また一人3
「というわけで」
黛さんの御家。ついでにルシールの城でもある。
「ルシールの親子丼にございます」
「………………黛ちゃん……全面監修……」
いや作れるだけでも凄いって。正味な話。
「それから黛さんの味噌汁を添えて」
「アサリですか」
「黛さん……海産物で味付けした味噌汁が大好きでして」
「あー」
気持ちは分かる。すっごい分かる。貝も良いけどアラカブとかも絶品だよね。うん。
「メインはルシールの萌え萌え親子丼なんですけどね~」
「………………あう……」
ルシーるルシールでした。
「僕も何か料理を憶えるべきか?」
「兄さんの料理は私が作りますので厨房に立つ必要はございません」
「兄君は慕われているようで」
「色んな意味でね」
ではいただきます。はむっと一口。味付けの香りが先んじた。ついで舌にダシと玉子の味が認識される。噛むと鶏肉が旨味を溢れさせる。
「おお。美味い」
「はい。八十点かと」
僕も華黒も賞賛した。真面目に美味しい。
「作った甲斐がありましたね」
「………………黛ちゃんの……おかげ……」
「愛が全てなんですよ?」
「………………黛ちゃんの……?」
「うん、それは、お姉さんのために味噌汁作り申しましたけども」
「美味いよ」
「照れますな~」
実際に本当に美味い。ダシもしっかりしているし、塩加減も絶妙だ。
「ちょっと黛のお吸い物を飲んでみたい」
「アレ難しいんですよね。求められるなら否やはございませんけども」
「で、まぁソレは良しとして」
僕は隣のルシールの頭を撫でる。
「頑張ったねルシール」
「………………ふえ……」
どこまでもルシーるらしい。いやいいんだけどさ。それがルシールの可愛さだし。純朴で純粋で純真なのがルシールのいいところ。
「いつもこうやって四人で御飯を?」
恐る恐る……との様子で九十九が尋ねた。
「ままあるね。結局は大勢の方が楽しいし。九十九だってそうでしょ? 一人で食べてると寂しくない?」
「それは僕の問題にございます」
「だから解決策を提案したんだけど」
「なるほど。ジゴロですね」
「九十九の方がイケメンだけどね」
鼻筋の通った美貌は、むしろ乙女にこそ毒だろう。実際に乙女が九十九に憧れるのは日常茶飯事だった。
「なんで受けないので?」
こんなことを真っ当に聞くのは華黒に相違ない。
「うざったいんですよ。勝手に憧れて、勝手に失望する。そんなことは有象無象と形容するのでしょう?」
「そうかもしれませんね」
「兄君はその辺お気楽で」
よくぞ言った。親子丼をハムリ。うむ。美味し。
「捻くれてますね~」
黛も面白そうだ。ルシールはルシーりっている。
「結局ソレでか」
「何か?」
いや、何でも無いんですけども。
「結局客観なんて物は存在しなくて」
それね。
「意思が発露すると、そこにはプロパガンダが発生し、結局のところ広告になるんですよね。僕はソレに対して鋭敏に出来申しているらしく……」
「人が怖いの?」
「怖いですとも。怖くない道理がございません。アレらは一体何を考えているのか。真剣に悩みますよ。顔と胸だけを見て泥酔する様を、私にどう肯定しろと?」
「………………あう……」
「ルシール先輩は純粋ですよね。好意も悪意もない。端に戸惑っているだけ。黛は気さくですし。兄君の周りはこんなにも幸福なんですか?」
「一人例外が居るけどね」
「…………ああ」
ジトッと四人が一人を見た。もちろん華黒だ。
「私は別に世界がどうなろうと関係ございませんので」
真白だけが居ればいい。結局そこに帰結する。華黒にとっての世界はまだ僕自身のことを指し、世界は敵で大敵だ。恐怖の度合いは九十九にも負けてないけど、それ以上に憎んでいる。何もしないのは僕がストッパーになっているからに過ぎず、そうでもなければ地球破壊爆弾のスイッチすら容易く押すだろう。自分が爆心地であっても。
「お姉様は何故にそんなことに?」
「プライバシーの侵害です」
ルシールや黛に聞かせるにはちょっと重すぎる。そして九十九でさえ華黒の憎しみは察せても根幹の事象までは憶えていない。親子丼をハムリ。
「とりま、ルシールの萌え萌え親子丼を楽しみましょう。ルシールの萌えパワーはかなりのモノで、それこそへのつっぱりが要らないくらい」
「ですね」
華黒も首肯した。ここら辺では空気も読むらしい。ルシールに関しては甘いんだからなー……。あとはコレを世界に向けられたらミッションコンプリート。
「何か不吉なことを考えておりませなんだ?」
「気のせいじゃない?」
サラリとすっ惚ける。別段、妹に雷を落とさせる必要もあるまいて。
「兄さんは私だけを見てれば良いんですよ?」
「それだと世界が見えない」
「自己で完結してもいいんじゃないかと」
「そりゃ華黒が自己で完結するならそれで良いんだけど」
「兄さんと私の二人で」
「自己じゃないじゃん」
「自己みたいなものでしょう。私と兄さんは運命共同体ですし」
「ホントソレ」
否定も能わず。
「結局兄君と義姉君の関係って何なのですか?」
「恋人で義妹」
「運命のラブロマンスです」
あながち間違ってないのが痛いところで。親子丼をハムリ。
「不思議な二人でございますね」
なんか納得されてしまった。いやいや、恋人だけども約束が前提で。華黒の隣で死ぬのは、華黒が世界を怖いまま逝ってしまった場合で。あーっと……まぁいいや。




