また一人1
「ガチで怖いのですけれどねぇ」
「と言いつつ付き合ってくれるのは良心のある証拠じゃない?」
「兄君は傍に居て安心できますし」
「他の生徒はダメなの?」
「顔が格好良いとか、おっぱいが大きいとか、そんなんばっかりです」
そういえば九十九は男女問わずにモテている……って聞いたね。
「在る意味で兄君程度ですよ。僕を真正面から見つめてくれるのは」
九十九の嘆息。今は放課後の図書室。受験勉強に付き合ってもらっていた。
「ちなみに兄さんはあげませんよ」
「要らないので大丈夫です。あの呪怨がこっちに向くなんて考えたくもございません」
「然程かなぁ?」
ボンヤリと華黒。シャーペンはサラサラと動いているんだけど。
「ところで白坂なのでしょう? 使用人とか雇っているんですか?」
名家なら在りうる。
「いませんよ」
そうでもなかったらしい。
「身の回りのこと程度なら一人で出来ますし。他者がいるだけで感情を整理しないといけません由、一人の方が気楽です」
「そんなものか」
「兄君は義姉君にベッタリですか?」
「うん。華黒がいないと生きていけない」
「いやん。兄さん」
やんやんと照れて首を振る華黒。かなり可愛いんだけど言ってやらない。基本的に僕に尽くすのが華黒の使命で形でもある。もちろん贖罪と反省の意味も在ろうけども、好意的で無ければこの熱量は調達できない。
「幸せですね」
どこか侮蔑するような色で、九十九がそう呟いた。
「生まれてこの方、果報者」
「兄さんと出会えたことが何よりですよ」
「どうやったらそんなに幸せに生きられるんです?」
「日々精進」
「信心深く」
「雑な回答なのはよく分かりました」
特に華黒ね。狂えるほどの呪怨。それがどんな形をして、どんな色に塗られているのかを僕は知らない。けれどらしいっちゃらしいよね。世界に僕だけで、他を閉ざした可能性の否定。その見た地獄は、灼熱すらも生ぬるい。僕の発症と違って、華黒は壊れることが出来なかった。自暴自棄になれなかった……でもいい。だから真っ当に世界を憎んで、怖がって、今があるのだろう。
「よくも笑えますね」
「笑顔は大事ですよ。兄さんには大切です」
「何故?」
とは僕の疑問。
「兄さんは悲しそうな顔を見ると、それだけで厄介事を抱え込んでしまいますから。兄さんを全面的に味方するためには笑顔は必要ですよ」
「の割りには泣き落としもするけどね」
「そこはそれ……乙女の特権です」
九十九は呆れたようだった。
「良い兄妹ですね」
「ええ。愛し愛されまた愛し、です」
「義姉君はそうやって……」
何やら感慨深いようだ。何をとは聞かないけども。
「それより兄君はよろしいので? 僕まで巻き込んで」
「だって友達いないんでしょう?」
「作らないだけですけど」
「兄として放っておけない」
「兄君のご配慮には感嘆しますけども」
「だめ?」
「いえ。在る意味で一番安心出来る人間ですよ。中々居ないモノです。打算じゃなく私に近付く人間は」
「兄さんですから」
「ええ。兄君ですね」
二人には僕がどう見えているのだろう? 少し気になった。
「それで今日も夕餉を?」
「一人で食べても味気ないでしょ?」
「そうかも……ですね」
「お隣さん同士。近所付き合いと言うことで」
「はあ」
ボンヤリと九十九の頷く。うん。いい子いい子。
「食事代くらいは出しますけど?」
「要らないよ」
「しかしソレではあまりにご無体な」
「一人で生活できるって事は料理も出来るんだよね?」
「人後に落ちない程度には」
「じゃ返代としてご馳走してよ。僕たちに」
「その辺りが落とし処ですか。ええ。承りました」
チョンチョンと九十九の人差し指が僕の手の甲を叩く。
「何か心は見えた?」
「空虚な穴と、めいっぱいの優しさが」
サイコメトリー。その御業。
「兄君の凪のような心は安心しますよ。どう幸せに生きたらそうなるんです?」
「そこまでは読めないの?」
「別に心の全てを読み取れるわけでもありませんし、記憶を再演するわけでもありません」
「なるほどね」
ま、結論だけ語れば、
「華黒がいるだけで僕はなんとか生きていけるから」
視界の壊れた兄妹は、互いに見えない世界をフォローして漸く一人前を演じられる。
「義姉君が」
「兄さんにおきましては愛が深いです」
ハラリと赤面する初心さ。
「あの呪怨を抱えて、それでも恋に落ちますか」
「兄さんだけは憎しみの対象外です故」
ま、そうなるよね。
「だから華黒は可愛いよね」
「いやん」
はにかむ華黒だった。確かに可愛いんだけどさ。
「ちなみに僕のことは義姉君はお嫌いで?」
「嫌いではありませんよ。実妹なら兄さんも手を出せないでしょうし」
元よりそんなことを思ってもいないものだけど。
「えーと」
「何か思うところでも?」
「兄君は僕のおっぱい揉みたいので?」
「揉みたいと言うより」
「言うより?」
「揉みしだきたい」
うわ、と九十九が引いた。冗談だと分かってはいるようだけど、自身のバインボインが如何な威力を持つかは自覚もしているようだ。南無天満自在天。




