誰しも生まれ4
「……………………」
目覚め。時刻は朝。僕はベッドで寝ていた。起きると傍には華黒の顔。とりあえずピンチ力で頬を抓る。
「ふにゃにゃにゃ~!」
華黒はタヌキ寝入りを鮮やかに解いた。
「そうやって隙を見て僕を誘惑するのは楽しい?」
「隙という字が気にかかりませんか?」
「そういう都々逸はいいから。で、朝食は?」
「御飯と納豆。肉厚ベーコンと味噌汁です」
「味噌汁の具材は?」
「白菜です」
「良く出来ました」
華黒の濡れ羽色の髪を撫でる。
「えへへぇ」
本当に嬉しそうに相好を崩す華黒でした。今日は四月二日。僕の誕生日だ。年齢そのものは公式的には昨日上がったわけだけども。ま、どちらにせよめでたいと思って貰えるなら、それは祝福と同義だろう。愛されている。その証左だ。
「とりあえずおはよう」
「おはようございます兄さん」
ルンと弾むような声で華黒は応対した。嬉しいらしい。安いね。僕の妹はさ。
「いただきます」
ダイニングのテーブルに腰掛けると、僕は朝食を開始した。対面で華黒も。しばらく黙々と朝食を取る。美味しかった。家庭の味という奴だ。華黒にしか作れない僕専用の味付け。
「どうでしょう兄さん?」
「とても美味しいよ。また腕を上げたね」
「えへへぇ」
はにかむ華黒の愛らしさ。そこにピンポーンと玄関ベル。
「………………えと……その……」
「お姉さん。お姉様。誕生日おめでとうございます」
ルシールの黛が顔を出してきた。ルシールはいつも通りルシーりっていたけども。
「ありがとね」
「ええ。光栄です」
僕と華黒は率直に応じる。
「それで黛さんとルシールでホールケーキを作ろうと思っているのですけど、ケーキはお好きですか?」
「好きだよ」
「大好きです」
またしても率直に。
「では準備を進めます。なにか欲しい物はありますか?」
「プレゼントは手作りケーキで良いよ。なによりルシールが頑張るだけでも価値が在る」
「ですね。その御意見には私も賛成です」
華黒が珍しくフォローした。ルシールには寛容なのだ。
「ではその通りに」
「………………あう……」
ルシールがルシーるのは毎度のことなのでスルーして。
「じゃゴロゴロしますか」
僕は朝食に戻る。納豆とベーコンの美味しさよ。ソレを包む味噌の香り。
「馳走でした」
「お粗末様でした」
華黒が食器を片付ける。
「ではルシール。お姉さんのハートをキャッチするようなケーキを作りますよ」
「………………うん……頑張る……」
「ルシール?」
食後の紅茶を飲みながら僕は声を掛けた。
「………………お兄ちゃん……?」
「頑張ってね」
「………………えと……うん……頑張ります……」
ルシーるのも毎度のこと。でもその真摯さは敬評できた。
「楽しみにしてる」
それだけで乙女心に火を点けるのもなんだかな。とはいえ頑張れ以外に言える言葉も無いものだけども。華黒が微妙そうな表情をしていた。もちろん愛らしい嫉妬だ。ルシールに対してはあまり過激にもならないので、そこは安心している。華黒だってルシールが可愛いのは認めざるを得ないところだろう。金髪碧眼。西洋のビスクドールのような。とまぁ上段は置いておき、ケーキを作ってくれるなら確かにありがたい。
「お姉さんは十八歳ですか?」
「そう相成るかな?」
「エロゲーが買えますね」
「華黒が許さないけどね」
「お姉様が?」
「だって兄さんの性欲を発散するなら私を使って欲しいんですもの」
それもどうよ? いや華黒にしてみれば真摯な願いなのだろうけど。エロゲーね。たしかにちょっと興味はある。こんなにも美少女に囲まれたって、やれることは少ないのだから。紅茶を一口。嫋やかな香りが心に安寧をもたらす。
「さてそうなると……」
「に・い・さ・ん?」
「デートでもする?」
「だから好きですよ兄さん」
当たりだったらしい。逆算も簡単な四則演算だけども。要するに有り得ない可能性を排除して最後に残った答案が事実。そんなわけだ。
「お姉様は本当にお姉さんが好きなんですね」
「黛もそうでしょう?」
「たしかに。反論の余地もありませなんだ」
苦笑。いや苦笑いか。痛烈そうに黛は笑った。
「………………あう……その……」
ルシーるルシール。こっちも君が好きだと叫びたいらしい。クレイジーフォーユー。
「で、きっと刺されるわけだ」
「兄さんなら面会に来てくれますよね?」
「その騒ぎを起こさない方が建設的だと思うけど」
「無理です」
ソコをコレから調整すべきで、だからすぐには無理だ。時間を掛けてゆっくりと。凝り固まった血栓のような華黒の思考を、どうにか柔軟にせねばならない。そうしないと僕のせいで華黒が死ぬ。焦ってしょうがないのは熟知して、けれども確かにソレは僕の標榜だ。
「南無三」
「何に祈っているので?」
「神仏混合に」
そんな日本人ですとも僕は。
「私たちが十八歳になったら結婚できますよね?」
「結婚資金が無いけどね」
「一応貯金はしておりますけど」
「あー、自分のために使って」
今更言うでも無いけど、華黒の万能性は市場にも影響する。ぶっちゃけ株長者だ。普通なら負ける勝負も、こと華黒に限っては万能の御手。資金は後から後から湧いて出る。
「ですから兄さんは何も考えなくても良いんですよ?」
「そこは今後の摺り合わせに期待とでも言いますか。別にヒモになるつもりもないしね」
「兄さんの意地悪……。愛されて愛したいでしょう?」
ソレとコレとは別問題ですよっ。




