血の支配9
「にしてもおっぱいのついたイケメンでしたね」
「九十九のこと?」
「ええ」
爽やかに華黒は断じた。僕にも否定はない。
「でも安心しました。兄さんに好意は持っていないようで」
「嫌われてるからね」
「何かしたんですか?」
それはそんな疑問も出る。
「僕の母親――」
「――白坂撫子」
「その人は九十九を置いて去ったらしくてね。似たような貌を持っている僕が気にくわないらしい。ま、八つ当たりって白花ちゃんは言ってたけど」
「兄さんが撫子に似ているから排斥対象?」
「そゆことになるのかな?」
「不条理では?」
「今のこの状況ほどじゃないよ」
「何か不利益でも?」
「性欲を持て余す」
「なんですかねぇ」
覚ったような口調が鼻につく。今は風呂の時間。入浴を二人で。当然水着は纏っているけども、ボンキュッボンの肢体は隠せていない。
「そういえば九十九もおっぱい大きかったですね」
「何かの因業かな」
「ちょっと油断なりませんね」
「一応妹だから手を出さないんだけど」
「実妹……ですか」
「さいですとも」
「兄さんを兄と慕う人間が多すぎて困ります」
「黛は?」
「お姉さん扱いですけど要するに兄さんに年上の貫禄を求めていますよね?」
「だね~」
そこは否定能わず。
「兄さんは私の兄さんで在れば良いんですけど」
「妹が何で兄と風呂に入るの?」
「兄妹ですから」
「それ、九十九に言っていい?」
「ダメです」
そういうよね。嘆息。あ、華黒の平常運転は大概暴想するので、一々付き合っていてもキリがないのは事実。とはいえブラコンについてはどうしたものか?
「世界は広いね」
「むしろ狭いくらいなんですけど」
世界がイコールで僕なら華黒の意見も賛成するけども。
「そうじゃないって知ってほしい」
「ま、そう相成りますか」
華黒も分かってないわけじゃない。契約だしね。
「でも兄さんが嫌われるのは我慢なりません」
「懐いたらソレだけで排斥するでしょ?」
「ぐ……」
図星のようだ。別に可愛いから良いけどね。パシャッと湯面が跳ねる。華黒の健康的な脚が伸びた。黄金比で形成されるしなやかさだ。
「好きにして良いんですよ」
「じゃあ好きに放置するよ」
「兄さんその道徳心への服従の仕方は思春期には有り得ないんですけど……」
「統夜にも言われたよ」
「そなんですか?」
「男女の関係として」
「ふむ」
「僕こと真白が華黒を抱かないのは物理的に矛盾があるって」
いや、言いたいことは分かるんだけど。
「では何故?」
「ま、都合の問題。こんなところで躓いてもしょうがないし」
「に~い~さ~ん~」
「甘えた声を出しても考えは変わらないから」
「早速卒業の準備をしましょう!」
「来年まで待とうね」
「永すぎます!」
いや、言いたいことは分からんでもあらじ。でもさぁ。なんかさぁ。好きだから抱くってのも違わない?
「違いません!」
「じゃあ老齢化しても華黒は僕とセックスするの?」
「うぐ……」
盲点だったらしい。珍しく僕が華黒をやり込めている。
「その時は孫に囲まれて大往生です」
「子どもを作るのは決定事項なのね」
「兄さんは欲しくないんですか?」
「華黒の子どもなら欲しいけど」
「じゃあ致しましょう!」
そーゆーよね。嘆息。ふい、と湯船の中で温かな吐息をはいた。
「責任が取れる様になったなら」
「兄さんは何時もソレです」
「華黒を想ってのことだよ」
「生殺しですぅ。諦めきれぬと諦める所存ですぅ」
「そのまま飼い殺されていて」
「に~い~さ~ん」
ガクンガクンと首を振られる。そこまで僕に抱かれたいのか。たしかに僕だって華黒を抱きたいけど。ソレとコレとは乖離していて。だから普通に理性も保っていられる。
「九十九を抱いちゃいけませんよ?」
「むしろ嫌われてるしね」
「撫子に似てるってだけで?」
「ま、連立方程式で人の間合いが計れるなら戦争なんか起きないわけで」
「兄さんが私を抱く方程式もあるというわけですね」
「さてソレについては明言しないけども」
「してくださいよ~」
「しないけども、嫌いなことがあるって寂しいよね」
「兄さんでもそう思うんですか?」
「華黒が思う程度には」
「私は兄さんが居れば他に何も要りませんし」
「だからソレを矯正するために僕がいるんでしょ」
「大好きです! 愛し存じております! 兄さん!」
「はいはい。聞き飽きたよ」
「だったら新鮮に私のおっぱいでも揉んでは如何?」
「社会に出たらそうするよ」
「兄さんのヘタレ具合は度を超してます!」
「じゃあ別の男を見繕うんだね」
「無理です!」
知ってるけどさ。だから安心して拒絶できる。そこを華黒は分かっているのかな? 少し疑念も持ったりして。十八禁は量子コンピュータに任せる方向性で。無無明。




