誰しも生まれ2
「というわけでランジェリーショップなんだけど」
なにが、というわけで、なのかは分からないにしても、昴先輩は僕らをそんな謎に直面させる。何故だ。どうしてこうなった。人外魔境も良いところ。ついでに更に混乱は増す。
「石走る垂水の上のさわらびの」
「萌え出づる春になりにけるかも」
普通に下の句を返してくれる幼子を僕は一人しか知らない。最近ちょっと髪を伸ばし始めている幼女……楠木南木ちゃん改め白坂白花ちゃん。
「いつの間に仲良くなったの?」
「政治的にはまだ敵ですけどね~」
サラリと述べる白花ちゃん。うんうんと昴先輩も頷いている。
「で、要件は?」
「二人への誕生日プレゼント」
「はあ」
ぼんやり相槌を打ったのは華黒だった。たしかに華黒には誕生日プレゼントにはなるだろう。ランジェリーショップは下着だらけなので。ついでにオーダーメイドも承っているようで、オートクチュールも思いのままとのこと。
「最近華黒くんの胸も大きくなっているだろう? 下着選びも大変だろうに。デザインとサイズを並列させるなら、オートクチュールが一番だ。高校生の真白くんなど一撃さ」
「本当ですか!?」
「嘘に決まってるでしょ」
ツッコんだのは僕だった。食いつきが凄いので牽制しておく必要がある。
「じゃあお兄様はクロちゃんが地味な下着姿でも良いの?」
「そう言われるとなんだかなぁ」
言質取られそうで怖い。ので、ふんわりと曖昧模糊な返答になる。
「さてでは華黒くん。採寸を済ませてしまおう。君の下着は酒奉寺が責任持って整えてみせるともさ」
「よろしく御願いします」
案外乗り気な華黒でした。下着選びが困難なのは、やはり気になっていたのだろうか? でも僕の場合、口を出しても意味ないしなぁ。
「そんなわけで後は真白くんへのプレゼントだね」
「……………………」
「なんだい? そのジト目は」
「僕に女性用下着をプレゼント……は無しですよ?」
若干警戒しながらそう述べ奉ると、
「君が望むならソレでも良いんだけど……」
案外的外れだったらしい。一考の余地があることはさすがの昴先輩だったけど。
「お兄様」
シャッとカーテンが開いた。試着室の白花ちゃん。ベビードール姿。
「どう?」
「可愛い」
率直かつ本音。
「興奮する?」
「しないかな」
幼女にどうにか為されるほど腐ってもいないつもりだ。華黒は店の奥に案内され採寸中。で、手持ちぶさたの僕は、
「これなんぞどうだろう?」
「それを僕に聞きますか」
昴先輩と白花ちゃんの下着ファッションショーに付き合わされていた。曰く、「これがお兄様への誕生日プレゼントです」だそうで。はた迷惑極まりないと言えば失礼に当たるかも知れないけど、普通にどうかしている。
「これなんかどうでしょう?」
寝間着用の下着だ。
「白花ちゃんはまだ恋もしてないんだから勝負用の下着を選ばなくても」
「恋してますよ?」
「へえ」
ってなもんだ。大体分かるのでサラリとスルー。
「お兄様に恋しています」
畜生。折角スルーしたのに。普通に告白されてしまった。
「気持ちはとても嬉しいけどね」
だからなんだという話で。
「こちらなんかどうだい?」
とはもう一人の加害者。酒奉寺昴先輩。メッシュ状の危うい紅色の下着を身につけている。いろいろと見えそうで見えないギリギリでチョップしそうな感じ。
「君の股間は膨らんだりしないかな」
「機能不全なところがあるので中々に」
思春期男子として思うところはあるけど、やっぱり僕と華黒にとってソッチ方面は心的外傷で。その割に華黒は押してくるけども、それは独占欲故だ。手早く絆を手に入れるための特急券。別に僕も浮気を疑われているわけじゃ無いけど、なんとはなしに思うところもあり。さてそうなると、
「なんだかなぁ」
「真白くん」
「お兄様」
新しい下着姿を見せてくる二人。
「可愛い」
「心がこもっていないよ。もっと喜んでくれてもいいんじゃないかい?」
「殺傷事件が怖いので」
「お兄様は謙虚なのですね」
「君の場合は付き合うだけで条例と憲法と刑法に抵触しそうなんだよね」
世界はロリに厳しい。僕はロリコンではないので心丈夫。
「で、何を為されているので?」
ピシリ。空間がひび割れた。愛しい人の声。振り返れば、ほらそこに。
「華黒くん。採寸は終わったのかな?」
「ええ。デザインの都合も付きましたよ」
ニコリと微笑む。だがその圧は解消されることなく。夢想転生に目覚めたような笑みだった。普通に危険域の臨界ギリギリ。場合によっては血が流れる。
「ふむ。では華黒くんもファッションショーに参加するかい? ここでなら真白くんに下着見られ放題だよ?」
「兄さん?」
「ここであえて悪役を気取れるほど僕は器が大きくないよ?」
巻き込まれたんだからしょうがない。
「では私も」
「そう来なくては」
何がだろう? そんな疑問はランジェリーショップの空気に霧散した。色々と厄介事を持ってくる点に於いて、昴先輩は超一級だ。
「兄さん。これなんかどうでしょう」
「目に毒だから見せないで」
「可憐で愛らしいよ華黒くん」
華黒の下着姿を見られると言うことで、昴先輩も批評側に回っていた。
「では次の下着はコレだね」
なおかつ華黒にオススメの下着を進める始末。どうしたものかの二乗の三乗。
「わお。刺激的」
白花ちゃんも驚いている御様子で。こんなんが誕生日プレゼントって。それもどうだかな。確かに下着姿の華黒に何も思わないではないけど、一応紳士な僕でした。
「お兄様は淡泊ですね」
それが僕の生きる道。別に然程大層なモノではなく、血を見るのが嫌なだけなんだけど。何と申しますか。血を流すのは僕だけでいい。




