毎度と言えば毎度の事で4
「うーん。デリシャス」
花見もそこそこに弁当食べて、春の日差しに微睡んで、僕は華黒に膝枕をされていた。ついでにブルーシートの上。
「幸せですねぇ」
「偏に春のおかげだね」
「兄さんのおかげです」
「なら華黒のおかげだ」
「えへへ」
そうやって純情を気取ればもっと親しみやすくもなるモノの。僕と付き合っている事実は別としても、華黒の評判は学内では高い。猫かぶりは覚えた技術で、ついでにルシールと黛が揃って引くレベル。僕のせいではあろうけど、安易な自己否定は華黒の暴走を招くので、口にしないことにしている。
「しかしまぁさてそうなると……」
「へや!」
「………………はわわや……」
弁当を食べて腹をくちくし、此処まで来て携帯ゲームもなんだから、後輩二人はキャッチボールをしていた。ルシールは頭こそ良いのに身体の機能が追いつかず、振り回されてもいるようで、そういうところは加点対象。本当に小動物だ。萌え。
「こんな時間が何時までも続けば良いのに」
「きっと続きますよ。兄さんが私を愛してくれる限り」
だったらいいけどね。好きだよ華黒。言葉に出したりしないけども。
「にしても温かい春の日差しのことよ」
「和ですよねぇ」
「ついでに華黒の太ももは良い感触」
「いつでも使ってくれて構いませんからね?」
「要熟考」
「Iのままに我が儘に」
「僕は君だけを見つめても良い物か?」
「誰の許可が要るんです?」
「うーんと……心に住んでいる閻魔様の裁定かな?」
「この際、殊更に言い訳を探さなくとも宜しいのでは?」
「ではどうしろと。やっぱダメ。却下」
「何も言ってませんよぅ……」
「受験前に妊娠なんてしたくないでしょ?」
「ぐ」
そこは計算高い華黒。背景まで合算して状況を把握できる明晰さは持っていた。
「大学に入ったらいっぱいしましょうね?」
「さて。明日は明日の風が吹く」
「兄さ~ん……」
僕の髪をクシャッと撫でる。いいんだけども。
「父さんと母さんにまで迷惑が及ぶからなぁ」
「孫の顔を見たらはしゃぐと思いますよ?」
うん。容易に想像が付く。となれば両親は華黒を弁護するのだろうか? でもなぁ。大学生活で妊娠ってのも何だかなぁ……ではあって。
「ま、太ももで我慢しますよ」
「すまt――」
「――却下。しません。断固として」
「せめて最後まで言わせてください」
「神様は何時も見ていらっしゃいますよ?」
「だったら万事何処でも露出プレイですね。首輪でもつけましょうか? 兄さんがリードを握ってくれるなら、如何なプレイも容認しますよ」
「華黒はいったい僕を何だと思っているのだろう?」
モノローグで想起すべきだろうけど、あえて言葉にした。
「愛しい愛しい兄さんです」
そこまでわかって尚? いやまぁ平常運転といえばその通りではあるんだけど。
「てりゃ」
「………………はぅわ……」
後輩二人はキャッチボール。
「元気ですねぇ」
「華黒が言う?」
「私だって元気で良いじゃないですか。若いんだし」
「若いっていうか幼いよね」
「兄さんが老け込みすぎなんです」
そんなつもりもござらんが。
「元より兄さんは大所高所から物事を俯瞰しすぎです」
そりゃだって世界は怖いし。それだけは誓って華黒の特権ではない。僕には僕の処世術が在る。観念とかアイデンティティの問題で。
「だから愛してあげたいんですよ」
「アイライクユー」
「一応恋人同士ですよね?」
「レッテルとしてはその通り」
「良いことしたくないんですか?」
「超したい」
ソコは間違いなく僕も男子だった。
「だいたい華黒の身体はメリハリが利きすぎている」
「愛在ればこそ……ですね」
そんなもので華黒が出来るなら、世の中に苦労は無いわけで。
結局なんなのか?
「もしかして僕って恋人甲斐が無かったりする?」
「どうでしょう。不満は覚えますけど……約束を忘れたりはしませんよ?」
――華黒の手を取って世界を見る。ソレさえ叶わなければ、華黒の隣で死ぬ。確かにそう契約した。そうしなければ僕は僕で居られなかっただろう。
「それが華黒を追い詰めてるの?」
「嬉しい悲鳴という奴です」
和やかに笑う愛妹よ。咲く花の趣きは確かに華黒。黒く……淀んで……けれど華。ブラックローズは不可能の証左。あらゆる不条理の圧縮だ。
「兄さんはヘタレです」
「純情と言い直してくださいませ。っていうか華黒だって『そういうこと』は怖いくせに」
「ま、私たちの場合は過去が過去ですし」
「そうだね。だから華黒だけが僕を愛せる。華黒だけが僕を守れる」
「逆ですよ。兄さんだけが私を守れるんです。私は兄さんを守り切れなかった」
「そっかな? でも現にこうやって幸せだし」
「兄さんが魔法を解いてくれたおかげですよ」
「魔法……ね」
「愛していますよ兄さん。ソレはもう存分に」
「結局其処に集約されるんだよねぇ」
「だって運命の人で白馬の王子様ですよ?」
「飼育委員か」
オンマカシリエイジリベイソワカ。
「お姉さ~ん」
はいはい?
「お姉様の太ももの感触は?」
「最高です」
グッとサムズアップ。
「次はキャッチボールしましょうよ~」
構いやしませんけどね。ルシールのルシール加減も大概だろうし。




