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超妹理論  作者: 揚羽常時
三年生一学期編

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毎度と言えば毎度の事で6


「にゃむ」


 花見も終えて夕飯頃。今日はお勉強の時間。いや受験勉強ではなく花嫁修業。


「楽しみだなぁ」


 ルシールお手製にカレーが食べられるらしい。


「お姉さん。お茶のお代わりは?」


「いただこう」


「お姉様も是非に」


「ええ。いただきます」


 サラリと紅茶を淹れて差し出してくる。その香りの芳醇なこと。とても素人芸とは思えない香り高さだった。


「………………えと……あう……黛ちゃん……」


「さっさーい。なにか分からないことでも?」


「………………野菜と肉と……どっちから先に――」


 そんな感じ。前途多難ですな。


「それにしても花見は楽しかったね」


「兄さんが喜んでくれたなら、やった甲斐もありますね」


「お弁当も美味しかったし」


「光栄ですよ」


 ちなみに時間は夕飯時で、場所はルシールと黛の部屋。2DKの間取りのダイニングに僕ら兄妹は居る。紅茶を飲みながら。だいたい夕飯頃になると、どちらかの二人がどちらかの二人の部屋に押しかけ、結果として四人で食事を取るのはパターンになっていた。


 黛による華黒との距離の取り方は絶妙で、普段はパーソナルスペースを見切っているのに、時に僕を弄惑して間接的に挑発したりしなかったり。刺されてからじゃ遅いと思うんだけど……そこの判断は人ぞれぞれか。


 で、中略。


「いただきます」


 パンと一拍。食事だ。ルシール特製愛妻カレー。ちなみに米を炊いたのは黛だったりして。最近の流行りから真っ向で体当たりの、どろどろなカレー。バターチキンらしい。


「うーむ。デリシャス」


「………………美味しい……ですか……?」


「美味しいです!」


 黛が元気よく答えた。コヤツの場合ルシール補正がかかるので、ソコを差し引いて考えるべきだろう。


「美味しいよ。本当に。お嫁さんにしたいくらい」


「兄さん!?」


「何か?」


「浮気ですか!?」


「冗談の一つくらい叩かせてよ」


「心臓に悪いです。ついでに意識的にも。死体を消すのにだって労力は要るんですから」


「………………あう……」


 ルシールは完全にドン引きだ。華黒の言葉が嘘偽りなし。ソレを機敏に覚ったのだろう。さすがの小動物。怯えて暮らすウサギのような。発情はまぁしないけども。


「でも美味しいでしょ?」


「ええ。美味しいですよ」


「………………ふや……」


 照れ照れと赤面。ぐうかわ。抱きしめたいけど、背中を刺されるのも嫌なので自重。この辺の塩梅がね~。華黒には本妻の余裕が欲しいところ。いや、華黒にとっての僕が、華黒以外に意識を向けることそのものが彼女の精神を不安定にするんだけど。そこは『彼奴』が述べた様に、「僕にとって華黒は添え物だけど絶対必要条件で無く、華黒にとっての僕が絶対必要条件である」ことに起因する。僕は華黒を切り捨てる可能性はあっても、その逆は無い。そう皮肉られたことがあった。実際否定できない側面も有る。


「とはいえ」


 カレーをハムリ。僕だって華黒に何も想わないと思ったならソレは大間違いだ。ぶっちゃけアレは一種の究極。美少女という概念の完成形。普通に有り得ざる天衣無縫ですらある。言い過ぎだと言える人間はまだ華黒を見たことの無い連中だけだろう。


「ふむ。またしてもデリシャス」


 華黒の瞳に乾杯。完敗?


「で、まぁタマネギが溶け込むまでカレーを煮込んだのはとても良いと思う」


「………………黛ちゃんが……そうしろって……」


 妥当な判断だね。家庭のカレーにはタマネギ必須。うちの愛妹なんて大げさなくらい入れる。しかもその全てをルーに溶かしきる。辛くもコクのあるカレーは、そうやって産声を上げるのだった。表現の善し悪しはともあれ。


「うーん。こうなると僕だけ料理できない系?」


「兄さんの身体を造る料理は私が作ります由」


「いま普通にルシールの料理を食べてるんだけど」


「兄さん居ればこそ世界と向き合えるんですよ?」


「…………っ……そうだったね」


 いつも一緒。寄り添って世界を見せる。華黒を一人ぼっちにさせない。隣で支えて、一緒に優しくなかった世界の無明から幸せを捜す旅。僕らの契約はそんなところだ。


「お姉様の愛が重すぎる……」


 戦慄する黛。そりゃま普段の言動からしてアレだし彼女も認識はしているのだろうけども、改めて深淵を覗いた気分なのだろう。


 一応、後輩二人は僕らのバックボーンを知らない。耳汚しになるので知らせる必要も無かった。ぶっちゃけ童貞であっても処女ではないわけで。そこら辺を話すには、どうにも不細工な空気を造ってしまう。沈黙は金だ。雄弁は銀。


「で、華黒としてはルシールのカレーは何点?」


「百一点」


「何点満点で?」


「もちろん百点満点で」


「おお。高得点ですよルシール」


 黛は我が事のように嬉しいらしい。


「………………ありがとうございます……」


 ペコッと彼女の頭下げ。


「技術面での点数は秘匿しますけど、真摯さと愛情も加点されておりますので」


 つまり技術面で言えば百点には届かないわけだ。家庭料理で百点取る必要も無いわけだけども。とはいえ華黒の舌は鋭敏なので、根拠としては一定の説得力を持つ。


 カレーをハムリ。


「にしても進歩の跡が顕著だね」


「………………えへ……」


 このはにかむ様に笑う様よ。いったい何に例ふべき。


「兄さん」


「何でございましょ?」


「ルシールばっかりズルいです」


 いつもは君の食事をとってるでしょ。テセウスの船の問題なら、たしかに悩みどころかも知れないけども、もうちょっと寛容にならんかな。我が家の愛妹は。


「お姉さんがもう一人いればいいのに……」


 こんな面倒な奴が二人も三人もいてたまるか。華黒がストレスで胃潰瘍になる。


「いえ。片方をお姉様に託して、もう片方は黛さんとルシールで……」


「大却下」


 ここら辺の偏狭は華黒の得意とするところ。僕の唾液にすら値段を付ける有様だ。まぁ僕がツッコミ役なので何とか成り立っているモノの。


「兄さんが二人居れば文字通り嬲られますね」


 男女男で嬲る。ちなみに僕の意見は? 聞いても無駄だろうけども。


「お姉様にも寛容を欲します」


「こと兄さん市場では、決定権を手放すほど株式を垂れ流したりはしませんよ」


 そんなわけで諦めて。こうなるとこの子は一歩も引かないから。南無。


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