ドン引き3
「華黒とルシールと黛のかしまし娘は真白の嫁」
が学内に敷衍したのが数日後。
僕の自傷癖まで流されて、世論はあっという間に固まった。
もちろん納得しない輩もいるだろう。けれどもたしかにかしまし娘は告白する人間を片っ端から切って捨てる。ちなみに僕も。どうやら男女問わず惹き付けるようで、対応にも苦慮をした。そんなに女顔ですか。分かっていたけどなんだかな。
「……………………」
そんな折、学食で九十九を見つけた。相も変わらずのイケメンっぷり。それだけで世界を制覇できるだろう。窓側の二人掛けの席に一人で座り、窓から学内を眺めていた。
「何か面白いモノでも在るの?」
「兄君」
「何でも良くモテるとか」
「兄君に言われると恐縮してしまいますね」
「こっちは因業みたいなものかな」
「ではその通りに」
ここら辺は確かに僕の妹だ。
「九十九は男子制服を着てるんだね」
シャツにトラウザース。ネクタイが胸元で曲線を描いている。弾けんばかりの巨乳はあまりに男子制服を裏切っている。
「義姉はよろしいので?」
「厄介事。それより君は? 友達と食べたりしないの?」
「友達いないし」
「ぼっち?」
「ま、そうでしね。引かれてもいるみたいですけど」
そこら辺は僕の関する事の出来ない問題だ。何故って僕も引かれてるし。
「兄君は本当に男?」
「妹君が本当に女だという事実程度には」
「なるほど。血は繋がっているわけですね」
恐縮だね。
「友達は良いよ。人脈さえ在れば人生は何とかなる」
「打算の無い言葉であるのは覚えますけど、そんなのは兄君だけに候ひますよ」
「友達だってギブアンドテイクさ。有益な環境は維持すべきだ」
「本気で言ってます?」
「ミスディレクションは起こしていないつもりだけどな」
「胡散臭いのは認めるわけで」
「僕は自己評価が出来ないからね」
「?」
少し九十九はキョトンとした。僕と同じ色の瞳が僕を映す。
「それで友達を作りなさい……と説教しにきたわけで?」
「別に? 友達が少ないのは僕も一緒だしね」
「恵まれている様ですけど?」
「はたして恋心を友情と呼んで良い物か」
まして半数は破綻している。
「……………………」
ピアノの鍵盤を叩くように、人差し指で僕の手の甲を叩く九十九。
「ふむ。嘘はついていませんね」
「何を根拠に?」
「自発的嘘発見器」
ソレこそ嘘のようなことを平然と述べ奉る。
「どうしたらそこまで他者を思いやれるので?」
「別にそんなつもりもないけど」
「その言葉が出るだけで、物語の中の正義のヒーローですね」
「間違いだらけだよ。僕の人生は」
「けれど真剣に義姉を愛していらっしゃいます由」
「ま、アレはね」
僕と華黒だけが知れば良い。
「じゃあ僕らが友達になるよ。九十九もソレなら良いでしょ?」
「兄君のご温情は有り難いのですけど、他の連中とは並列できません」
「何故そう言えるので?」
「兄君が許しているだけで分かりますよ。かしまし娘は……兄君に依存していらっしゃる」
「可愛いでしょ」
「けれど歪に候ひて」
茶を飲んでホッと吐息。
「九十九も十分歪だけど」
「兄君に僕の心が分かると?」
「まさか。君と違って読心術は持っていない。単なるイメージの総括だよ」
ククッと笑った。
「君が何にコンプレックスを持っているかは知らないけど……ちょっと面白くもまたあるだろうね。何にせよ半分は僕なわけだから」
「因業の深い御姿ですね」
「よく言われる」
「友達……ですか」
「今まで居なかったの?」
「父君と貧困生活に苦しんでいたので、遊ぶ余裕も在り申さず」
「白坂に帰順したんだからお金の心配はしなくて良いんじゃない?」
「おかげで父は死にましたけどね」
そこが引っかかりか。なるほど。学生が引くわけだ。
「兄君は何故に白坂に帰順しないので?」
「既に愛してくれる親がいます由」
「幸せに育ったのですね」
「そこはもう。否定するのが裏切りになるくらい感謝して……恵まれていますとも」
「は」
九十九が笑った。皮肉のようで。憐憫のようで。
「うん。笑えはするんだね。よかった」
「笑わないと生きていけない環境でしたしね」
「そっか」
慈しむかのように僕は苦笑した。性格がねじ曲っているの分かった。きっとこの子も絶望を選んできたのだろう。正確にはババを引かされた……か。だからってソレを拒絶するほど僕は頭が良くない。きっと世界でも有数の愚か者。ザ・フール。
「それでも友達に?」
「ご近所付き合いも大切でしょ?」
「付き合ってくれるので? こんなみすぼらしい僕を?」
「別に友達じゃ無くても良いけど。実妹だし。面倒を見る程度はしてもいいし、別段何を求めるでも無いしね」
「――――――――」
スパァンとビンタの音が響いた。発作的にやってしまったらしい。
「冗談ではなさそうですね……」
何を以てそう論じるのか。僕には分からない領域。けれど何某があるのだろう。
「と言うわけで、今日は夕餉を共にしよう。こっちで準備しておくよ。あーっと、それでスマホのメッセなんだけど――」
「はい」
結構あっさりと開示してくれた。これで何時でも連絡が取れる。
「じゃ、夕餉が出来たら呼ぶよ。隣様だし遠慮も要らないでしょ?」
「学校中がドン引いているのに兄君は逞しくあらせられますね」
「他人の評価には興味がないし。そんなもので自分の感性を損ねても勿体ないよ」
「幸せ者め」
それが九十九の精一杯の皮肉。たしかに僕は恵まれているけど……さ……。




