血の支配2
「「「「「お帰りなさいませ。お嬢様。真白様」」」」」
帰ってないんだけど。まぁメイド喫茶に迷ったとでも思おう。
「それで実妹が出来たって話だけど……」
「うん。まぁ。そのね」
広い屋敷……白坂屋敷を歩きながら、指定された部屋へ行く。
「私のお母様のお姉様……は憶えてる?」
「実の親としての記憶は全く。撫子……って名前だったっけ?」
「そ」
ちなみにその妹……白花ちゃんの母親が百合さんだ。
「で、最近撫子様の子どもを保護しまして」
「実妹って本当だったんだ……」
「ええ。本当ですとも」
そうして客間に辿り着く。
「連れてきたよー」
使用人が扉を開き、僕と白花ちゃんが入室する。中に居たのは二人。一人は百合さんで、もう一人はイケメンだった。年齢的に僕と同等チョイ下くらいか。顔は十人が女なら十人とも振り返る美貌。けれど盛大に巨乳が裏切っていた。所謂アレだ。「おっぱいのついたイケメン」って奴? それにしても華黒と同等かそれ以上だ。赤い目はスッと細められ、何やらコッチを睨んでいる。何かしました?
「真白ちゃん」
百合さんは嬉しげに僕を呼ぶ。要するに僕が敬愛する百合さんの姉……撫子の生き写しであるが故だ。
「ということは其方が」
おっぱいのついたイケメンを見やる。
「ええ。貴方の妹ですよ。白坂真白」
不機嫌な声だった。ついでに姓を間違えている。たしかにこう白坂が居る中では、百墨姓に威力はなかろうけども。
「僕の名前は九十九。白坂九十九。よろしくお願いするよ」
「そりゃどうも」
ヒラヒラと僕は手を振った。
「本当に母親に似ていますね」
「知っておられるので?」
「写真でなら」
それもどうよ。裸の大将か。うちの母親は。
「それでアレなんだけど」
「どれなんだけど?」
「九十九お姉様は瀬野二の新入生と相成りました」
「はあ」
とすると、ほぼ高い確率で十五歳か。年度的には二年下。なのにその御尊貌はイケメンで、思ったより若さを感じない。なんか普通に街中で女子に誘われそうなオトメン力を持っていた。男で在りながら女顔な僕とは正反対だ。撫子って母さんの子どもは因果でも持つのだろうか?
「で、勉強でも教えれば良いので?」
「一応出来るんだけどね~」
白花ちゃんがボンヤリ述べる。そりゃそうか。瀬野二は公立ながら進学校だ。入学した時点で頭の出来は斟酌できる。もちろん僕みたいなポンコツは居るけども。
「兄君」
堅苦しい呼び方だね。
「何でしょうか。ええと……白坂さん?」
「お兄様。さすがに姓呼びだと誰が誰だか分からないと存じますけど~」
「それもそうだね。で、九十九……でいいのかな?」
「ええ。構いませんよ兄君」
何か色んな人間から「兄」呼ばわりされてるなぁ。華黒とルシールと白花ちゃん。黛は「お姉さん」だけど、まぁギリギリチョップ。ソコに来て実妹の「兄君」と来た。別段何がどうのでも無いけど、然程の存在でもございません。
「不躾ながら我が儘を申します」
「受け止めましょうぞ」
フッと視界が赤くなった。音が消え、接触感も消えた。『発症』だ。音はせずとも状況で分かる。頬を叩かれたのだ。いわゆるビンタ。いち早く察知した僕の脳が、発症を促すわけである。
「――――――――」
何かを言っているのだろう。正確には耳が聞こえないんじゃなくて、耳から入ってくる信号を脳がシャットアウトしている――が正しい。その意味で、たしかに聞こえているはずなのだ。理論上はね。唇を読むのも面倒なので、言葉はスルー。九十九は怒り肩で部屋を去って行った。しばらくして発症が収まる。
「大丈夫?」
「さほど深刻な病状でもございません由」
別段命を削る症状でも無い。
「で、何か嫌われているようで?」
「えーと」
「八つ当たりですよ」
百合さんが答えてくれた。白花ちゃんはしどろもどろ。
「八つ当たりって……恨みの捌け口に?」
「そう相成りますか」
頬に手を添えて悩ましそうにする百合さん。年齢がバレるね。
「ほら。真白ちゃんはお姉様によく似ていらっしゃるから」
「写真は見せて貰いましたけど……なんて言うかデッドコピーですよね」
「いや、それ皮肉にしか成ってないよ、お兄様」
そっかな? いやまぁ別にそこを議論してもしょうがなく。
「いつ頃から保護したの?」
「三月の中頃かな? だいたい鏡花水月と悶着したあたり」
「悶着はしてないけど……まぁ振り回されたよね」
「で、九十九お姉様の保護者が亡くなって、遺書通りに白坂の玄関をノックしたって感じかな?」
「保護者って撫子さん?」
「そこは母さんと言ってあげましょうよう」
「実感も無いもので」
ホールドアップ。
「さっきも申した様に撫子伯母様は行方不明です。ただ結果から類推するに?」
「するに?」
コンコンとノックの音。
「お茶をお持ちしました」
四人分。一人分はそのまま、使用人さんが持ち帰る。玉露だった。良いとこの茶を使っているのだろう。愛情はこもってないも、技術の高さが窺える。濡れおかきをパクつく。
「お兄様とは種違いですね」
「まぁそうなるか」
下世話な話だ。でもまぁそうでもなければ現状の理解は能わないわけで。
「本当に撫子さんのお子さんで?」
「DNA鑑定はしております。間違いなく伯母様の子ですよ」
「いやまぁ種まいてほったらかしの男はドラマで見るけど、実らせてほったらかしの女ってのはどうなんだ?」
「どうなんだろう?」
「どうなんでしょう?」
白花ちゃんも百合さんもフォローに回らないらしい。じっさいエクストリームスポーツより危険なことをしている御仁だ。何がソコまでさせるのか。問うて意味は無いのだろう。
「で、なんで僕はビンタされたので?」




