始業7
「真白くん?」
「お兄様?」
今度の見舞客は昴先輩と白花ちゃんだった。確かにこの二人も心配するよね。どっちにも過去の経緯はバレているわけだし。
「華黒くんのことを言えないじゃないか」
「クロちゃんの苦労性……」
いやホントまこと以てごめんなさい。
「本気で言ってる?」
「無論表面上」
「そうだね。それが真白くんだ」
「酒奉寺も同じ事をしましたよね?」
「もう二年も前のことだね」
懐かしそうに昴先輩は独語した。昴先輩を庇って刺されたことは……か。
「でも白花ちゃんの時も発症したよね?」
「うぐ!」
痛烈だったらしい。胸を押さえる白花ちゃん。昴先輩より過去の話だ。
「それでクロちゃんは?」
「盛大に怒って心配され申し」
「一応慰めに行ったんだけど追い返されたね」
昴先輩の抜け目の無さよ。
「あまり発症されると困っちゃう」
「とはいえ業だしねぇ」
思考停止とも言う。
「ソコを分かってるなら否やも無いけどね」
「実感と実践は別物ですなぁ」
「お兄様は人と関わって暮らしていけませんよ」
「そうは言っても生きる上でコミュニケーションは必要だし。華黒は僕を養うつもりだけど、僕だって華黒を養いたい」
「でしたら白坂に帰属すればよろしいです。一生守って差し上げますよ?」
「何を酒奉寺の婿に来い」
昴先輩も中々だ。
「君ならば歓迎だよ」
「酒奉寺に白坂の血脈を入れてなるものですか」
「それで和議が成立するなら悪い話でもあるまいよ」
なんだか酒奉寺家と白坂家が僕を取り合っているらしい。
「真白くんはどうなんだい?」
「お兄様はどう思いますの?」
「華黒が隣で笑ってくれれば他に何も要らないかな」
ガクッと首根を脱力させる二人。
「その華黒くんを泣かせたのは?」
「僕だね」
「ナイフに立ち向かったのは?」
「僕です」
自白自供も今更で。
「本当にその内死にますよ?」
――最初から死んでるようなモノだけど。
少しそう思ったけど、二人には言ってやらない。視点が一般とズレているのだ。そこを僕は誤解していない。誰にもが見えて、誰もが大切にしているソレを僕だけは平然と切り捨てられる。そうしなければ今の華黒の笑顔は無い。おかげで厄介なしがらみも増えたけど、ソコを論じれば朝が来てしまう。
「結局二人は心配してくれるで良いの?」
「無論」
「当たり前です」
「九十九はどうしてる?」
「さて何と申すべきか」
白花ちゃんは戸惑っていた。
「入学式には出た様子で」
「入学式ね」
普通に普通な幸福だ。
「だったらいい。怪我が無くて何よりだよ」
「代わりに怪我した人間がソレを仰いますか……」
「真白くんらしいね」
皮肉だということは分かっていたけど、それでも受け止めるより他に無く。
「これからもこんな事が続くのかな?」
「人次第じゃないですか?」
基本受け身。リアクションを返すだけの自動装置。それが百墨真白だ。
「君の業の始まりはしっているけど、卒業するべきじゃないかな?」
「言葉にすると簡単ですね」
「そう相成るか」
昴先輩の嘆息。
「場合によっては首輪をつけて飼ってもいいんですよ?」
それは幼女の発想を超えているよ。白花ちゃん。
「でも確かに僕は壊れているから」
一般人より少しだけ。
「これが自意識過剰なら問題は無いわけだけど真白くんの場合はガチだしね」
「お兄様は面倒です」
「見捨ててくれて良いよ?」
「有り得ない」
「有り得ませんよ」
そこをどうにか。
「ま、華黒くんには説教されるんだね。私はソレを楽しもう」
「趣味の悪い……」
いっそ感嘆として僕は述べた。実際に一番精神的に摩耗しているのは華黒だろう。僕が傷つくことで心を痛める。なのに止めようが無く、僕は傷ついてもケロリとしている。だからきっと華黒の涙は僕の涙。僕の代わりに華黒は泣く。それだけで救われた気持ちに成るのが、華黒にとっての「巫山戯ないでください」に相当するとしても。
「心に重荷があるなら愛で軽くして見せようか?」
昴先輩は僕のおとがいを持ち上げた。
「刺されますよ」
「華黒くんの暴走も見切ったよ。この程度で刑事事件は起こさないさ」
「どちらにせよ却下。恋人が居るので」
「その恋人を蔑ろにしているのは誰かな?」
「うぐぅ」
そこはまぁ確かに痛手で。痛痒に値する。
「お兄様さえ望めば、白坂は支援しても良いんですよ?」
「興味なし」
ソコは確かに事実だ。
「お兄様は頑固に過ぎます」
それが僕で華黒だから。二人で漸く世界を見れる装置になる。そうなったことに後悔は無いけど、けれど幸せに暮らす夢も見られなくて。別段「何だかなぁ」で済む話と相成りましょうぞ。無念なり。
「しかし九十九くんも絶世の美少女だね」
「条例違反ですよ」
「愛に法は適応されないよ」
先輩がソレで良いなら良いんですけど。たしかにおっぱいのついたイケメンだよね。昴先輩の目には美少女に映るらしい。それでこその酒奉寺昴と言えまいか?




