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超妹理論  作者: 揚羽常時
三年生一学期編

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323/335

誰しも生まれ3


 そんなわけで約束通り、夕方にはアパートに戻ってきた。


「帰らないので?」


「「今夜は……帰りたくない……」」


「あざとく言っているとこ悪いんですけど、死兆星が見えませんか」


 天津飯を食べながら僕。今日の夕餉は華黒の手作りではなかった。一流料理人の出張サービス。中華料理店の店長さんにご足労願った。いや、あくまで白坂の家が手配したんだけど。で、僕は天津飯を食べながら酢豚を突っついてる。


 華黒のボルテージは刻々と赤みを増していた。炎の赤か。血の赤か。判断が付かないけど、どちらにせよ恐ろしい。大魔神的な意味で。


「だいたいクロちゃんはお兄様を独占しすぎ」


「恋人ですし」


「恋人だしね」


「だから私のハーレムには入れば良いじゃないか」


「却下」


「だね」


 鉄壁の兄妹でした。


「大概お兄様もシスコンだよね」


「華黒が可愛すぎるのがいけない。ぶっちゃけちょっと出来過ぎ」


「兄さんには言われたくも申しませんけど……」


「然程の存在じゃ無いよ僕は」


「これですよ」


 華黒が流し目で昴先輩と白花ちゃんを見る。


「あー」


「うー」


 何を納得しているのかな? 怖くて聞けないけども。


「そもそも僕ってそんなに大層な存在?」


「それはまぁ」


「今更と言うか」


「お兄様は天然です」


 そこまで言われる程か。というかなんだかんだでそこら辺の論評は息ぴったりだね。かしまし娘のお三方。


「まこと年齢を重ねるごとに美しくなっていくね真白くんは」


「男らしくなくてコンプレックスなんだけどな」


「第二次性徴は迎えてるのだろう?」


「そりゃまぁ」


「その上でボーイソプラノかい? 人体の不思議はまだ医学の深奥だ」


 喧嘩を売られているのだろうか? 少し考えるけど、買ったところで勝てないのも事実。


「お兄様は叔母様に近付きすぎです」


「あー、あの」


 一応写真は見せて貰った。僕によく似た……正確には似せた母親。名前は忘れたけど、まぁ何だかな。女顔なので似るも必然か。場合によっては華黒と一緒にナンパを受けるレベルだ。誇らしいとも思えないけども、パーソナル的に皆違って皆良い。


「……………………」


 天津飯を食べる。酢豚をもむもむ。


「で、要件がソレだけなら華黒を刺激しないでくれると嬉しいんだけど」


 死兆星が見える。


「結局泊まっていくの? 今夜は帰りたくないようだけど」


「兄さん?」


「もちろんジョークの一環」


 こんな狭い部屋に二人も受け入れられるか。


「だろうね」


「でしょうね」


 お二方も分かってはいるようで。にしても華黒の境界線の見切り方は見事。


「結局天津飯が美味しいでいいのかな?」


「誕生日プレゼントさ。遠慮無く食べていいよ」


「手配したのは私なんですけど」


 半眼の白花ちゃん。


「別段可不可を問うなら私にも出来たしね」


 サラリと述べる昴先輩。


「さて、ソレでは帰る前に夜伽でも」


 スッと昴先輩の右腕が、僕の左頬に添えられた。


「――――――――」


 瞬間、華黒のフォークが襲う。スラリと避ける器用な先輩。


「危ない」


「コッチの台詞です!」


 こと真白関連になると狭量になるのは華黒の病気だ。僕を失うことを何より畏れるのでしょうがない塩梅ではあれども。僕だって華黒を失いたくない。それは事実の一片で。


「明日は明日の風が吹く、か」


 天津飯をハムリ。


「ところで華黒。情動で動くのは止めて」


「兄さんは酒奉寺昴に取って食われて良いのですか?」


「良くないけど、だからってフォークは無いでしょ?」


 ちょっとヤンデレ気質な妹さんでした。


「兄さんを狙うなら誰であれ敵です」


 そう言うよね。華黒の依存性は昔から変わっていない。治して欲しいのは確かだけど、それだと僕はどうすればいいのか。離れれば華黒の心は壊れる。そうなるように出来ている。これは絶対条件。あるいは前提条件か。僕が居なければ華黒は生きる意味を見失うのだ。それが愛されてるって事の逆説だとしても、出来れば華黒には長生きして欲しい。


「僕は華黒に付き添うから」


「光栄ですけど、では何故酒奉寺昴と白花を家に上げたのです?」


「寛容を覚えるのも人間の美徳かと」


「一緒にお風呂に入ろうね真白くん」


「私とお風呂に入りましょうお兄様」


「コレでもですか?」


 華黒の皮肉も痛烈だ。ま、たしかにね。


「それで華黒を追い詰めて楽しいですか?」


「嫉妬して貰いたいんだ」


「単純に邪魔ですよ?」


 お二方の言葉も痛烈だ。事ここに至っては、もうどうしようも無かろうぞ。


「兄さんは渡しませんからね」


「華黒くんと一緒に手に入れるつもりだから、離れることは無いよ?」


「それでもです」


「お兄様は白坂の御家に帰順して貰います」


「勝手に放置しておいて」


「今は受け入れの態勢も整っておりますし」


 爽やかに白花ちゃんの言う。


「華黒。あまり怒ると脳の血管が切れるよ」


「そしたら兄さんは見捨てますか?」


「有り得ない」


 ソレは率直な僕の言葉だった。華黒を心配しないほど非人間ではないつもりだ。僕だって華黒に助けられて生きているのだから。別に華黒が料理や掃除が出来なくとも、実際問題として僕たち兄妹は互いに寄り添う『人』だ。


 そこは僕とて見誤らない。


 というか見誤った時点で、僕の心も華黒の心も崩壊するのだろう。結果どうなるかは環境次第だけど、別段火中の栗を拾う必要も無い。日常が守られるならばモラトリアムも一興ぞ。


「だから真白くんは素敵だ」


「お兄様の本領発揮ですね」


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