血の支配1
「花は根に、鳥は古巣に帰るなり」
「春のとまりを知る人ぞなき」
スマホをカシカシ。だいたいこんな感じのやり取りは白花ちゃんとだ。最近は何やら忙しそうにしていたけど、時折こうやってメッセを送ってくる。ちなみに華黒の誕生日に会っているので、郷愁を覚えるほど遠いわけでもない。
「で、何か用?」
白花ちゃんとは実の従兄妹だ。僕の身体には白坂の血が流れており、チョイと訳ありで家には帰属していない。百墨の父さんと母さんには義があるし、白花ちゃんが居ればこの際白坂家も安泰だろう。明晰なること星の如しで、幼女でありながらその知性の発露はある意味熟れている。……良いことなのかは別の議論として。
「ちょっと我が家に来てくれないかな?」
「白坂には帰属しないよ?」
「それは知ってるー」
まぁこうやって出会えて二年くらいの付き合いだ。僕のスタンスは嫌でも分かるだろう。いわんや白花ちゃんがゴリ押しすることもない。
「で、要件は?」
「ちょっとした……その……血縁の問題とでも申しましょうぞ」
めずらしくハッキリしない言い方。にしても……ふむ……血縁の問題ね。
「妊娠した?」
「生理もまだだし! だいたいお兄様は抱いてくださらないじゃないですか!」
確かに従兄妹なら結婚できるけどさ。
「僕には華黒が居るモンテクリスト伯」
「その親父ギャグは微妙」
ううむ。あまり惚けないので経験が浅いのが見破られている。周辺区域の人間関係で言えば、たしかに僕はツッコミ役だ。就職面接で何と言おう?
「それで血縁の問題って?」
「お兄様に妹が出来ました」
「まぁ居るけどさ」
「いや、そっちのモグリではなく」
モグリて。いや確かに華黒は義妹だけども。
「ガチ妹です」
「僕の実母は失踪中だよね?」
「ですね。興信所には引き続き調べて貰っていますけど、ちょっと空費も強いかと」
「じゃあなんで実妹が?」
「それを説明するために家に顔を出して欲しいんですけど」
「ではその通りに」
そんな感じでメッセは終わる。
「兄さん兄さん兄さん」
「はいはいはい?」
「私の私の私の兄さん?」
「何がどうで何処でしょ?」
「もう少しで春休みも終わります」
「だねー。堂々と休みも難しいものだ」
とか言いながらも御前は受験勉強に励んでいたわけだけども。とりわけ数学と物理はソレなりに土台が出来ていた。
「ですからデートしましょう」
「あー、無理」
「何故です!?」
「用事」
「女の気配がします」
「然程惚れられてるとも思っておりませなんだ」
「私は当然として、白坂白花、酒奉寺昴、ルシールに黛、ちょっと目につくところでは碓氷さんも危ういですね」
「うーん」
それなりに理由と縁はあるんだけど、そう考えると周りに女子が多いね。僕。よくもまぁ華黒も殺傷事件を起こさない。僕に嫌われたくない一心だろうけど。
「世界で二人だけになれるなら、ハルマゲドンも悪くありませんね」
とは御本人談。要するに世界の破滅より「兄さん」の方が大事なのだろう。気持ちは分かるよ。華黒が死ぬなら、世界なんて同時に滅べば良い。調子に乗るので言葉にはしないんだけど。
「で、誰です?」
「白花ちゃん」
「白坂ですか……」
スッと目が細く切れる。黒真珠の瞳は、爛々と熱をくべていた。
「はい熱くならない」
ナデナデ。プシューと湯気が出る。華黒の頭の天辺から。
「何をしに? 帰順しませんよね?」
「しないよ。百墨の姓が僕の帰るところ」
「では如何?」
「それは……落ち着いたら話す。ちょっとデリケートな話題なので」
「その掣肘だけでも不安を煽るのですけど」
「別に白花ちゃんには発情のしようもないから、そこら辺は心丈夫」
「元より兄さんのヘタレ具合はシンタックスエラーですし」
そこまで!? いや確かにその通りか。こんな可愛い義妹が居るのに手を出してないだけ何だかなぁ。性欲の処理はシャドーボクシング。十八禁系は先日晴れて購入可能になったけど、エロゲー買っても華黒はパソコンに嫉妬するだろう。「そんな妹が居るか!」って言うツッコミどころなんだけど、なにせこちらの義妹は僕が世界の全てだから。
「では私が付いていっても?」
「いけません」
「むぅ」
不満げだろうけど、そこは押さえて貰うしか出来なくて。
「お土産は何が良い?」
「兄さんの使い捨てティッシュ」
たまに華黒が分からない。
「さてそうなると」
ピンポーンと玄関ベル。
「お、来たみたい」
「お兄様~!」
愛らしい幼声が扉越しに聞こえる。
「彼奴がやってきた」
「十三日の金曜日でもあるまいし」
ある種の殺し殺されはあれども。
「忘らるる身をば思はず誓ひてし!」
「人の命の惜しくもあるかな……」
なんちゅー和歌を持ってくる……。
下の句を答える僕も僕だけど。
「では参りましょう。車も控えております由」
「ちなみに車種は?」
「ロータスエリーゼ!」
うーん。なんともはや。
「趣味が良いやら悪いやら」
「日本だと盗まれないから良いよね」
外国で高級車に乗ると、銃を突き付けられて「下りろ」と言われるらしい。そう考えると日本人の平和主義ってどこを端に発するんだろう?
「南無八幡大菩薩」
世の中って不平等に出来てるなぁ。だから上手く回ってるんだろうけど。




