始業3
「結局のところ、教師の言葉なんて子どもには意味不明の羅列なわけでして」
昼休みは食堂。普通に初日から授業も再開されたので、昼休みだって在るし、学食も開いている。僕は五目焼きそばを食べていた。
「普通にコミュニケーションとして不足しているのは大人の認識能力だと黛さんは思うわけです」
そんな感じでカツカレーを食べながら、黛は持論を披露して見せた。
「たしかにね」
実際、既に始業式が終わってから数時間。大人の話など憶えてもいない。端に突っ立っていて、「早く終われ」と心で念じたのも確かだ。式というのが大人の行事なら、巻き込まれる子どもの感性こそ未熟にして取り扱い明るくしなければならないかと。そんなことを表立って言えば「空気読め」と言われるので黙祷するも。
「で、ルシールと黛は一緒のクラスになれた?」
「ばっちしです。お姉さん大好きコンビは今年も不動ですし」
理系だしね。あとそのピースサインは何に対する勝利なのだろう?
「兄さんとは不変の絆ですし」
こっちも理系だしね。五目焼きそばをアグアグ。
「………………お兄ちゃんは……大丈夫……?」
何が――かは聞かない。あまり愉快な話でもない。
「華黒が居るから心丈夫」
「兄さん!」
ムギュッと抱きつかれた。柔らかな双子山は僕の胸元で押し潰れる。うーん。パイオツの威力の凄まじさよ。
「ところでなんでしたっけ? お姉さんのお隣さんは……」
「白坂九十九ね」
「その人も関わるんですか?」
「どうだろ?」
嫌われてるっぽいしなぁ。初見でビンタされたのだから。八つ当たりとは分かっていても、悪感情が自発的に消せるなら戦争なんか起きないわけで。六トンほどの憂鬱が紙吹雪のように舞い散った。それは不安と呼ばれる感情図。
「さすおねですね」
それを君が言うかね黛。半眼で睨んでもどこ吹く風だ。良い肝っ玉をしている。
「受験勉強の方は?」
「まぁなんとかね」
「兄さんはやる気さえ出せば地頭は悪うございませんので」
「なんかテレビゲームとか興味なさげですしね」
「いや別に嫌いじゃないんだけど」
心の仮託が恋に寄る。
「ま、こっちにも色々ありまして」
「ゲーム苦手なんですか?」
「アクションや格ゲーは特に」
「ははぁ」
「………………あう……」
ルシールも苦手そうだ。基本ぶきっちょだし。僕に言えた話か……って話でもあるんだけども、それはそれとして閑話休題。
「ルシールと黛も某大を?」
「まぁ偏にそう相成りますか」
ポヤッと黛。
「………………です……」
フニャッとルシール。
「コッチが滑ったらダダ滑りになりそうだね」
「不吉なことを言わないでください」
華黒の方は心配いらないんだけど……何だかね。
「一応A判定なんですよね?」
「ま、ね」
そこはちょっと誇らしい。他に打ち込む趣味もないので、勉強に時間を回せるのも強みだろう。読書くらいはするけども。五目焼きそばをズビビ。
「で、九十九とお姉さんの関係は?」
「妹」
「は?」
「………………へ……?」
そりゃ後輩コンビはそうもなる。実際に誤用のしようもない御言の葉だ。僕が聞いても胡散臭いが先に来る。それほど突飛で、非現実的な事実。けれども嘘を言っていないどころか僕的に誠実に語る辺り、その異常性が際立つのも真理で。
「白坂九十九。僕の実家の異父妹だよ」
「種違いって奴ですか」
「間違ってござらんな」
焼きそばアグリ。春の陽気を窓から受ける。
「うわ」
「そこで引かないでよ」
「だってお姉様に『兄さん』って呼ばれてルシールに『お兄ちゃん』って呼ばれてるんですよ? このうえ妹キャラを増やしてどうするので?」
「インフレーションだよね」
そしてそのどれもが僕の関知するところじゃないのも。いや責任は取るけども。
「ここは黛さんも見習って『お兄さん』と呼ぶべきか……」
「いつも通りで良いよ」
別段張り合う次元が低すぎる。呼称程度で関係性が変わるなら、世のロマンスは全て破綻する。というか既に僕の周りの人間関係が破綻している気もすれども。さていったいどう立ち回れば正解だったのか? 考えざるを得ないのも悲しいところではあったり。
「お姉さんは謙虚だね」
「ていうか華黒の暴走を止めるのが第一義で」
「どういう意味です?」
ニッコリ笑って聞かれると……それはそれで恐怖を覚えるんだけども。一種のバイオハザードとでも申しましょうか。生物的な災厄という意味では確かにその通り。
「結局九十九次第だね」
「格好良かったですよね?」
「………………えと……うん……」
「兄さんには関係在りませんけど」
それもどうよ? たしかに種変りなら手は出せないけども。そこで一悶着起きたのは、華黒の方じゃなかろうか。最終的な決着については、僕の采配寄るところが大きいけども。
「お隣さん同士助け合えれば良いんじゃない?」
「だからジゴロって言われるんですよー」
不本意な黛の言い様。そしてそれを否定できない僕。
「………………その……お兄ちゃんは……」
「実妹に思うところもありませなんだ」
「あったら消すだけですけどね」
「男より女に惚れられそうな容姿でしたね」
「………………でも……おっぱいは……大きかった……」
フニフニと自分の胸を揉むルシール。超可愛い。ぐうかわ。このままお持ち帰りして滅茶苦茶にしたい。首輪をつけてリード握って保護したい。子猫の耳と尻尾なんてよく似合うだろう。うーん。傾国の美少女にも値する。
「何か良からぬ事を考えていますね?」
「華黒にはバレるよね」
「兄さんの恋人は私ですよ。お忘れなく。どんなプレイも受け入れる覚悟です」
「適材適所という言葉がござんして」
「ルシールなら辱めて良いと?」
たしかに妄念の一つとしてはある。馬鹿正直に口にしたりはしないけどね~。




