誰しも生まれ6
「お帰りなさいませご主人様」
「……………………」
沈黙。
「………………あと……その……お帰りなさいませ……」
「……………………」
沈黙。
「あれ? 引きました? 失敗ですか?」
クネリ、と首を傾げるエプロンドレス姿の黛。メイドカチューシャが揺れた。
「………………あう……」
恥じらうルシールもエプロンドレス……メイド服だ。
「何処に迷ったの?」
「一応我が家なんですけど」
華黒のツッコミも冴えない。それほどのインパクトは確かにあった。
「というわけで、ご主人様、お嬢様。夕餉の準備は整っております」
我が家の玄関一歩目。そこで僕と妹は硬直していた。ダシの香りが鮮烈だ。後は白醤油の匂いか。お茶漬けのダシを一から造ったらしい。多分黛によるもの。
「えーと」
「はいはい?」
「どこでメイド服を?」
「通販で」
にゃるほど。
「もてなすにはもってこいかと」
いやまぁ確かにインパクトはあるけども。
「ルシール可愛いでしょう?」
「超絶」
「………………ふえ……ふやや……」
毎度の如くルシーる。
「まずはお茶ですね。玉露で宜しかったですか?」
「うん。まぁ」
「お嬢様は如何致しましょう?」
「同じで」
「相承りました」
そんな感じでダイニングへ。テーブル席に座す。ルシールはしきりに恥じらっていた。その純朴さは他の人間には再現能わず。華黒をして敵わないと言わしめるルシール加減であった。華黒も華黒で可愛いんだけど……何というか質が違う。守ってあげたくなるのは両者にあるんだけど、ルシールの方が動物的だ。
「ルシールも思い切ったね」
「………………その……お兄ちゃんと……お姉ちゃんが……喜ぶって……」
「嬉しいよ」
「………………はわ……」
赤面する乙女の愛らしさ。
「またしてもルシールの可愛い側面を発見しましたね」
「そうかもね」
僕と華黒は苦笑い。
「………………ふえ……その……」
プシューと頭から湯気が立ちのぼるルシール。それだけで御飯三杯はイケる。っていうかルシールの可愛さに上限が無い気もしてきた。
「兄さん? 浮気はダメですよ?」
「となるとハーレムか……」
「どこぞの馬鹿みたいな事を言わないでください。私がメイド服を着ますので」
それこそ何ぞだけども。どこぞの馬鹿って昴先輩のことだろうか。
「兄さんがお好きに着飾ってくれて良いんですよ?」
「コスチュームプレイは興味ないかなぁ」
「でもルシールを可愛いって……」
「そりゃルシールは可愛いからね。ルシーるところとか特に最高」
華黒にはない恥じらいがあるから……とまでは言えなかったけども。基本僕はパッシブなので、華黒のアクティブ性の根幹は理解している。けれども太陽と北風も理論としては在り申し。その意味でルシールの攻め方は絶妙だ。
「………………あう……」
ほらね? こういうところが……。
「しかしメイド服ですかぁ」
黛の提供した玉露を一口飲んで、華黒は杜撰な計算をする。何を考えているかも一目瞭然なのでツッコミ能わず。
「それでは夕餉に致しましょう。鯛茶漬けで良かったんですよね?」
「兄さんはそれを望んでいます」
「ダシはルシールが取った一品。贅沢ですよ」
「そなの?」
「………………えと……百パーセント……操り人形……」
要するに指導を受けたのだろう。
「けれどもコレでお姉さんとお姉様はルシールお手製の鯛茶漬けを食べられるようになりました」
ぶきっちょだけど忘れがたいと言うことか。
「ありがと黛」
あと、ご主人様とお嬢様は既に取り止めているらしい。
四人分の丼がテーブルに置かれ、食事と相成る。
「おお」
「美味しいですね」
驚く僕と評する華黒。実際にルシールのダシは美味しかった。ゴマの風味も効いていて、けれども鯛の刺身も旨味が残っている。ワサビがソレらを包み込んでいた。
「良きかな良きかな」
南無南無。
「……………………」
しばらく鯛茶漬けに夢中な僕ら。一心に食べ尽くす。
「ごち」
「そうさまでした」
「………………お粗末様でした……」
ペコリとルシール。
「ではお誕生日ケーキの出番ですね」
ホールケーキだった。果物と生クリームがふんだんに使われている。お店でも開けそうな豪奢さだ。
「コレを二人で?」
「まぁそれなりに。スマホで検索すれば作り方も出てきますし」
所謂ショートケーキ。苺がぽつねんと乗っていた。
「にしても良く造ったね」
「お姉さんとお姉様のためですから。あとルシールのため」
「………………ふえ……?」
「こういうところで押せ押せだよルシール? お姉さんポイントを稼がないと」
「………………ふや……」
ルシーるのは毎度のこと。
「てなわけでお姉さん。ルシールを褒めてやってください」
「ありがとね」
「………………ふやや……」
プシュー。また湯気が立ちのぼる。そのポンコッツ具合は僕の心に響いた。
「天然ですね」
華黒が正解。ルシールは何処まで行っても天然だ。だからまぁ可愛くもあるんだけども。




