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超妹理論  作者: 揚羽常時
三年生一学期編

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始業8


「元気そうですね」


 見舞客にしては珍しかった。僕と同じ髪と瞳の色。白坂九十九だ。


「この愚兄に何か用?」


「いえ、庇ってくださったことには感謝を」


 慇懃な口調は相変わらずだ。


「結局貴方は何なんですか?」


「流離いの風来坊かな」


「白坂の人間ですよね?」


「認めてないよ」


 僕は九十九にそう答える。そして実際にその通りだ。僕の姓は百墨。白坂とは関係ない。それを知っているのかいないのか。それは九十九次第だろう。


「兄君は何なんです?」


「さっきも聞いたね」


「何故自分を平然と捨て石に出来るんですか?」


「答えは持っていないよ」


 心に根ざした問題だ。ここで語るのもルール違反。別に同情されるために僕はためらい創を作ったわけじゃない。


「学生はどん引きしてますよ」


「元からだから。思うところも無いね」


「だからそういうところが……っ」


「愚痴なら他所で吐いて。僕はそんなものに付き合わない」


「助けたのに?」


「別に九十九のためってワケでもないし」


 単純な自動演算の結果だ。そこに至るために、僕は自分を捨て去った。ソレが歪だというのなら、死ぬより他に無くて。であれば華黒を守るのに必死になった過去の僕は狂っていたのだろう。華黒が世界を僕だけだと認識するように。


「次からは要りませんから」


「巻き込まれないならソレで良いけどね」


「本当に壊れているんですね」


「後天的な才能だよ」


「そこら辺の口が妹君は固いんですよね。何も教えてくれなくて、けれどもお兄様を連呼して。それほどの信頼を妹君から得ている兄君は何者為るや?」


「さて何でしょうね」


 別段誇らしい人生でも無い。あえて言うなら華黒が傍に居れば救われる。結局のところソレだけなのでしょうよ。


「病気なんですよね」


「病気の定義から入る必要があり申しましょうぞ」


 クスッと僕は笑った。別段皮肉も無い。僕の発症は単なる自己完結。心の障害とは言われているも、実際にどの程度の深刻さかは分かってもいない。多分華黒の方が良く分かっているだろう。


「華黒……ですか」


「同じ妹としてどう思う?」


「兄君を愛しているのは知っていますよ」


「照れる」


「皮肉のつもりだったんですけど」


 ソレを承知の上で。


「義妹の恋人。結婚しても兄さんと呼ばせるんですか?」


「さてどうだか」


「アレだけの美少女です。抱きはしたんですよね?」


「一応童貞だけど」


 処女じゃ無いけど。華黒も。僕も。


「なんなんでしょう。ホントに」


「何か目測で測れないことでも?」


「兄君にはアイデンティティが希薄すぎます」


「そっかな?」


 自覚はあるけども。


「良くソレで今まで生きて来られましたね」


「世の中の安穏なれ……かな?」


「復讐しようとは思わないので?」


「誰にさ?」


「兄君を刺した人間に」


「アレは放っておいても破滅するよ。僕の出る幕はない」


「死体を踏みにじって嘲笑はしないので?」


「趣味悪いでしょ?」


 僕は凪の心でそう述べた。ピクンと九十九の眉が上がる。


「貴方を……兄君を刺したんですよ?」


「だからって刺し返せば僕まで刑罰の対象になるし」


 ――どこからその捨て身が。


 たしかに九十九はそう述べた。


「とりあえずはちょっと変わった兄君と言うことで」



「自分でそれを仰りますか……」


「九十九もそっちの方が気楽でしょ?」


「さてどうだか……」


 納得はされていない御様子。別段必要も無いけども。


「結局自罰感情すら覚えないと言うのは驚異的にございます。結果として傷つけたわけですけども。本当に……どれだけ強いんです?」


「弱いよ。僕は弱い」


 そこは誤解して欲しくなかった。誰かのためにしか生きられない。他人をダシにして正当性を求める。そんな奴は正義のヒーローでも何でも無い。メサイアコンプレックスにすら笑い捨てられるだろう。


「だから自分を犠牲に為さるので?」


「他に理由がある?」


「自分が無いのも考え物ですね」


「よく言われる」


 実妹の言葉は強かった。


「学校で友達は出来た?」


「いえさっぱり」


「友達は良いよ。自分を助けてくれる」


「むしろ今回の件のように性欲で接する人間が大半ですよ」


「胸も大きいしね」


「揉みたいですか?」


「さすがにそこまでは。自重を促されたばかりだし」


 溜め息。


「じゃあ学校に通う様になったら、また同じ事を繰り返すので?」


「状況次第じゃないかな」


「なるほど。義姉が心配するわけです」


「僕としては見捨ててくれても構わないんだけどね」


「僕はそんな兄君の根幹に興味がある」


「その慇懃口調やめない?」


「ソレなりに礼節を重んじる環境に居たモノで」


 ゆるやかに九十九は一礼した。


「さて、ソレでは去りますよ。義姉とも顔を合わせたくは在り申しませんし」


「妥当だね」


「それでは。僕のことは放っておいて構いません由」


 その言葉がどれほど意味を持つのか。九十九はまだ理解していないらしい。いや確かに理解しろという方が無理難題ではあるけども。けれど見誤っている……の時点では確かにそうだ。九十九は真白を見誤っている。口にはしないけど。南無三。


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