血の支配6
ズビビー。
「ところでルシールとお姉様の集中力はどこから来るので?」
「あまり意識したことはありませんけど」
「………………同じく……」
天性の物らしい。ま、実際に聡明なのは分かっているけども。
で、件のラーメン屋。僕は味噌ラーメンでモヤシとメンマ増し増しを頼んでいた。麺を手繰って、すすり込む。
「あのぅ。午後も勉強を?」
「いえ、さすがにオーバーワークは身につかないので」
とは華黒の言。いちおうこっちの限界も見切っているらしい。普通に青春も送りたいしね。ちなみにその華黒は、春らしいジャケットを纏いデニムの短パンを穿いていた。それで……ということになるわけだけど。
「じゃあお姉さん。デートしませんか?」
「華黒に刺されるからヤダ」
「兄さんを刺しませんよ」
「でも黛は刺すでしょ?」
「犯罪にならない程度ですよ。司法裁判を受けて実刑判決を喰らったら兄さんと一緒に居られませんもの」
さすがのヤンデレ気質だった。麺をズビビー。
「お姉様は本気で」
「殊……僕の関連になると大マジだよ華黒は」
実際に襲うまである。性的な意味でも攻撃的な意味でも。まぁヤンデレの素質具合では黛も大概負けてはいないけども。
「にゃむさんぽう」
うなだれる黛。
「………………お兄ちゃんは……幸せ者……」
まぁね。それね。愛する人と寄り添っているのだから、これ以上を望むのは罰が当たる。
「ルシールも幸せになりたい?」
「………………えと……お姉ちゃんが……ダメだから……」
「だってさ華黒?」
「兄さんは私の嫁ですから」
クールごとに変わる奴ね。
「いえ、永遠の愛を体現しますよ?」
「嬉しいよ」
「ふぇ?」
むしろ華黒はキョトンとした。
「何か?」
「いえ。まさか純粋に肯定されるとは……」
あー。それね。
「一応僕だって華黒を愛してるよ。性的な干渉は疲れるけど、思うところがないわけじゃないし。何より華黒は可愛いしね」
麺を手繰る。ズビビー。
「ついにデレ期が!」
「来てないから安心して良いよ」
「そこでハシゴを外しますか」
「華黒が調子に乗ると余計な気苦労をするし」
「それも不本意なんですけど……」
「ま、別段何を思うでもないし」
「大好きですよぅ。兄さん……」
「一応店内なので礼節をお守りありたし」
兄だの妹だので愛し愛されはタブーだろう。にしてもメンマが美味しい。
「じゃ、午後は四人でデートって事で」
「異議無し」
「………………あう……」
「妥協点としては妥当ですね」
ルシーるルシールの反応が一番可愛い。
「ところで」
麺をズビビー。
「黛もルシールに勉強教えてもらってるよね?」
「ですね~」
「大学に進学するの?」
「ルシールと一緒の大学に行きたいですし」
「にゃるほど」
「そしてルシールはお姉さんと一緒の大学に行くんでしょう?」
「………………あう……」
図星らしい。僕の周りは聡明な人物が多いので、こんな純朴な精神を持つルシールの存在は有り難かった。なんというか……癒される。形而上的に。
「兄さん?」
「何か?」
「浮気はダメですよ?」
「恋人が居るんだからしないって」
「本当に?」
「不慮を思うなら幾らでもどうぞ」
別段、浮気はしないにしても、浮気を疑う華黒の心をどうにかしようとは思っていなかった。華黒の一本気も希少だけど、ま、別段こっちの事情はまた違うしね。
「兄さんが居れば他に何も要らない」
から卒業させるのが僕の役割だ。
「さてそうなると」
どこに行くかですけど。
「なにか候補がある人」
麺を手繰る。ズビビー。
「はいはいはい」
挙手する黛。
「言ってご覧じろ」
「釣り堀」
「なるほど」
そう言えば近場にあったね。
「反対意見は」
「…………」
「………………」
華黒もルシールも異存は無いらしい。
「ではその通りに」
そんなわけで釣り堀デート相成った。釣り好きに悪い人間はいないってイブニングガールも言っていた。いや別に特筆して好きなわけでもないけど、ボーリングやビリヤードのように、好きな人間に付き合って満喫するのもデートの一環だろう。ところで釣り堀って夏の季語だっけ?
「兄さんはいいので?」
「特に不満もあり申さず」
「………………お兄ちゃんは……優しいね……」
――そんなに憧憬する事かね?
「楽しみですね。お姉さんの恋心をキャッチ&リリース!」
「手放すんですか?」
華黒のツッコミは適確だった。まぁキャッチしたままだと血が流れるのでソコは良いんだけども。それにしても釣り堀ね。魚ってどうして餌に食い付くんだろう? ちょっとは警戒というか学習しても良いだろうに。それとも人間原理でそう定まっているのか。世の中不思議なことばかり。まず真っ先に上げられる不思議が華黒の恋心なんだけど。




