誰しも生まれ3
そんなわけで約束通り、夕方にはアパートに戻ってきた。
「帰らないので?」
「「今夜は……帰りたくない……」」
「あざとく言っているとこ悪いんですけど、死兆星が見えませんか」
天津飯を食べながら僕。今日の夕餉は華黒の手作りではなかった。一流料理人の出張サービス。中華料理店の店長さんにご足労願った。いや、あくまで白坂の家が手配したんだけど。で、僕は天津飯を食べながら酢豚を突っついてる。
華黒のボルテージは刻々と赤みを増していた。炎の赤か。血の赤か。判断が付かないけど、どちらにせよ恐ろしい。大魔神的な意味で。
「だいたいクロちゃんはお兄様を独占しすぎ」
「恋人ですし」
「恋人だしね」
「だから私のハーレムには入れば良いじゃないか」
「却下」
「だね」
鉄壁の兄妹でした。
「大概お兄様もシスコンだよね」
「華黒が可愛すぎるのがいけない。ぶっちゃけちょっと出来過ぎ」
「兄さんには言われたくも申しませんけど……」
「然程の存在じゃ無いよ僕は」
「これですよ」
華黒が流し目で昴先輩と白花ちゃんを見る。
「あー」
「うー」
何を納得しているのかな? 怖くて聞けないけども。
「そもそも僕ってそんなに大層な存在?」
「それはまぁ」
「今更と言うか」
「お兄様は天然です」
そこまで言われる程か。というかなんだかんだでそこら辺の論評は息ぴったりだね。かしまし娘のお三方。
「まこと年齢を重ねるごとに美しくなっていくね真白くんは」
「男らしくなくてコンプレックスなんだけどな」
「第二次性徴は迎えてるのだろう?」
「そりゃまぁ」
「その上でボーイソプラノかい? 人体の不思議はまだ医学の深奥だ」
喧嘩を売られているのだろうか? 少し考えるけど、買ったところで勝てないのも事実。
「お兄様は叔母様に近付きすぎです」
「あー、あの」
一応写真は見せて貰った。僕によく似た……正確には似せた母親。名前は忘れたけど、まぁ何だかな。女顔なので似るも必然か。場合によっては華黒と一緒にナンパを受けるレベルだ。誇らしいとも思えないけども、パーソナル的に皆違って皆良い。
「……………………」
天津飯を食べる。酢豚をもむもむ。
「で、要件がソレだけなら華黒を刺激しないでくれると嬉しいんだけど」
死兆星が見える。
「結局泊まっていくの? 今夜は帰りたくないようだけど」
「兄さん?」
「もちろんジョークの一環」
こんな狭い部屋に二人も受け入れられるか。
「だろうね」
「でしょうね」
お二方も分かってはいるようで。にしても華黒の境界線の見切り方は見事。
「結局天津飯が美味しいでいいのかな?」
「誕生日プレゼントさ。遠慮無く食べていいよ」
「手配したのは私なんですけど」
半眼の白花ちゃん。
「別段可不可を問うなら私にも出来たしね」
サラリと述べる昴先輩。
「さて、ソレでは帰る前に夜伽でも」
スッと昴先輩の右腕が、僕の左頬に添えられた。
「――――――――」
瞬間、華黒のフォークが襲う。スラリと避ける器用な先輩。
「危ない」
「コッチの台詞です!」
こと真白関連になると狭量になるのは華黒の病気だ。僕を失うことを何より畏れるのでしょうがない塩梅ではあれども。僕だって華黒を失いたくない。それは事実の一片で。
「明日は明日の風が吹く、か」
天津飯をハムリ。
「ところで華黒。情動で動くのは止めて」
「兄さんは酒奉寺昴に取って食われて良いのですか?」
「良くないけど、だからってフォークは無いでしょ?」
ちょっとヤンデレ気質な妹さんでした。
「兄さんを狙うなら誰であれ敵です」
そう言うよね。華黒の依存性は昔から変わっていない。治して欲しいのは確かだけど、それだと僕はどうすればいいのか。離れれば華黒の心は壊れる。そうなるように出来ている。これは絶対条件。あるいは前提条件か。僕が居なければ華黒は生きる意味を見失うのだ。それが愛されてるって事の逆説だとしても、出来れば華黒には長生きして欲しい。
「僕は華黒に付き添うから」
「光栄ですけど、では何故酒奉寺昴と白花を家に上げたのです?」
「寛容を覚えるのも人間の美徳かと」
「一緒にお風呂に入ろうね真白くん」
「私とお風呂に入りましょうお兄様」
「コレでもですか?」
華黒の皮肉も痛烈だ。ま、たしかにね。
「それで華黒を追い詰めて楽しいですか?」
「嫉妬して貰いたいんだ」
「単純に邪魔ですよ?」
お二方の言葉も痛烈だ。事ここに至っては、もうどうしようも無かろうぞ。
「兄さんは渡しませんからね」
「華黒くんと一緒に手に入れるつもりだから、離れることは無いよ?」
「それでもです」
「お兄様は白坂の御家に帰順して貰います」
「勝手に放置しておいて」
「今は受け入れの態勢も整っておりますし」
爽やかに白花ちゃんの言う。
「華黒。あまり怒ると脳の血管が切れるよ」
「そしたら兄さんは見捨てますか?」
「有り得ない」
ソレは率直な僕の言葉だった。華黒を心配しないほど非人間ではないつもりだ。僕だって華黒に助けられて生きているのだから。別に華黒が料理や掃除が出来なくとも、実際問題として僕たち兄妹は互いに寄り添う『人』だ。
そこは僕とて見誤らない。
というか見誤った時点で、僕の心も華黒の心も崩壊するのだろう。結果どうなるかは環境次第だけど、別段火中の栗を拾う必要も無い。日常が守られるならばモラトリアムも一興ぞ。
「だから真白くんは素敵だ」
「お兄様の本領発揮ですね」




