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超妹理論  作者: 揚羽常時
三年生一学期編

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始業1


「兄さん。おはようございます」


 瞼を開くと愛妹がいた。


「今日は悪戯しなかったね」


「恋人の寝顔を眺めるのも乙女の特権でしょう」


 たまに純情になるよね……華黒って。濡れ羽色の髪には一分の隙もない。


「起きられますか?」


「キスしたら起きる」


「ではその通りに」


 微塵一寸の躊躇もなかった。唇に唇が重ねられる。軽いキス。


「ん。元気出た」


「それはようございました」


 そして僕は春の陽気の中でダイニングに向かう。冷えた麦茶が置かれていた。コクコクと飲む。それから不自然に気付く。朝食が用意されていない。華黒は常に先手を打つ。僕を愛するのも、僕を養うのも、全ては並列だ。華黒が僕の寝顔を見ていたと言うことは、つまりその余裕があるだけの下準備を重ねているのが普通なわけで。


「今日の朝食はルシールが作っていますよ」


 同じく麦茶を飲みながら華黒が答える。


「くあ」


「眠そうですね。お姉さん」


「五月病」


「やっとこ春休みが終わったばっかりなんだけどな」


 うん。まぁね。何時までも惰眠を貪ってもしょうがない。


「しかし新入生ですか。華黒お姉様やルシールを知らない生徒はビックリでしょうね」


「僕自身ビックリだし」


「お姉さんだって注目集めますよ」


「否定したいのに根拠がないんだよね。ま、言うて黛も対象内だろうけど」


「怪物三人に対抗しようとは思いませんよ?」


 謙虚なのか、皮肉なのか。


「ま、なんとかかんとかね」


 麦茶を飲み干す。


「………………えと……その……出来ました……」


「おはようルシール」


「どうもです」


「………………おはようございます……」


 ペコリと一礼。僕と華黒に朝食が振る舞われる。トーストとブルーベリージャム。スクランブルエッグとレタスサラダ。ついでインスタントのコンソメスープ。


「おお。成長の後が見て取れる」


「………………実質的に……スクランブルエッグしか……作っていませんけど……」


「それでも僕よりは偉い。何もしないからなぁ」


「兄さんは私に飼い殺されていればいいんです」


「……………………」


 シャクリとトーストを食む。ルシールお手製だ。売ったら三千円は取れると思う。いやまぁ全世界共通の貨幣制度で表現すればと言うだけであって、本気でやるつもりはないんだけども。


「始業式かぁ」


 後日入学式で、九十九はソコに参加するらしい。ついでに僕らにはロングホームルームなどない。始業式が終わった瞬間に授業再開だ。そりゃ進学校だし、受験生だしで、怠けている余裕も無いものだけど。足すことの一。


「さてどうしたものか」


「とりあえず兄さんは推薦を取るところから始めてみましょう」


「然程の優等生でもないんですけど」


「一応成績は上がってきたじゃないですか」


「華黒の調教のおかげでね」


 世の中に桜のなかりけば。


「私は調教されたいんですけど」


「朝食中にいきなりな下ネタふってこないでよ」


「兄さんの恋奴隷ですよ?」


「じゃあ然るべき処に売り払いましょうか」


「何故です~!」


 自分の胸に聞いてみそ。


「お姉様は平常運転ですね」


「ある種のイニシアチブだよね。唾の付け方が露骨というか」


「でもお姉さんだってお姉様が別の人間に惚れたら寂しいでしょう?」


「たしかにね」


「愛しています!」


「やっぱり前言撤回で」


「兄さ~ん」


「じゃかあしい」


 色んな意味で。けれども確かに思うところがあって。今の幸せがあって。コレが壊れたら……僕の世界はどうなるのだろう。


「ルシールの朝食美味しいね」


「………………恐縮……です……」


 そうやってルシーるのも可愛い。


「今度は黛さんが朝食を作って差し上げましょうか?」


「控えてください」


「僕は別に良いんだけどなぁ」


 黛は料理上手だし。


「お姉さんって因業が深いのに潔癖ですよね」


「こちらにも色々ありまして」


 別段なにがどうのでもないけど。童貞ではあるけど処女ではなかったりね。多分言ったらドン引きされるから口は封じる。そこは華黒も阿吽の呼吸だ。知っているのは僕らと医者だけでいい。後は酒奉寺家と白坂家か。


「予習はしましたか」


「それなりに。寝たらすっ飛んだけど」


「模試もありますから不安を呼ばないでほしいんですけど」


 然もありなん。


「世の中やってもダメなことばかり……か」


「そこで不敗の魔術師の愚痴を持ってこられても」


「そこはまぁ華黒次第と言うことで」


「授業料を取るべきでしょうか?」


「金銭?」


「身体」


「じゃあルシールに家庭教師をして貰おう」


「………………はぅあぅあ……!」


 ルシーるのが面白い。赤面する美少女は、あまりに趣があった。こりゃ新入生もイチコロですかな? 当の本人が虚しい辺り……なんだかなぁな感じではあれど。


「結局黛さんはお姉さんの朝食を作ってもよろしいので?」


「よろしいよ?」


「よろしくありません」


 こと僕に関する限り、僕ら兄妹は阿吽の呼吸とはいかないようだ。


「仲が良いんですね」


「共依存の関係かもね」


「兄さんはヤンデレですから」


 華黒と黛にだけは言われたくない。


「やっぱり純情ヒロインはルシールかな?」


「何でですか!」


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