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超妹理論  作者: 揚羽常時
三年生一学期編

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ドン引き1


「世に春のなかりせば」


「いきなり何を?」


「うーん。無念」


 朝食の味噌汁を飲む。ジンワリと身体が温まった。赤出汁だ。米とアジの開きもまた合う。うーん。華黒ニズム。


「手は痛みませんか?」


「今のところは様子見かな。傷痕は残るらしいけど、悲惨なことにはならないってさ。縫った創が塞がるまで糸はとれないらしいけど」


 当たり前です。


「兄さんはもっと自分を大切にすべきです」


「それだよねぇ。華黒のことを言えないよ」


「兄さんは私が見てあげますから」


「はい」


「あら素直」


「いや、さすがにね。華黒に世界と向き合えと言っておきながら、僕が自分と向き合わないのも不公平だと思いまして」


「でしたら一生このままで」


「ソレもどうだかなぁ」


 グッと拳を握る。ジクリと違和感があった。


「九十九はどうしてる?」


「知りませんよ。関わりもありませんし」


 そんな寂しい事言わないでよ。一応僕の妹なんですけど。たしかにアレは扱いづらいだろうけども。赤出汁をゴクリ。


「――――――――」


 インターフォン。ルシールと黛が現われた。どこか心配げなルシールと、それを笑い飛ばす黛。うん。良いコンビだ。


「何か飲みますか?」


 華黒がもてなそうとする。


「いえ。キッチンは把握しています由。黛さんが淹れますよ。お姉さんとお姉様は何か飲みたいモノはありますか?」


「じゃあコーヒーで」


「兄さんと一緒に」


「ルシールは何か飲みますか?」


「………………カフェオレ……」


「さっさーい」


 そんなわけで朝の時間。朝食を終えて、コーヒータイム。


「授業はついていけている?」


「………………一応……」


「ルシールの薫陶を受けておりますれば」


 言葉の使い方はともかくとして、黛もルシールに勉強を教えて貰っているらしい。ちなみに華黒は食器を洗っている。


「ところでお姉さんって虐められたりします?」


「ないかなぁ。華黒がイニシアチブ握ってるし」


「そのお姉様関連で嫉妬されたりは?」


「それこそ今更かなぁ。学校じゃ無くても目立つしね」


「お姉さんがソレを仰いますか」


「たまに百合だと間違われるんだよね」


「気持ちは分かります。すっごい分かります」


「それで引いたりしないの?」


「お姉さんに恋しちゃっていますから」


「ありがと」


 にこやかに笑う。


「もちろんルシールも大切に」


「知ってるけど、あまり逸らないでね?」


「………………えと……あう……」


 赤面して俯くルシールの愛らしさよ。ぎゅっと両手でコーヒーカップを握る。テンパり具合もまたルシール模様。


「結局お隣さんはどうしますので?」


「あまり関係も無いかな。華黒の敵意を刺激するし」


 ある種の僕の根幹で、ついでに華黒の根幹でもある。


「九十九が何かしたの?」


「実妹なんですよね?」


「法的にはね」


「お姉さんと反対ですよ」


「?」


 となる。


「いわゆるおっぱいのついたイケメン」


「それは知ってる」


「男子制服を着て、バインボインで、イケメンって事は周知の事実で、男女ともに人気が高いです。とくに一年の間では」


 新入生ね。


「先輩でも突撃する人がいますし、中々侮れませんよ」


「華黒は?」


「新入生がベタ惚れして、なんとかかんとか親衛隊に流れたそうで」


 あったね。そんな設定。


「二年と三年はお姉さんを知っているんで下火ですけど、新入生はお姉様しか知らないわけで。崇め奉られていますよ」


「うーん。青春万歳だね」


「お姉さんはよろしいので? 嫉妬したりは……」


「そりゃ華黒が移り気なら嫉妬もするだろうけども」


「お姉様に限っては在り申しませんか」


 そゆこと。コーヒーを飲む。


「ちなみにお姉さんも学内で有名ですよ」


「それなりにね」


「一年生の間でも」


「然程大層な人間でもござらんが」


「学内総引きです」


「引かれてるんだ」


「あるいは惹かれているのか」


 言葉って難しいね。日本語がややこしいだけなのかも知れないけど。


「兄さんは格好良いですから」


「ご苦労さん」


 食器を洗い終わったらしい。


「黛のコーヒーも侮れませんね」


「でしたらルシールと同じく妥協の余地はありませんか?」


「無理です」


「お姉様~」


「ルシールくらい無害になってから言ってください」


「無理ですよ。こんな純粋培養」


「………………どういう意味……?」


「天然って事だよ」


 僕が結論づけた。


「………………天然……」


 その可愛らしさに人為が介入せず。その純朴さに打算が有り得ず。その人の良さは反動を用いず。誰しもに怯え、傷つきやすい心はガラスのようで、庇護欲をそそる。まるで敵意の無い様は華黒をして毒気を抜かせる。だからルシールは華黒も妥協できるのだ。


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