血の支配3
「で、なんで僕はビンタされたので?」
「多分だけどお兄様が伯母様そっくりなことが起因だとか何とか」
「んーと?」
「あまり傷は抉りたくないんですけど」
茶を飲んで間を空ける。
「お兄様は玄冬巌の子どもですよね?」
「だったね」
確かにソレは古傷を切開する。童貞であっても処女じゃない。その離反性を作ったのが玄冬巌という男だ。ついでに僕の実父。
「で?」
「その後、巌と何があったのか……離れて別の男性と恋に落ちたらしいのです」
「撫子さんが?」
「ええ。お姉様が」
「つまり生きてるって事だよね?」
「一応そのつもりで探してはおります」
「ふむ」
「で、巌の時と同様に、伯母様は九十九お姉様を産んでからまた失踪したらしく」
「本気で裸の大将になってきたね」
何を考えての行動なのか。
「何でも九十九お姉様も写真以外で伯母様のお記憶はないとのことで」
「僕に至っては写真ですら無かったんだけど」
愚痴を言えばキリも無いけども。
「それで?」
「父一人子一人で生活をしていて、三月にお姉様の保護者である父親が亡くなったそうです。遺書に残されたモノを見れば、何でもウチ……白坂家を頼るようにと」
「一応撫子さんの子どもでもあるわけだしね」
「ですので三月に引き取って、市役所で姓を白坂に変更したわけで」
「不幸な生い立ちだなぁ」
ぼんやりと僕は述べた。
「なので九十九お姉様にとって撫子伯母様は、自分を唯一育ててくれた父親を裏切った対象で、ついでにその写真の姿がお兄様と一致するとなると」
ああ、それで、
「八つ当たり……と」
そういうわけか。
「お姉様も明晰な御方です。本気でお兄様を憎んでいるわけではありません。その辺りをどうにか熟考してくれませんか?」
「別段ビンタされたくらいで嫌ったりはしないけど……」
「一応学校でも後輩と相成るので、フォローしていただければ」
「華黒が暴走しないと良いけど」
「クロちゃんまだ卒業できないんですか?」
「あれは純真の一つの究極です由」
「たんなるヤンデレですよ」
「否定したいんだけど能わずってところが……華黒の可能性の一つだよねぇ。ソコもまぁ可愛いんだけど」
「お兄様は大丈夫で?」
「何年の付き合いだと思ってるのさ」
「そうですけど……」
茶を一口。
「で、まぁ種違いの実妹が居ることは理解したし、白坂に帰順したのもこの際僕には関係ない。学校の後輩……にしては頭良いんでしょ? 別段何がどうのでも無いと思うんだけど……フォローが要るの? アレ……」
「世の中には困った人間も居るモノですよ」
そんな奴はどこにでもいる。昴先輩とか華黒とか。
「じっさい貧困生活が身についているらしくて……」
曰く、保護者である父親の収入は少なかったらしい。九十九もバイトをして家に金を入れており、ソコに来て父親の突然死。そりゃ貧乏性にも成るだろう。
「白坂の屋敷は居心地が悪いみたいなんです」
「その気持ちは分かるなぁ」
なんていうかブルジョワジーなノスタルジー。
「お兄様も、ですか?」
「それなりにね」
春は酢昆布でも囓りながらテレビを見るのが庶民というものだ。
「で、まぁ生い立ちが生い立ちなので、どうにも九十九ちゃんは捻くれていまして。真白ちゃんにはビンタのことを忘れて貰って実兄として導いて貰えれば、と」
「百合さんは何もしないので?」
「お姉様の子どもなら全力でフォローするよ? でも大人の意見って思春期には煩わしいでしょう?」
そんなものですか。僕も華黒も思春期が無かったから何ともはや……。親に反抗するにも引き取ってくれた父さんと母さんに唾を吐くのは躊躇われた。それは華黒も一緒だろう。
「だからお願い。九十九ちゃんを見守ってあげて?」
穏やかに年季の入った和やかさ。一子の母は老獪だ。
「頼まれれば否とは言えませんけども……華黒にどう説明するかなぁ」
茶を一口。濡れおかきをパクつく。
「実妹なんだから性欲の対象じゃ無いでしょ?」
「ていうかイケメン過ぎません?」
「お姉様も男装するとあんな感じだったのよ?」
まず男装するのかよ……ってツッコむところでしょうか?
「ああいうのをおっぱいのついたイケメンって言うんだろうね」
「お兄様。世俗に塗れすぎです」
「元より俗人だし」
そう言う問題では無いにしても。
「実妹ね」
いきなり好感度が最底辺な気はするけども……撫子さんが産んだと医学的に証明されているならその通りなのだろう。僕の時もDNA鑑定はしていたしね。結果ドッタンバッタンの大騒ぎになって、しかも結論はぐずぐずという最悪のイコールを為したんだけども。
「ここから瀬野二に通うの?」
「いえ。お兄様のアパートの隣に住んで貰います。手配もしております故」
鏡花と水月が住んでいたアソコか。たしかに妥当ではあろう。
「てなわけで、お兄様への協力も取り付けましたし、如何です? 今夜は此処で食べていかれては……」
「かしまし娘に刺されるから絶対嫌」
赫怒の華黒。ルシーるルシール。不満げな黛。ご覧の如くお送りしますの映像が鮮明に流れてしまう。ドイツもコイツもイタリアも……僕のことが好きすぎる。
「あらら。お兄様は束縛されたいタイプですか?」
「むしろ放置プレイを楽しむタイプ」
「でしたら……」
「九十九以上に……僕は華黒を放っておけないからね」
血の支配。流血の盟約。厨二的な表現をすればそんな感じ。
「残念です」
「まぁまた機会があれば顔を出すよ。そっちから出してくれてもいいけどね」
「ではカバディをしましょう」
使用人を使ってね。ところで屋敷ではメンインブラックを見ないよね。メイドさんはちょくちょく見るけど。
「それにしても」
――母親への憎しみか。僕には分からない感情で、ついでに因業。僕にとっても世界は華黒で、守るべき大切な者はとうに見つけてある。九十九はソレを亡くしたのだろうか?




