また一人2
「夕餉決まった?」
僕は黛にメッセを送る。
「ルシールちゃんの萌え萌え親子丼です」
キャピッとしてそうな文章だった。
「親子丼ね」
「姉妹丼とかどうでしょう?」
「多分そっちの話じゃないよ」
「仮にソッチの話なら僕も義姉君と一緒に?」
「がお」
威嚇する華黒。きっとルシールとのことだよね。まだ華黒にとって九十九は警戒すべき他人だ。僕の手前そうしないだけで。
「九十九様から離れろ下郎!」
「「「……………………」」」
因縁を付けられた。ソレは分かった。ただし相手は女子生徒だ。九十九『様』と呼ぶあたりで大方を察し得た。
「別にやましいことはないよ?」
「アレだけ先輩方に手を出しておきながら!」
「不可抗力」
ソレで済むならロマンスの神様も居ないわけで。たしかに周りから見たら面白くない光景かもね。だからってコッチが遠慮する義理も無いものだけど。
「九十九様。私と付き合ってください」
とは女子の御言葉。どうやら百合らしい。たしかに九十九はイケメンだけど。なんかカルト的な人気っぽいね。女子に心酔される時点で、僕より遥かに格好良い面構えなのだろう。おっぱいさえ無ければソレで済んだ話。いや、別に二次性徴のコントロールなぞ出来る話でもないので、責任は誰にも帰結しないんだけど。
「ええーと」
御本人困っちゃっていたりして。別にフォローする気も無い。火に油だ。
「では握手」
「はいな!」
ギュッと手を結ぶ。サイコメトリー。
「ま、却下で」
「何故です!」
「君と一緒にいても僕は気疲れをするだけだから」
いったい九十九は女子に何を見たのだろう? 怖くて聞けないけども。
「それから他人を下に見て優位に立とうとする癖は直した方が良いですよ。基本的に人を不愉快にさせるだけですから」
「そっちの女顔が良いと?」
「顔については僕も人のこと言えませんし」
サクッと論評。女顔の僕とイケメンの実妹。うーん。業の深い。
「そんなジゴロに巻き込まれないでください!」
「ジゴロ、ね」
「兄さんは何を納得されているので?」
華黒、目が怖い。いっそのこと殺気すら感じる。別段華黒を蔑ろにしたつもりもないけど、たしかにハーレム築いているように見えるし、愛妹の不安も確かではあろうぞ。だからって自重するかは別問題で。ついでに華黒の感じ方を、どうコントロールするかも皆目見当が付かない。ってなわけでとりあえずは放置。
「その男は女とみれば色目を使うゲスですよ!」
「うんうん」
女子の批難に、華黒が頷く。人のこと言えた義理か。超絶美少女め。
「義姉君はどちらの味方で?」
「私は常に兄さんの味方です」
っていうか他に何も考えてないだけでしょ。君の場合は。
「だからそういうところを直してから出向いてください。人を罵倒する人間と上手く折り合いを付けて生きていける自信もないもので」
それ以前にサイコメトリー的に無理なんだろうけど。独特の髪が夕日に輝く。
「九十九様は騙されているんです!」
「かもしれませんね」
「うんうん」
だから華黒は……まぁいいか。華黒だし。
「けれど心地よい嘘なら大歓迎ですよ? 結局人は夢を見ないと生きていけない存在です由、兄君の内部は……心地よい」
ぐうの音も出ない正論だった。人は人を夢に見る。
「置きざりにして来りたるものありと思ひいづれば京の夢ひとつ……か」
「百墨真白先輩!」
「何でござんしょ?」
「九十九様と距離を取りなさい!」
「とは言われ申しても」
既に近くにいるのに、これをどう破綻せしめろと?
「貴方なんか女の敵です!」
「だよねぇ」
「うんうん」
僕も華黒も同意見らしい。昴先輩のことを本気で言えなくなってきたしね。アレはアレで恋愛の究極系ではあっても。
「で、九十九は距離を取って欲しいの?」
「冗談でしょう兄君? 僕を見捨てるので?」
畏れ入谷の鬼子母神。
「さてそうなると」
「うー」
敵意むき出しの女子が哀れになるわけで。
「なんなら刺してもいいから」
「兄さん!?」
「兄君……?」
「僕を刺すことで九十九が手に入ると妄念を抱いたら、迷わず刺すと良い。多分逆に嫌われるだろうけどね」
「ではどうしろと!」
「ソレを考えるのは僕じゃないよ。一人に一つの恋心。決着も始末も全ては夢想」
始まり終わり、また始まる。
「諦めないなら、ソコはソレ。だれしも譲れないモノは在る」
「先輩は九十九様を譲れないんですか?」
「さてね。僕には自分が分からないから」
「あ…………」
何かを覚ったような九十九の声。僕に一体何を見たのか。そしてどこで腑に落ちたのか。全く分からないことだらけだけど、一応嫌悪はしないでくれる。初っぱなはビンタされたけど。これは黙秘ということで。
「偏にコレが夢でありますように」
グッと唇を縫って、女子は毅然と背中を見せた。歩み去る。
「罪な奴」
「兄君に言えますか」
「僕は元からそんな奴だし」
「兄さんは世界で一番優しいんですよ?」
華黒にとってはね。人の数だけ認識はあって、歩み去った女子生徒にすれば、僕は敵役だろう。人の采配。上手く行かないね。
「けれども兄君は本当に」
九十九まで。「自分が無い」ってそんなに好印象かな? いや華黒にしてみれば罪業の共有で在り、九十九にしてみれば打算の無いパーソナリティなのだろうけど。それにしても……やっぱり昴先輩のことを言えないね。




