妹揃ってトラウマなんだけども。


「華黒の憎しみはどうにかならないの?」


「どうにもなりませんよ。兄さん以外は全て敵ですので。アイツと兄さんしか私の傍には居ませんでしたし」


「人脈は発掘するモノだと思うんだけど……」


「兄さんはよろしいので?」


「最後に僕の元へ帰ってくるのならね」


「浮気なんてしません」


 そんな話はしていない。


「ま、九十九は能力的に無理だろうけど……黛を受け入れる程度はやって損も無いはずなんだよねぇ……」


「兄さんは黛に心を砕きすぎです」


 そんなつもりもござらんが。


「友人関係に清算をつけたのも?」


「白坂に借りを作ったのがそんなに悔しいの?」


「私で出来ない事は分かっておりますが……」


 全面的に僕の味方にはなれないわけだ。正確には腕の距離が足りない。


「華黒は華黒が出来る事をやれば良い。僕は僕が思うことをする」


「自分をもっていない兄さんが人のために何かしようとすると歪みを生むんです……っ」


「否定能わじ」


 誇らしげな事でも無かろうけども。


「ちょっと寒いね」


 僕は華黒を抱きしめた。


「ひゃん! に、兄さん?」


「華黒は温かいねぇ」


「兄さんもです……」


 ギュッと更に強く抱く。


「ソレに良い匂い」


「ボディソープのおかげですよ」


「風呂上がりの義妹……」


「食べますか?」


「据え膳食わぬは僕の業」


「男の恥ですよ?」


「男だって思ってくれる?」


「兄さんは世界一格好良いからですね」


 さすがにソレは身内贔屓です。ま、いいんだけども。さてそうなると。


「華黒。キスしていい?」


「兄さん? 酔ってますか? ちょっと何時もより……」


「うん。空気に酔ってるかも」


 恋の重さは金属塊。っていうか華黒が愛おしすぎる。


「えと……その……っ」


「っ」


 唇を重ねる。ただソレだけのことで、抱きしめている華黒の体温が上がった。


「はぁ。可愛い。流石の華黒だね」


 キスを終えて一くさり。僕は率直に答えを述べた。


「うわ……あわわ……ふやや……」


 案外攻められるとヘタれるね。ルシーるともいう。ちょっと意味は違えども。


「兄さん大好き!」


 ボインが胸板に押し付けられた。心臓の鼓動を感じる。ただそれだけのことで水素よりも軽くなる心と錬鉄より漲る熱量。


 恋の不思議さはまだ数式に出来ていないけども、何より想うのは華黒の愛。


 単なるブラコンにしては僕らの過去は重すぎる。別段不幸を売り物にするのもキャラじゃ無いので言わないけど、華黒を好きの根幹は確かに心に。尤も……そんなことは僕より明晰な華黒もわかってはいるのだろう。


 悪女は月夜に。


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