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超妹理論  作者: 揚羽常時
三年生一学期編

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また一人4


「痛みはないかい?」


「もう何も」


 担当医の花岡先生と話していた。縫合していた糸を取っ払ったのだ。


「精神的な壊れは……まぁ何時ものことだけど」


「いや、さほど大層なモノでは」


「ナイフで刺されて?」


「痛くもございませんし」


「だから壊れてるんだけどね」


 自分という物が存在しない。結果自己保存すら問題視しない。そんな形の異常だとは言われたけど、普通に自分なんてそんなモノじゃない?


「流石に自殺を選んでまで他者を助けるのは馬鹿だよ」


「中々言いますね」


「担当医として鑑みて」


「お世話になって候」


「投薬治療もどこまでも仮想的だし」


「基本的にウィルスや細菌の問題でもありませんし」


 心の病。もうちょっと言えば脳の病。でもそうしないと華黒が壊れてたしなぁ。あの状況的に。華黒は僕のためなら何でもしてくれるけど、僕が華黒にしてやれるのは命を賭けることくらいだ。それすらも華黒に拒絶されるわけだけど。


「で、先生としてはどう見るので?」


「精神疾患の専門の寮があるよ。そこで暮らすのも一興かと」


「華黒も大変ですね」


「君のことだよ」


「けれど必然的に芋づる式で華黒も……でしょう?」


「アレは一つの純真だからね」


「違いございません」


 ククッと僕は笑ってしまった。誰より治したいはずなのに、けれど心地よくて。


「傷痕はどうするの?」


「放っておいて構わないでしょう。自傷癖と言われるだけです」


「実際その通りではあるんだけど」


 逡巡創を持つ身だ。ついでに言えば自業自得。


「君は本当に自分を何だと思ってるんだい?」


「感想はありません。この身は他者のために使い潰されるべきですから」


「それが華黒くんを追い詰めても?」


「ソレですよね」


 華黒の愛着がなければ、僕はもうちょっと心安んじられる。


「それは暴論だよ」


「華黒からして暴論ですし」


「そういう意味では……………………ないこともないか」


 お医者様も大変で。


「別段死にたいわけではありませんよ。単にもうちょっと何か出来ないかと思ってしまう次第で」


「ソレを壊れてるって言うんだけどね」


「ナイフで刺された程度で人は死にませんよ」


「場合によっては死ぬから」


「単に止めたいだけなら出血も已む無しと」


「ソレを言える真白くんが凄い」


 本気で花岡先生は呆れ果てているようだった。





 ****





「兄さん」


 通路に設置してある椅子に座っていた華黒。僕が診察室から顔を出すと駆け寄ってきた。こういうところは愛らしい。というか普通に僕らは恋人同士だし。


「花岡先生は何と?」


「馬鹿めと」


「全く以て」


 否定はしてくれないんだ……。


「兄さんの馬鹿さ加減は天の明星ですので」


 ――それもどうよ?


 それこそ言えた義理でもないんだけど。


「傷痕……残りますよね……?」


「名誉の負傷だよ」


「思ってもいないことを口にしないでください」


「悪かったけどさ。そこを華黒が気にしないようにするのがお兄ちゃんである僕の務めで……あり申し」


「ブラコンを解消しろと?」


「どっちかってーと共依存?」


「兄さんに言われるとは」


「確かにね」


 クスッと笑う。


「僕は華黒に依存してるよ」


「それは全く構わないんですけど」


 構わないのか~。そこら辺の理解は僕と華黒で天と地の認識齟齬が発生しているわけだけども……他人のことを言えないのは傷痕が証明している。


「兄さんの馬鹿」


「華黒ほどは頭良くないよ」


「成績の話ではありません」


「知ってる」


 単なる皮肉だ。ソレすらも憎悪の対象らしい。


「ま、別段構わないわけだけども」


「兄さんが死んだら私も死にますからね。それは憶えておいてください」


「要熟考というところで」


「華黒の方はどうなの?」


「こうやっている時点で進展無しですね」


「華黒の場合も心の病だしね」


 真白第一主義。真白ニズム。単なる愛情を飛び越えて、依存もヤンデレすらも遠い好意概念。「兄さんが居ない世界に用は無い」と本気で言い切る精神破綻性。


 本当に「なんだかなぁ」である。


「だから兄さんは傷ついちゃいけません」


「努力する」


「してますか?」


「咄嗟の時は勘弁して」


「ソレを言うなら兄さんが私の病気をどうこう言える立場でもございませんけど」


「世の中は楽しいよ? 花も蝶もルシールも」


「ええ。否定はしませんよ」


 ニコリと破顔する華黒。


「でも花も蝶もルシールも太陽がなければ死に絶えるのみです」


「ひまわり娘?」


「そう受け取って貰っても」


「うーん。ラブリー」


「愛しておりますよ。兄さん。世界中の誰よりきっと。世界中の恋人関係の相互よりも……さらにも増して」


「知ってるけどさ」


 ムギュ。華黒が僕に抱きついた。それだけで幸せらしい。「好きにさせよう」……そう思った。別段お触り禁止ではないし、華黒の心の安寧には……今のところ僕が必要だ。その意味で拒絶は無理だった。何より約束もある。華黒と一緒に世界を見る。それは僕の大前提。ただソレだけを目指して突っ走る概念。さて御代は如何に?


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