ドン引き2
「うわ」
「マジか」
「引くわー」
だいたいコレだけで僕への評価は覚れる。
「学内総引きね」
包帯の巻かれた手をブラブラ。そして華黒とラブラブ。ルシールと黛は三歩後ろに。
「兄さんは引かれるくらいで丁度良いですよ」
「華黒だけが知れば良いって?」
「かもしれませんね」
「男子アイドルに惚れたりしないの?」
「兄さんがアイドルになれば追っかけますけど?」
「華黒がアイドルになる方が良いと思うけどね」
「恋愛禁止されるのも嫌なモノで」
そこら辺が落とし処か。ラブラブ。
「百墨先輩!」
カーとカラスが鳴いた。僕と華黒が声のした方へ首を振る。ちょっと若々しい少年。顔の赤らみは恋の印。
「ちなみに誰で?」
華黒が問う。百墨先輩は三人居る。
「百墨華黒先輩です」
「はあ」
ボンヤリと生返事。さして興味もない様子。道理と言えばその通りなんだけど、ちょっと新入生男子に同情してみたり。
「そっちの詐欺師に騙されないでください!」
詐欺師……ね。スッと華黒の視線が冷えた。マズい。場合によっては掣肘も必要になる。
「華黒。暴力は禁止だよ」
「ぐ」
呻く華黒。する気だったんかい。
「百墨真白先輩?」
「なんでしょうか?」
「本当に男ですか?」
「実は女なんだけど、ちょっと家庭の事情でね。男として振る舞っている」
「――――――――」
瞠目する新入生に、
「ま、嘘なんだけど」
サラリと結論づけ。信じられるのもそれはそれで困る。ていうか体育があるので性別の誤魔化しは通用しないだろう。ていうか信じられそうになるほど女性的ですか……わたくしは。たしかにナンパには良く合うけども。あるいは難破か。
「で、要件は?」
「兄妹でイチャイチャしないでください! 百墨先輩は……もっと純粋に崇敬の対象として孤高であるべきです!」
ソレが出来るなら僕の肩の荷も下りるわけで。段々と冷えていく華黒の視線。憎しみで人を殺せない世界です。
「華黒」
「はいな?」
「愛してるよ」
「えへへ」
はにかむ華黒でした。もはや新入生は目に入っていない。
「そんなわけで諦めて。妹は誰にも渡さない」
「このシスコン!」
「名誉勲章だね」
その程度の罵倒は心にさざ波すら起こせない。
「ではさようなら」
僕ら四人はスルリと横をすり抜ける。ルシールと黛も興味がないらしい。基本的に僕らの敵が自動で二人の敵だ。それもどうかとは思うけども、事実なのだから否定してもあまり有意義ではありえない。かしまし娘の趣味の悪いこと。
「………………またラブレター……」
ルシールも毎度のことらしい。もちろん華黒も黛も。
「ごめんなさい」
「………………ごめんなさい……」
「いやぁ。すまんこってす」
三者三様にお断り申し上げた。
「「「「「そんな奴の何が良い!?」」」」」
とはフラれた男子生徒諸氏の僕への糾弾。
「私の王子様ですし」
「………………えと……優しいところ……」
「返せない恩義を持ち合わせております由」
そんな感じで快刀乱麻。
「で、こうなると」
僕は冷ややかな目で新入生に敵視されていた。もっとも一部では別の意見もあった。
「百墨先輩! 俺と付き合ってください!」
「華黒じゃなく?」
「百墨真白先輩と!」
「僕が男って知ってる?」
「存じておりますけど愛の前には無意味です」
そこまでわかって言ってるならいいんだけどさ。
「ごめんなさい」
僕のトラウマを抉るだけだ。それは僕と華黒しか知らない地獄。多謝と共有出来ない財産だ。統夜だって背景は知っているけど、けっして目で見て体験したわけでも無い。
「難儀な男だな」
教室でのこと。統夜はニヤニヤ笑っていた。新入生で派閥が出来ているらしい。華黒派。ルシール派。黛派。真白派。特に後者は女性にも人気だとか何とかで。
「統夜は気楽で良いよね」
「元よりそんな身だ。別段不満も無いね」
「全てが君のようだったらまだ生きやすいんだけど」
「皆が違うから皆が良いんだろ? 俺は嫌だね。善意だけの世界なんて。清濁合わせて人間の世を俯瞰したい」
「ソレは楽しいかい?」
「さてどうだか」
――けれど死なない身ってのもなんだかね?
統夜はそう呟いた。
「ま、三年生でもよろしく」
「おう。ついでに華黒ちゃんもな」
「気付いておいででしたか」
「背中にも目がついていてな」
たまに思うんだけど、コヤツの視覚はどうなっているんだろう? 少しミステリー染みている。まさか千里眼とは言うまいが。
「兄さんに好意を?」
「いや別に。俺には愛すべき知性体がいるしな」
サクッと即答。
「人間ではないので?」
「何を以て人間と定義するかにもよるが……さてどうだかな。そもそも……」
ククッと統夜は笑った。
「本当に下心有りきで真白に接していたら華黒ちゃんは刺しているだろう」
「否定は能いませんが、一応兄さんに掣肘はされております故」
僕が普通コンプレックスなので刑法に反する現象を毛嫌いしてるのでした。
ベンベン。




